▽残り五日
地球が今日を入れて五日後に終わると云うのに、朝は当然のように来る。当然のように太陽が上がり、沈んでいく。風が吹くこともあれば、雨が降ることもある。地球はあくまで機械的だ。
時間も爾り。どれだけ待ってくれと思っても、時間は残酷な程一定に過ぎていく。どれだけ早く進めと思っても、時間はいつまでも一定だ。
今日を入れて残り五日を、短く感じるか長く感じるか。それは人によって変わるに違いない。世界を恨み、早く終われと願っている物にとっては長く感じられるだろう。
しかし、僕は短いと感じている。白狐と一緒にいれるのが、あと五日しかない。そう思うと悲しくなってくる。そのことを考えると、毎回こう思う。
何でこんな世界になってから出会ったんだ?
そして、こう諦める。
神は意地悪だ。
これの繰り返しだ。
過去は変えられなくとも未来は変えられる。それは嘘だ。必ず未来には選択肢がある。選択肢以外――その他なんて物はない。
だが、今は状況が変わった。この世界になってから、選択肢は全てなくなった。もし選択肢があるとするならば、全部『死ぬ』だろう。
僕は選択肢のなくなった世界で自由に生きている。だから今、こうして車の中で目が覚めた。
上半身を起こして後ろを見ると――白狐がいなかった。
驚きで完全に目が覚めた。さらに、右腕をハンドルにぶつけてもの凄く痛い。焦りは禁物だ、落ち着け。
痛む右腕を押さえつつ、車内を確認し、そして外を見る。
白狐は外で背伸びをしていた。昨日とは違い、ちゃんと起きているようだ。
ドアを静かに開ける必要はないので、普通に開ける。ドアが開く音に気が付いたのか、白狐が振り返った。
「夜ト、おっはー」
「おはよ」
白狐と並んで一緒に背伸びをしてみる。今気が付いたが、僕の方が少しだけ身長が高いらしい。
「……僕の方が身長高いんだね」
「何? チビって云いたいの?」
「まあ、僕のタイプは身長が自分より小さい人だけど」
「あ、夜トってタイプが決まってる人? それとも好きな人がタイプって人?」
恐ろしい程真顔で云う。「白狐がタイプ」
白狐は爆笑した。「よくそんなことが真顔で云えるね」
「だって白狐のこと好きだし」
「やめてくれよ、好きになっちまうじゃねえか」
急になまったような口調で云ってきたので笑ってしまった。
「何で笑ってんだよ」
白狐のなまりをまねて云う。「こんな変な口調で云われたら笑っちまったじゃねえか」
「さようでございますか」
「さようでございまする」
そこから言葉が続かなくなって、なんとなく気まずい雰囲気になったので、誤魔化すようにもう一度のびをした。白狐も、もう一度のびをしている。「今日は私の家、行くんだろ」
「そうだね」
「それなりの覚悟をしておけ。ふはははは!」
「……頭狂った?」
「そこは笑ってほしかったな」
「え、すまん」
車に戻る。
「白狐の家ってここからどうやって行けばいいんだ?」
「ええと、まずこの道戻って」
「了解」
バックして、Uターンが出来るスペースを確保してからアクセルを踏み込み、ハンドルを左に切る。Uターンが済むと、一気にアクセルを踏み込む。昨日のことで慣れたのか、白狐はスピードについて特に何も云わなかった。
田んぼだらけの道を抜け、ちょっとした住宅街に入る。
「この道をまーっすぐ行って」
「まっすぐってどれくらいの距離?」
「分かんないけど、短くはない」
「ああ、そう」
住宅街を走る。平屋が多く、先代から受け継いだような町並みだ。当然人間はいないので、生活の痕跡は全くない。
まっすぐと白狐は云った。慥かに住宅街の中の一本道なのだが、物理的にまっすぐじゃない。家を建てるときに何も考えずに立てたのか、家と家の間を探して道を作りました感満載だ。まっすぐだと思えば少し緩やかなカーブに入り、そこを抜けると突き当たりで九〇度右に曲がって今度は左に直角に曲がることになる。
あの湖に向かうまでの林道のように、不要に蛇行している。
途中で目に入った家がある。その家の駐車場に、何やら黒い塊があったからだ。通り過ぎがてら見てみると、それは黒猫の集団だった。何故か、黒色の猫だけが集まって押しくらまんじゅうをしていた。
あの猫たちは世界が終わることを知っていて、あんなことをやっているのだろうか。
閉じたまま動かなくなっている踏切を壊して通る。
「うわぁ、大胆」
「逆にどうやって進めって云うん? 待ってても開かないぜ」
「降りて手で上げるとか、色々あるじゃん」
「じゃあ、白狐やってもらえる?」
「うわぁ、女子に肉体労働をさせる気か」
「ほら、男女平等って、ね?」
踏切をどうにか通り過ぎ、再び住宅街を走る。
周りの家々は、平屋から二階建ての家に変わってきていた。と思えば、一軒一軒の敷地――つまり庭が広い家々が連なる住宅街になってきた。進めば進む程金持ちの領域に入っていくらしい。
不意に、母が死ぬ一日前に云った言葉を思い出した。
――お金は人を狂わすの。だから、必要以上に持ってだめ。
あの時は意味が分からなかったが、今なら分かる気がする。口で説明しろ、と云われると難しいが。
一軒一軒が博物館のように見える程広くなってきた。一体土地代はいくらなんだろうか。そんなことを考えるのは貧乏くさいと分かっているのだが、どうしても考えてしまう。
