91話取らぬ狸の皮算用

白鷺加奈は自分の立てた計画がうまく行っていない事に苛立ちを感じていた。


「まあ、そんなにカリカリするなって」


「今回のは最悪だわ。塾生が逮捕なんてイメージダウンにしかならないでしょ。ただでさえ塾生は減ってるのに」


服部の言葉に苛立った気持ちのままそんな言葉を返した。


最初こそ生徒数もそこそこで上手くいっている様に見えた夕暮れ塾だが、更新する生徒は月毎に減り、追加の生徒も少ない。


当初の計画では、自分達を引退発表があったゼロだと勘違いさせて、塾生を募り、集まった生徒がまた生徒を呼んでくるはずだった。


自分達の事は内緒だと言っても人の口に戸は立てられないのだから、塾生が勝手にここだけの話。と噂を流して俺もゼロに教えてもらいたいと言った追加の生徒が出てくるはずだった。



しかし現実には噂は噂程度の物で、成長を感じられないと更新せずに退塾する生徒も少なくない。


私達が低ランクの時は先輩に魔石を取られながらでも上を目指して頑張ったのに最近の若いのは根性がない。


まず、この計画の欠点がゼロと言うネームバリューに頼りっきりなのだが、自分の計画は完璧だと信じたいばかりにそこを見て見ぬふりする白鷺は気づかない。


そもそも、初めははったりゼロの名前で生徒が集まったとしても、にわか仕込みの教育方法で成果が出なければ、口コミで集客できるわけもない。詐欺を隠す事に関しての計画は練られているが、内容がスカスカなのだ。


そもそも、夕暮れ塾の教育方法は詐欺を隠す為に魔石を与えないと言う物。

そうなれば受講者は受講していない周りの冒険者に先に行かれて不信感が募り、離れていく。

日本最強と言っても教えるのが上手いわけではないのか。と言って。

なんなら「俺は昔あのゼロの指導を受けた事があるんだぜ」なんて言えば箔が付くので一月で十分とも言える。


結局、スポーツの指導で水を与えない指導がデメリットしか無く廃れて行った様に、魔石を与えない根性論も現実的では無かったのだ。


「こんな様子じゃ、稼ぐ事なんてできないわよ」


白鷺の言葉に服部と丹羽も押し黙った。

初月は良かった物の、今では自分達が冒険者として活動していた頃と同じくらいしか稼いでいない。

このまま減り続ければ冒険者時代を割ってしまう可能性のが高いのだ。


そんな時、3人にとっての朗報が入って来た。

塾生の1人から、京都の旧家から指名依頼を受けて欲しいと伝言を貰ったのだ。

場合によっては召し抱えられるかも知れない。


ゼロのネームバリューは思っても見ない所から幸運を手繰り寄せたのだ。


3人は二つ返事で了解する事を伝えると、塾生に仲介を頼んだのだった。




話が来てから3日後。服部達3人は呼び出しを受けて土御門邸まで来ていた。

趣のある大きな屋敷が旧家である事を印象付ける。


通された部屋で待っていると、大学生位の青年が部屋へと入って来た。


「貴様らが例の冒険者か」


その物言いに服部達はイラッとしたが、今後の為に営業スマイルで対応する事に決めていた。


「はい。お呼び出しにより参上致しました」


代表して服部が答える。


「今日呼び出したのは貴様らにやってもらいたい事があってな」


対面に座る青年から写真が投げられると机の上を滑って服部達の前で止まる。


「その男をボコボコにして貰いたい。そしてそいつの前でその女を俺の物にしたいのだ。報酬は300でどうだ?」


「えっと、この男はいったい?」


「俺に楯突きよったのだよ。冒険者になりたてでちょっと強くなったからと言ってな」


どう聞いても、アングラな依頼だった。

しかし、旧家と言うだけあって権力は有るのだろうし、政治家がギルドと癒着していろいろな事を揉み消したと言う噂も聞く。

この依頼の結果何が起ころうとも揉み消してもらえると言う事だろう。そうでなければこの様な依頼はして来ないはず。


「冒険者に成り立てであれば造作もない事でしょう。成功の暁には期待しても?」


「分かっておる。悪いようにはせん」


これはそう言う事だろう。自分達のいい様に進んでいる。


「それでは、お受けいたしましょう。お名前を伺っても?」


「おう、そうか。土御門五行だ。頼んだぞ、最強の冒険者よ」


各々が自分の都合のいい未来を想像して、部屋の中にいやらしい笑いが響いたのだった。





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