芸術家の端くれなんですよね

 ピラミッド型を貸してくれたサークル仲間の茉莉さんは、自分でもオルゴナイトを制作してハンドメイド作品の出品アプリで販売しているそうだ。


 『ハスミンの魔女工房』なるショップ名で、オルゴナイトや、おとぎ話の中に出てきそうな魔法使いの短い杖や魔法薬の瓶を模したペンダント、ピアスといったアクセサリー類を販売している。

 彼女はアクセサリー制作サークルの古参メンバーのひとりだが、これまでは主催者の講師義明や他のメンバーたちが自作品を販売しているのを、見ているだけで自分自身は気遅れしてやっていなかった。


「カレンちゃんがバリバリ頑張ってるの見て、あたしも触発されたのよう」

「わあ……オルゴナイトのペンダントヘッド、パールと組み合わせるとゴージャスですねえ!」


 ハンドメイド、手作りアクセサリーで使う真珠パールは模造真珠が多い。綿を圧縮した球の表面にパール塗料を塗布したコットンパールなどは代表的なものだ。

 だが茉莉の作っているアクセサリー類は。


「淡水パールですね。金具も18金やプラチナが有る……」

「んっふふふふ……オーダー物は金具は貴金属、レジンに封入する鉱物も貴石を使ってるのよ。ショップに出品してるのは若い人向けの手頃なやつ。オーダーは一品もの」

「そっかあ。そういうやり方もありますよね」


 薄利多売の廉価なアクセサリーと、オーダーメイドの高価な作品を作り分けているわけだ。

 お高いほうは見た目もキラキラしていて美しい。Instagramに上げたら速攻で1000はいいねが付きそうだ。


「そこそこ固定客が付くと、後はファンの皆さんが作るたびに買ってくれるの。そろそろあたし、旦那とハワイ行ってくるわー♪」


 それもビジネスシートでだそうな。


「本格的なアクセサリー……」


 近年、AI技術による作画と3Dプリンタの台頭で、実はアート系のクリエイター分野は激震が走っている。

 独自性のある作品を作っても、すぐパソコンでAIに解析させて、即3Dプリンタで模倣コピーが可能な時代になってしまったのだ。


「ものづくりって難しいですよね……」


 ズバリ、政府のものづくり補助金などもあって、カレンの地元の自治体でも実施している。だが案外使いにくくて利用には二の足を踏んでいた。趣味や、趣味からちょっと進んだ程度だと難しい。


「あら、こだわりは芸術アートで追求しましょ。上手くやれば結婚して専業主婦になってもまあまあ食べていけるわよ?」

「うっ。それは魅力的!」


 でもカレンはこれまでの感触だと、さほど芸術的な作品を作れるタイプではない。

 既存にあるものを上手くアレンジするのが得意なだけだ。


 改めてスマホで茉莉のショップの作品写真ギャラリーを見た。

 うっとりするほど繊細で可憐なアクセサリーの数々だ。


「あたしも茉莉さんみたいに素敵な作品作れたらなあ」

「ふふふ。本格レジンアートの沼へようこそ~」




『できるかできないかは、まだわからない。

 でも、アートとしてどこまでの作品が作れるか常にチャレンジしていきたいとは思っている。』



 そんなツイートをその日の夜、独りアパートで晩酌しながらTwitterに流したところ、いいねは600、リツイートはその半分。

 普段から会話してるフォロワーたちからは次々と応援と励ましのリプが来た。


 そのツイートで茉莉の作品のショップアドレスを入れていたのだが、翌朝までに彼女のそう多いわけではないショップ作品はほぼ完売し、オーダー注文が数件。嬉しい悲鳴をあげることになったと電話が来た。


 カレンの、クラウドファンディングの活動報告用のTwitterアカウントのフォロワー数は現時点で6000弱。

 たまにツイートがプチバズるたびに数百ずつ増えている。


「うん。フォロワー数一万をまずは目指してみようかな」


 しかし、そう目標を立てて気合いを入れると、なぜか上手くいかない。

 カレンの場合はゆる~く適当に力を抜いて、思いつきで進めていくのが良いのかもしれなかった。



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