「止めて」
「あ、はい」
車を止める。
「ここが、私の家」
白狐が指さした家を見る。
その家は、まるで城跡だった。隣にある家の敷地も十分広いのに、それより一回り、いや二回り程広かった。第一、庭が広くて玄関に着くまでが長そうだ。
白狐は「待ってて」と云うと車を降り、家の門を開けて戻ってきた。
「歩いて行くのは面倒だから、車で入っちゃって」
やはり玄関に着くまでの道のりが長いらしい。少し緊張しながら、白狐の家の庭に入った。
白狐の云った言葉がよみがえる。
『丸く整えられた木、剪定された木、薬品によって色を変えられた花、道に沿うように植えられた花、生きる場所を奪われる雑草』
慥かに、白狐の家の庭はその通りだった。もちろん、少なくとも一ヶ月以上は放置されているので完璧な形ではないが。
玄関の前に車を止める。玄関はまるで城だった。
「ゲームで勇者が王様に合いに行くときの描写にそっくり」
「訳分からん」
白狐がドアを開ける。中は少し広めの玄関だった。白狐は靴のまま上がり、正面にあるドアを開けた。
そこにあったのは、まるで体育館のような空間だった。広々とした空間の真ん中に大きなテーブルと、大量の椅子が置いてあった。
「リアルお城か」
「ここは、お得意様とかそう云う人たちで集まってパーティーとかするところ」
「何でそんなところがあるんだか」
「さあ、私に聞かないでよ」
「て云うか、土足でいいの?」
「どうせ消えるんだし、いいでしょ」
「それもそうか」
僕も同じように土足で上がる。目の前のホールに繋がるドアの他に、左右に一つずつ扉があった。
「こんな広いところで何かしたいことある?」
「ない」
「じゃあ上行こっか」
白狐は左側のドアを開けた。中には階段があって、そこを登る。左右の壁にはゴッホやピカソの絵が飾られていた。何で金持ちは絵を飾りたがるんだろうか。
二階に着くと、白狐が云った。「夜ト、ミステリが好きなんだよね」
急に何だ、と思ったが素直に答える。
「そうだけど」
「うちのおじいちゃんが大のミステリ好きで。おじいちゃんの部屋に行けばいろんな本あるけど、どうする?」
ミステリ好きに取って、答えは一つしかなかった。
「行く」
白狐に案内されて行った部屋は、壁が本で出来ているのではと思う程本で溢れていた。それもミステリの本に。僕はまるで子供のように目を輝かせた。
「好きなだけどうぞ」
そう云って白狐は部屋から出て行こうとして、出る前に「隣の部屋、お父さんの部屋なんだけどそっちにも本があるよ!」と云った。
だが、僕の耳にそんな声は届いていなかった。
本棚に並んだ本は、日本人作家のあれば海外の作家の本もあった。
綾辻行人、我孫子武丸、有栖川有栖、京極夏彦……。
エラリー・クイーン、エドガー・アラン・ポー……。
ミステリ好きなら一度は読みたい本がズラーッと並んでいた。天国だ。
定番中の定番だが、まだ読んだことのなかったエラリー・クイーンの『Xの悲劇』を手に取る。
――これが……あの……!
壁際にちょこんと机が置いてあった。椅子を引き、そこに座って肘を置きながら本を開いた。
が、その時、机の上に置いてある封筒が目に入った。白狐はこの部屋がおじいちゃんの部屋だと云っていたから、白狐のおじいさんの物だろう。
普通なら放っておくのに、何故かそれが無性に気になった。体がそれを見てはならないと云っていた。が、心は見たい! と叫んでいる。
見るな! 見たい! 見るな! 見たい!
心の中で二つの感情がぶつかり合う。
見るな! 見たい! 見たい! 見たい!
見たいと云う感情が見るなを消した。
Xの悲劇を一旦置き、その封筒を手に持つ。中には何やら紙のような物が入っている。のり付けはされていなかったので、封筒をひっくり返して中の物を取り出した。
それは写真だった。
それを見た僕は心臓が止まりそうになった。
その写真には母がいた。死んだ母が写っていた。死んだ母の裸体が写されていた。裸体の母が犯されているところが写されていた。
何でここにこんな写真があるんだ?
母は何をしていた? 白狐のおじいさんは母に何をしていた? この写真は何だ? これは何だ?
写真は何枚もあったが、母が若い頃の写真だけで最近のものはなかった。
写っている男は若くなく、老人に見えた。
母が犯されている。老人が写っている。この部屋は白狐のおじいさんの部屋だ。
僕は嫌な予感がして、隣の部屋――白狐の父親の部屋に行った。
何も考えずに、白狐の父親の机を漁った。そして、似たような封筒があった。
封筒をひっくり返すなんてことはせず、思いっきり引き裂いた。
思っていたとおり中は写真で、さっきよりも若い男が母を犯していた。そして、写真に写っている母は比較的最近の――死ぬ直前の母だった。
答えは一つしか思いつかない。
おばあちゃんが金を借りたのは、白狐のおじいさんか父親からだった。
母を死に追いやったのは、白狐のおじいさんと父親だった。そして、僕はその血筋の女と一緒に行動していた。
母を死に追いやったくそ野郎の血筋と、ここまで一緒に行動していた。
母を死に追いやったくそ野郎の家にいる。
母を死に追いやったくそ野郎の血筋の女を好きになっていた。
僕は何をしているんだ?
