もうあたしのライフはゼロよ……

 その日の夜、総務の女性課長からメッセージアプリにメッセージが入った。

 会社を辞す前にアドレス交換をしていたのだ。

 もちろん会社側はカレンのケータイも自宅固定電話も知っているが、メッセージアプリ経由だと手軽でいい。


 総務課長から何と、警察が来てから専務を交えての話し合いから、クビと告知されて会議室を出るまでの録音音声が送られてきてカレンはビックリした。



『今回の件は不当解雇ですから、会社に慰謝料の請求をするなら弁護士に音声データを提出してください』



 他、解雇予告が労働法に定められた30日前どころか当日だったので、解雇予告手当として一ヶ月分が支払われるとのこと。



『それに、青山さんは専務にクビと言われても、納得した旨の返事をしてませんよね? 咄嗟で反応できなかったのだと思いますが、今回は幸いでした』




 その後、この総務の女性課長と少し、直接電話で話した。


 それで判明したのが、総務の女性課長、そして男性部長も縁故社員だったという事実だ。

 ただ、クソ上司の飴田課長みたいなタイプは彼らからしても苦々しく思っているという。



『前回までは、私たちも見て見ぬふりすることが多かったんです。でも、もう私たちも臭い物に蓋をするのはやめたいと思いました』


「……今回はあたしも助かりました。その決断に感謝します」



 カレン以前の首にされてしまった女性たちのことを思う。

 女性課長がこう言うということは、彼女たちは被害者を見捨ててしまったということだ。


(あたしは運が良かったのかな。でも新卒で入社した会社をクビにされるなんて、キャリアにとってマイナス要素だわ……あー気が重い)




 その日はもうカレンは何もする気になれなくて、簡単に家にあったカップ麺だけ食べて、シャワーを浴びて早いうちに寝た。


「田舎の家族や友人知人への連絡は明日ね……」


 愚痴を聞いてくれた元同級生のセイジや、レジンアクセサリーの会の人々にも随分と心配をかけてしまっている。


 彼らに送るメッセージの内容を考えながら、布団の中でカレンの意識はスイッチが切れるように落ちていった。


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