目に入る物全てが汚らわしく見えた。いや、実際汚らわしい。母を死に追いやったくそ野郎が使っていた部屋、使っていた机、読んでいた本……。全てが汚らわしい。
急に強烈な目眩がした。足がふらつき、倒れる。
意識が遠のいていく。
照明の明かりが目を差した。
「夜ト! やっと起きた。よかった、びっくりしたよ」
叫びそうになった。母を死に追いやったくそ野郎の血筋の女が隣にいた。
寝かされていたベッドから飛び起きる。待て、これは誰のベッドだ? 誰のであったにせよ、この家の物――母を死に追いやったくそ野郎の血筋の誰かが使った物だ。
不意に胃から物が戻ってきた。躊躇などせずに吐き出す。
「え⁉ 夜ト、大丈夫⁉」
白狐――いや、白狐なんて呼べない。あの女が背中をさすってくる。やめてくれ、汚らわしい。
女の手を払いのける。パシッと派手な音がした。
「え……? 夜ト……?」
「話しかけるな、汚らわしい」
「……え、何? 何云ってんの?」
女がわかりやすく怒っている。だから何だ? 母を死に追いやったくそ野郎の血筋の女だぞ?
「話しかけるな、気持ち悪い。消えろ」
「何? 何なの? ねぇ? どうしたの?」
近づいてくる。やめろ、近寄るな。
「来んな、気持ち悪い」
「は? 何なの? 何気持ち悪いって。何? ほんとに何なの?」
僕は怒鳴った。
「てめぇのじじいと親父は何をした? 僕の母親に何をした?」
ビクッとした女だが、負けじと声を荒げてきた。五月蠅い、汚らわしい。
「何の話をしてんの! 説明してよ! そんなこと云われたって訳分かんない!」
この女は知らないのか? 知らなくたって、お前の血は汚れているんだ。
「てめぇのじじいと親父の机の上の封筒を持ってこい」
女は部屋から出て行った。周りを見ると、どうも雰囲気が女子っぽいので、この部屋はあの女の部屋らしい。
女が戻ってきた。しっかりと封筒を二つ――片方は破れている――持っていやがる。
女の手から封筒を奪い、中の写真を突きつける。
「これは何だ⁉ あ?」
女の顔から血の気が失せていく。ああ、いい気味だ。そうだ、絶望しろ。
「これって……もしかして」
「写ってるのはお前のじじいと親父だろ⁉」
女が頷いた。
「写っている女は僕の母親だ! 云いたいことが分かるか?」
「……そんな……」
女が泣いた。泣け、苦しめ、自分の親が何をしていたのか思い知れ。自分を責めろ、恥じらえ。
封筒を床にたたきつけて部屋を出る。廊下を進んで階段に行き、一段飛ばしで降りる。玄関に着くとドアを蹴るように開け、車に向かう。
女が着いてきている。気持ち悪い。
女が叫んだ。
「夜ト! ごめん! 私の親は屑だった! でも、私は何がどうなろうと夜トを好きだ! もし、許して――いや、許してくれなくていい! でも、私をまだ好きなら世界が終わるまでに戻ってきて! 私はずっとここで待ってるから! 待ってるから! 待ってるからぁ!」
黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ。
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!
Uターンをしてアクセルを思いっきり踏み込み、庭を駆け抜ける。花を轢いたがそんなことはどうでもいい。門を通り抜け、住宅街に出るとさっき来た道を戻る。
――くそっ!
さらにアクセルを踏み込み、スピードを上げる。あの踏切を通り越して、気付ば平屋が並ぶ住宅街まで戻ってきていた。
帰ろう。
そう思った。
あの家に帰ろう。
深淵に帰ろう。
途中でガソリンを入れつつ、標識と記憶を頼りに自分の町へ戻る。昨日まで戻りたくないと思っていた筈の家を、今はものすごく欲していた。あの家に帰りたい、あの町に戻りたい、深淵に囲まれたい。
僕の家庭を崩壊させたのはあの女の家のせいだった。おばあちゃんが、あいつらに金を借りたがために母はおもちゃのように扱われ、結局借金は減らなかった。
そして、それに気付かずにその血筋の女と一緒に行動をしていた。さらには好きになっていたなんて!
何て巫山戯た話だろう。
やっぱり僕には深淵の町がお似合いらしい。やっぱり深淵から逃れることは出来なかった。帰ってきてしまった。
だが、それもいいんじゃないだろうか。それが自分の人生なんだ。ああ、くだらない人生だ。何で俺は生まれてきたんだろう。
――本当にこれでよかったのか?
心の中で誰かが呟いた。これでよかったのか? だと? よかったに決まっているだろう。逆に、母を死に追いやった奴の血筋と一緒に行動しろと云うのか? なんて巫山戯た話だ!
白狐なんて人間はこの世にいなかったんだ。そうだ、白狐なんて人間はこの世にいなかったんだ。
僕は一人で、ずっと一人で行動していたんだ。そうだ、きっとそうだ。幸せそうな夢を見ていただけだったんだ。
涙が流れていた。何故だ? 何故泣いている?
袖で涙を拭うが、涙は止まらない。
何かを後悔しているのか?一体何を後悔
(白狐……)
していると云うんだ? 何も間違ってなどいない筈だ。自分は正しい
(白狐……)
ことをしたんだ。あんな女と一緒にいたら、母が悲しむ。そんな
(白狐……)
ことがあってはいけない。死んだ母に申し訳ない。精一杯頑張って
(白狐……)
くれた母に合わせる顔がなくなってしまう。そうだ、だから自分のやったことは間違っていないんだ。
気付けば見慣れた景色が流れていた。自分の町の景色だ。何も考えなくても、ハンドルを握る手は動いた。素晴らしい、無意識に家に向かっている。
家は変わっていなかった。二階建てで、薄汚い家だった。車を前に止めて、ドアを開ける。
「ただいま」
誰も返事をしない、当然だ。母は死んだし、父は逃げた。逆に誰がいると云うんだ?
靴を脱ぎ捨てて階段を上がり、自分の部屋に行く。
扉を閉め、大声で泣いた。泣いて泣いて泣いて、泣いた。
全てが嫌で、嫌いで、虚しくて、悲しくて、苦しくて……。
神は意地悪どころじゃなかった。神は不要な人間を殺そうとしていた。どうやら僕は不要な人間だったらしい。
強がっていたが、実際悲しかった。白狐なんて人間はいなかった、と思ったが、白狐と過ごした日々は脳裏に焼き付いて離れない。慥かに僕は白狐と一緒にいた。そして、白狐を愛していた。
が、あの事実を知った以上、白狐との関係はもう終わらなければいけない。こんな事実を知ってしまった以上、純粋に白狐を好きになることが出来なくなってしまった。
――くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!
「くっっっそおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
何で世界はこんなに残酷なんだ。何で世界はこんなに冷淡なんだ。何で世界はこんなに冷酷なんだ。何で世界はこんなに鬼畜なんだ。何で世界はこんなに苦しいんだ。何で世界はこんなに悲しいんだ。何で世界は……。
何で世界は僕を生きて置かせたんだ?
何で世界は僕を母に産ませた?
僕なんて生まれてこなければよかったんじゃないだろうか。
悲しい人生を歩む人間なんて、誰が必要とする?
『お前は――』
不意に父さんが云っていたことを思いだした。
お前は、何だ? 僕は父さんにとって何なんだ?
と、ここで一旦落ち着く。一気に色々考えてもらちがあかない。とにかく、今がどう云う状況なのかを整理する。
一緒に行動していた白狐の父親とおじいさんは、借金取りかつ僕の母の売春相手だった。それを知った僕は白狐に当たり散らして、その場から逃げた。そして今ここにいて、父が昔云ったことを思い出そうとしている。
よし、整理が出来た。では、今から何をするかを考えよう。
まず今できることの、父が昔云ったことを思い出すことから始めよう。だが、それには情報が必要だ。昔の記憶を思い出させるような情報が。なくなった記憶を取り戻すには、そのときのことを鮮明に思い出せるような情報があるといいと聞いたことがある。
ではどこにその情報がある? 父の部屋は、父が逃げたので父の物が全て残っている。あるとするならばそこだ。
父の部屋に行くと、何故か机を真っ先に調べた。何故か、とは云っても理由は明らかだろう? あの写真どもは机から出てきたのだから。
そして、何故か机の引き出しの中に求めているものがあった。父の日記だ。
なんとなく一番奥の日記を開いてみると、ただただ文章が書かれているだけだった。日付や天気、気温などのよくありがちなことは書かれていなかった。
表紙には『日記1』と書いてある。今取った日記が入っていた場所を見ると、ノートがぎっしりと詰まっている。多分『日記2』などと云って続いているんだろう。
日記を読む。
[人生初のプロポーズしちゃいました~! いや、ドキドキするどころじゃないね。心臓が本当に飛び出るかと思った。でも、成功したからOK!]
[デートって何すればいいのか分からぬ……。とにかく楽しんでもらえればいいのかな?]
[デート終了しましたー! 楽しんでもらえたからOK!]
どうやら、このノートは父と母が出会った頃の物らしい。そのところの情報はいらない。ノートをしまって、大体真ん中らへんのノートを取った。『日記13』だった。
[あいつ、浮気しているのか? ベッドに精液らしき物が付いていた。一体どう云うことか、問いただしてみる]
[あいつは売春をしていた。どうやらあいつの親が作った借金の対価としてやっているらしい。何故俺に相談しないんだ]
[どうにかしてやめさせたいが、どうすればいいんだ? 今家に返済に当てる金はない。くそっ、どうすればいいんだ]
少しページを飛ばすと、衝撃的な文があった。
[あいつ、妊娠した。まだ俺とそう云うことはやっていない。つまり、売春相手との子供だ。くそっ、育てる気はないぞ]
[何が赤ちゃんだ。まるで俺の子供と云っているようだ。巫山戯るな、そんな子供は知らん]
[堕ろさせるか。堕ろさせたが……どうすればいいのか]
どう云うことだ? 僕に兄、姉、または弟、妹がいるのだろうか。いや、そう云うことはやっていない、と云うことは僕が出来る前だから兄か姉がいたと云うことだろうか。
[あいつは産むと云った。どう云う神経をしていやがるんだ? 俺は反対だ。堕ろさせてやる]
それからは愚痴のオンパレードでそのノートが終わった。次のノートを取り出す。
[そろそろ生まれると云ってきやがった。巫山戯るな、俺は反対だ]
[ついに産みやがった。俺の子じゃない子供を]
それからは愚痴とその子供の成長が綴られていた。僕は一体いつ生まれたのだろうか? 兄、姉はどうなったのだろうか。
どんどん読み進めて『日記21』で衝撃的な物を見てしまう。
[髪を引っ張ると顔をしかめる。馬鹿みたいな顔だ]
[ムカついたから殴ってやった。ビービー泣いて、いい気分だ]
[今日は近寄ってきたから蹴り飛ばした。ざまあみろ]
[ビンタは相当効く。楽しい]
どう云うことだ? これはまるで僕のことではないか。
嫌な想像が脳裏をかすめる。
[ああ、殴るとスッキリする。別にいいんだ、俺の子供じゃない]
そして、ついに決定的な物を見つける。
[植木鉢で殴ってやった。血まみれでのたうち回っている。いい気分だ、ああ、素晴らしい]
やっと理解、いや納得した。
それと同時に、あの時のことをしっかり思い出した。
あの風の強い日、僕は外で遊んでいた。
――ぶううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん……。
ああ、そうだ。やけに五月蠅い車が家の目を通り過ぎた後、父が家から出てきた。
僕はその時、空を舞っているビニール袋を目で追っていた。
――ガジャン。
そう、父は重ねてあった植木鉢を倒して、散らばった物の中から一つ小さめの物を手に取った。僕はその物音に驚いて、父の方を見た。
僕と目が合った父はニコッと笑って近づいてきた。
僕は聞いた。
――なあに? お父さん。
――父さんと呼ぶな。
――何で? お父さん。
――お前は俺の子供じゃない!
父は高々と植木鉢を上げて、振り下ろした。
――ゴンッ。
ああ、そう。あの音だ。耳ではなく、直接脳に届いた音。
そして、その音を聞いて気を失った。
そうか、僕は父の子じゃないから殴られたんだ。
じゃあ……と考える。
じゃあ、僕は誰の子供なんだ?
――バイシュンアイテ……。
もしや……。もしかして……。
ぐるぐるしている思考から一つの考えを取り出して、一度捨てる。いや、そんな筈はないと願う。だが、今ある情報から考えるにそれしか出てこない。
――僕は白狐と血が繋がっているのか?
父は売春相手の子供だと云っていた。そして、母の売春相手は白狐のおじいさんと父親だった。つまり……。
そう云うことなのか?
問いかけても答えは返ってこない。あるのは沈黙だけだ。
つまり、白狐は僕のお姉さん……。
父親が一緒で母親が違う……お姉さん。
白狐はお姉さん。
そんな馬鹿な?
否定した。そんな馬鹿なことがある訳がない。が、さっきと同じように僕の知っている情報から考えれば白狐は僕のお姉さんと云うことになる。
何故、僕は出会って短時間で白狐を好きになった? 顔か? 性格か? いや、違う。妙な親近感だった。昔どこかで会ったことがあるような、そんな親近感が白狐を好きになった理由だ。何で親近感が生まれたのか、それは父親が一緒だからだろうか。
おそらく、写真に写っていた母の年齢から考えて、僕の父親は白狐の父親だ。
――ビャッコハオネエサン……。
一旦頭の中を空っぽにして日記の次のページを見た。
[落ち着け、俺。俺の子供じゃないとは云っても、俺の名字を引き継いでここまで育てた子だ。暴力を振るうのは違うんじゃないか?]
[幸い、殴ったせいで脳に何かがあったなんてことはなかったようだ]
ページを飛ばす。
[退院した。大丈夫だ、俺。落ち着け。俺の子供じゃなくとも、俺が育てた子だ。育ての親として頑張れ]
[危ない、殴りそうになってしまった。落ち着け、落ち着くんだ。養子にもらった子だ、と考えればいい]
父さん……。
父さんは苦しんで苦しんで苦しんだ。でも、慥かにここまで僕を育ててくれたのは父さんだった。本当の父さんじゃなくとも。
ノートを戻し、最後のノート『日記50』を開いた。
[この町は何だか可笑しい。狂っているように思える。何なんだ、この町は]
[可笑しいことが普通と思われている。馬鹿か俺は? この町が可笑しいことに何故今まで気が付かなかったんだ?]
父さんは他の町の人だったのだろうか。なら運がない。母とで会った時点で深淵に引きずり込まれたのだろう。
[無理だ、ここまで頑張ったつもりがだ無理だ。あいつが自殺した時点で俺の精神は限界を迎えていた。もう無理だ。あいつには悪いが、もう無理だ]
[逃げようか、迷っている。振り込みはするから、あいつは生きていける筈だ。ここまで一緒に来たんだから、一緒にいてやりたかった……]
最後のページは遺書風に書かれていた。
[お前がこの日記を見ていると云うことは、俺は逃げたんだろう。すまない、こう書きつつも今荷造りをしている。
日記を全部読んだだろうか。読んだなら分かっているかも知れないが、俺とお前に血の繋がりはない。
もう限界だった。あいつが自殺して、俺はもう無理だった。あいつが自殺した時点で、俺も死んでいたんだろう。お前といると、全ての忌々しい記憶が蘇ってきてしまう。
すまない。俺は逃げる。
が、お前は悪くない。お前は被害者だ。だから、俺を責めていい。憎んでいい。俺はそれなりのことをするんだから。
でも、たまに『俺の親父は逃げたような屑なんだよ』とでも思い出してくれると嬉しい。俺は慥かにお前と一緒にいたんだから。
なんだかんだ書いたが、実際のとこ俺はお前を自分の子供だと思っている。苦しいと思いながら育てていると、俺はお前を愛するようになっていた。誰がなんと云おうと、お前は俺の子供だ。
あと、五月蠅いと思いながら読んでくれ。お前には、自信が足りていない。自分のやることに自信を持てていない。これをやろう、と思ってそれを実行したことが何回ある? 少ないだろう。
お前は頭がいい。だから、自分がやろうと思ったことに自信を持っていい。多分、それは間違っていない。それに、もし間違っていたとしてもそれを修正できる能力をお前は持っている。
最後にもう一度謝らせてくれ、すまない。
生きてくれ、自分を大切にしてくれ]
ノートが手から滑り落ちる。目からは涙がこぼれ落ちた。
父さんは、僕のことを自分の子供だと思ってくれていた。
父さんは僕のことをよく見てくれていた。
父さんは、僕よりも辛かったのだろう。自分の結婚している人が売春していると知り、出来た子供は売春相手の子供で、さらに母は自殺して。
自然と父さんの幸せを願っていた。今どこにいるのか分からないが、幸せを掴んでいてほしい、そう思った。
父さんは、僕の自慢の父さんだ。昔何をされたとしても、苦しみながら僕を育ててくれた父さんは俺の、自慢の父さんだ。
「父さん、ごめん……僕、勘違いしていた……」
僕は大声で泣いた。父さんへの謝罪と感謝を全て吐き出すように泣いた。涙はどんどん出てきて、さっき落としたノートに落ちた。涙で視界が安定しない中、もう一度父さんからのメッセージを読む。父さんは『俺を責めていい。憎んでいい』と書いていた。
どこを責めて、どこを憎めと云うんだ? 今までずっと責めていた。自分を置いて逃げた父親として。
だが、父さんは実の子供じゃない僕を苦しみながらここまで育ててくれた。責める? 憎む? 今頭の中には感謝しかない。
――お前は今、何をすればいいんだ?
父さんがどこかで囁いたような気がした。が、そんな筈はない。おそらく、自分の頭の中で作り出した妄想だろう。
今僕がやらなければいけないこと? 一つ思い浮かんだことがある。だが、それが正解なのか分からない。もしかしたら不正解かいかも知れない。
待て、何を悩んでいるんだ。父さんからのメッセージを忘れたのか?
『自分がやろうと思ったことに自信を持っていい。多分、それは間違っていない。それに、もし間違っていたとしてもそれを修正できる能力をお前は持っている。』
分かったよ、父さん。やってみる。
父さんの部屋を出、玄関に向かう。靴を履いてドアを開け、振り向いて云う。
「父さん、云ってきます」
――行ってらっしゃい。
頭の中で父さんの声を再生した。
ドアを閉め、車に乗り込む。アクセルの上に足を置き、ハンドルを握って深呼吸をする。そして、口に出して云う。
「目的地は――」
二度と通らないと思っていたあの踏切を通る。既にあの黒猫たちはいなくなっていた。
今日と云う二四時間の間で、あまりにも多すぎる情報が頭の中に侵入していている。が、その情報は一本の糸で繋がれたように綺麗にまとまっている。だから、頭が爆発することもない。
今の僕は恐ろしい程冷静だった。何故かは分からないが。
いや、もしかしたら謎が解けたからかも知れない。今日で、全ての謎が解けた。心の端で引っかかっていた小さなことも、心を全て覆い尽くす程大きなことも、今日で全てが解消された。
深淵の中の家庭の中でも、僕の家は段を抜いて狂っているに違いない。僕の家の闇は深すぎた。
あの女――いや白狐の家の前に着いたときには、空はオレンジ色に染まっていた。最近、どうも空をよく見上げるようになっている。
敷地内に入る。玄関の前に来ると、クラクションを三回鳴らした。クラクションは木霊し、クラクションが何回も鳴らされたかのように錯覚させた。
一分もしないうちに扉が開き、顔に涙の跡が残っている白狐が飛び出してきた。僕も車を降りた。
しばらく二人とも動かずに見つめ合った。双方の心の中を見ようとするかのように。
その見つめ合いを先にやめたのは白狐だった。
白狐は急に走り出し、僕に抱きついてきた。それと同時に、腹の部分が生暖かくなった。白狐が泣いているのだ。僕も抱きしめ返してやった。
白狐はしばらくすると泣き止み、云った。「お帰り」
笑って返す。「ただいま」
それからは、どちらも何も云わずに白狐の家に入り、白狐の部屋に向かった。家に入ってから部屋に着くまでも、終始無言だった。
白狐の部屋に入った。僕が吐いた場所は綺麗に掃除されていて、喚起したのか臭いも殆どなかった。
ドアを閉め、白狐と向き合った。白狐は僕をまっすぐに見つめている。
「白狐、悪かった。ごめん」頭を下げた。「白狐のおじいさんや父親が僕のお母さんと何をしたとしても、それは白狐のおじいさんと父親の問題であって白狐は関係ない。家族だったとしても」
白狐は何も云わない。
「ここに来るまでにずっと考えてた。どの感情が一番強いんだろうって。冗談抜きで愛だった。自分の人生を、他の誰かに託そうとする感情――愛。憎しみだって、恨みだって強い感情だけど、僕の中では愛が勝った。
白狐を好きだ、って云う感情が勝った」
「やっぱり、君は可笑しいね」白狐は俯きながら云った。「普通の人だったら、私に合おうなんて思わないよ」
「でも、白狐は待ってるからって云ったじゃん」
「それは、夜トが可笑しい人だってことを知ってるから」
「それは……褒めてるのか?」
「私にすれば褒め言葉」
白狐が振り返って窓を開け、カーテンを閉めて再び僕の方を向いた。風でカーテンが膨らみ、部屋に温かいような冷たいような風が部屋に入り込んできた。ちょうど窓の下にあった机――おそらく白狐の――の上に置いてあったノートが、風によって捲られた。
パラパラ、と云うノートが捲られる音に気が付いたのか、白狐はまた振り返ってノートを上から押さえた。どうやら僕に見られたくない内容が書いてあるらしい。
そんなことを知ってどうする?
僕の心の中の意地悪なところが疼いた。
「白狐、何それ」
案の定、白狐はしらばっくれた。
「え、何の事?」
「いや、そのノート」
そう云ってノートを取ろうとすると、白狐はノートを胸に抱えた。
「私の、プライベートノート」
「何、プライベートノートって」
「私の……プライベートのノート」
いや、それは分かるけど。
「何が書いてあるのか教えてよ」
「プライベートだって云ってるじゃん! 見せられないよ!」
そう云って白狐は一層強く、ノートを抱きしめるようにして僕に取られないように守った。
「秘密のある女はモテないよ」
「デリカシーのない男はモテないよ」
「見せてくれないと、白狐のこと嫌いになっちゃう」
「むうぅぅ……」
白狐はぐるぐる回りながら、僕をチラチラと見た。こいつに見せていいのかな、と云う感情が丸わかりだ。一度強風が吹き込んで、膨らんだカーテンが白狐の顔に当たった。白狐はそれを払いのけると、僕にノートを手渡した。
「え、いいの?」
「……どうぞ」
ふくれっ面の白狐を横目で見ながらノートを受け取り、開いた。
それは小説のようだった。小さいが綺麗な字で書かれていた。
[誰かに声をかけられたような気がした。
目を開けると、そこには知らない男の子がいた。顔の幼さから考えるに、小学校高学年か中学生だろう。その子は、私の顔を覗き込んでいた。
「う……あれ? ここどこ?」
見えた景色は知らない景色――いや、違う。慥か私はここに食料を求めて来たんだ。だが、途中で猛烈な空腹と眠気に襲われて……。
私は問うた。
「え? 君誰?」
「え、あの、えっと」
男の子は可愛らしくおどおどしていた。そして、男の子は明らかな偽名を名乗った。
「夜ト」
「よ……ると?」
私は冷静にツッコミを入れた。
「それ、本名じゃないでしょ」
「ええ、違いますけど。いいじゃないですか、もう終わる世界なんですから」
「終わる……? ああ、そうか。すっかり忘れてた」
そうだった。すっかり忘れていたが、この世界は滅亡宣言が出されていたんだった。
男の子――いや、夜トが聞いてきた。
「では、あなたの名前は?」
「君が偽名を使うなら、私も偽名を使った方がいいんだろうね」
なんとなく思い浮かんだ名前を云った。
「白狐」
その時から、夜トとの不思議な人生が始まった――]
笑ってしまった。なんと、白狐はノンフィクションの私小説を書いていたのだ。それも、僕と出会ってからの。
「ねえ! 何で笑うのよ!」
手を振りながら云う。「いや、小説書けるんだなぁって思って」
「べ、別に。あったことそのまま書いただけだし」
そう云うと、白狐は僕の手からノートを奪い取った。
「そうだ、新しいことが分かったよ」
「え?」
「僕、自分の家に一回戻ったんだ」
外は暗くなり、久しぶりに虫の鳴き声が聞こえた。もしかしたら、車の中だったら聞こえていなかった――もしくは虫がいないようなところばかりにいたからだろうか。にしても、虫の声は美しくて心を和ませた。
リーリーと云うだけの音なのに、それがものすごく心地いい。
「それで、父の日記を見つけた」
リーリー。
「その日記を見て、分かったことがある。僕は父の子供じゃなかった」
空気が凍り付いたのが分かったのか、虫の声が聞こえなくなった。
部屋の空気は氷点下と思える程凍り付き、時が止まったかのように思えた。
白狐は目を泳がせている。その泳いでいる目は、何を云っているか分からないと云っている。
「こう書いてあった。『あいつ、妊娠した。まだ俺とそう云うことはやっていない。つまり、売春相手との子供だ』って」
「……つまり……」
白狐の顔の血の気が失せていった。だが、僕は恐ろしい程に冷静だ。
「僕と白狐の父親は一緒だ」
その瞬間、白狐が吐いた。前の僕と全く同じである。駆け寄って白狐の背中をさする。白狐はうえっ、うえっ、と喘ぎながら吐いている。
その、うえっと云う声の間に「あのくそ野郎……」と云う声が聞こえた。そして、僕はくそ野郎というのが誰を指しているのかが分かった。白狐にとってもくそ野郎で、僕にとってもくそ野郎の人物。
僕達の父親だ。白狐の父親であり、僕の産みの父親だ。
白狐は胃の中にある物を全て吐き終えても収まらず、唾液と胃液を吐き出した。つんっと鼻をつく臭いが部屋に充満し、窓から出て行く。いつの間にか虫の鳴き声が再開していた。
白狐が吐いているのを見ると、母も僕の前で吐いたことがあったことを思いだした。その時、母が吐いた物は今でも鮮明に覚えている。昼に食べたサンドイッチと、何やら白い液体。
僕まで吐きそうになってきた。今日は何も口に含んでいないし、吐いたから胃の中には何も残っていない筈だ。だが、食道は胃液を逆流させた。
僕は口を押さえながら窓から顔を出し、吐いた。下から、ベチャと吐いた物が落ちる音が聞こえてきた。後ろではまだ白狐がうえっと云いながら消化酵素を吐き出している。
その状態はしばらく続いた。どちらも吐いた物の割合は、食べたものより消化酵素の方が多いだろう。
口の中が苦くてすっぱい。そして窓が開いているにも拘わらず消化酵素の臭いは部屋に充満して、おそらく壁や家具に染みついただろう。
僕も白狐もやっと吐き気が収まったので、一回のホールに移動することにした。とてもじゃないが、あの臭いの部屋にはいられない。
階段を降り、ホールに入る。真ん中のテーブルまで行き、そこにある椅子に座る。白狐は僕の隣に座った。
白狐は僕の袖を掴んで云った。「その話は慥かなの?」
「父の日記が嘘でなければ事実だと思う。けど、父があそこまでリアリティのある嘘を書く必要はないし、第一出来ないと思う。だから、僕は本当だと思う。それに――」
僕が白狐を好きになった理由の親近感のことを話した。
「慥かに、私もそれは思った。何だか、友人よりも近い関係にいる人に思えた。会ったばかりなのに。じゃあそれは、血のつながりがあるからってことだったのか……」
「多分、そう。だから、僕と白狐は母親の違う兄弟なんだ」
すると、白狐はクスクスと笑い出した。
「じゃあ、付き合えないじゃん」
「ね。姉弟だし」
「でも、戸籍上は多分赤の他人なんだよね?」
「ああ、どうだろう。多分そうだと思うけど……この世界じゃ調べようがないな」
「戸籍上、赤の他人なら大丈夫!」
白狐は口を洗おうと云い出した。慥かに消化酵素で口の中が悲惨なことになっていたから、洗いたかった。入口から見て、右側の壁の真ん中辺りに調理室があり、そこにペットボトルの水が大量にあった。白狐はそれを大きめのコップに入れると、手渡してきた。白狐もコップに水を入れ、それでうがいをし始めた。
僕もうがいをしたのだが、そのときにうっかり一口飲んでしまったことは多分白狐は知らない。
「どう? 口の中大丈夫そう?」
「ああ、大分楽になった」
「よかった」
「……今何時かな」
「時計があるけど」
「どこ?」
ホールに戻ると、壁掛けの電波時計があった。もちろん電波は飛んでいないから、正確ではないだろう。
時計は九時四十五分を指していた。
「何か、することあるか?」
「ええと、あの部屋の掃除と、あれを書くのを手伝ってほしい」
「了解」
「あと……」
「え?」
「ほ、星を見に行かない?」
白狐はどうやら星が好きらしい。山に登ったときも、星を見るために夜まで上にいたことを思い出した。
「いいよ」
部屋の掃除を終えると、あの話を書くのはそっちのけで外に出た。
外はもう真っ暗で、街灯が付いていないので一メートル先も見えない。が、月明かりがあるので多少はマシだ。
「車じゃないといけないよな。暗すぎて」
「うん、車で行こう」
車に乗り込んで、目的地へと向かう。
どうやらこの辺に、空一面が見渡せるような公園があるらしい。多分、どこかの金持ちが自己満足のためか自慢のために買った土地だろう。
父さん、今どこで何をしていますか?
どこかで、きっと生きている父の顔を思い浮かべながら暗闇に問いかける。答えが返ってこないのは当たり前だが、それでも問いかけた。
幸せに暮らせていますか?
新しい家庭を築いていますか?
深淵と無縁の環境にいれていますか?
父さんにはこうであってほしい、と云う願望をそのまま問いかける。不幸にならないでくれ、いや幸せであってくれ。
父さん、僕が思うに、父さんの強みは強さです。父さんは強い。逃げたことを決して悔やまないでください。父さんにとって、それは必要なことでした。逆に、逃げていなければ深淵に引きずり込まれていたでしょう。
父さんは、深淵の町に来たにも拘わらず、深淵に落ちずにいましたよね? そこが父さんの強さです。父さんは、母がああ云うことになっていても母を見捨てなかった。僕が生まれても、僕を見捨てずに育ててくれた。普通の人だったら母を捨てているし、母を捨てなくとも僕が生まれた時点で家庭を捨てていた筈です。
父さん。父さんは逃げたからって弱くないんです。父さんが強くあるために、それは必要なことだった。だから、自分を恨まないでください。
しつこいようですが、もう一度云います。
父さん、父さんにとって、逃げることは必要だった。だから、決して自分のことを恨んだり自分のしたことを悔やまないでください。
父さんは強い、そして正しかった。
ありがとう、父さん。
この思いが届くことはないと分かっている。が、父さんには感謝しても仕切れない。
「っちょ! 夜ト! 前!」白狐が叫んだ。
前を見ると、どこかの家の塀が見えた。突き当たりだった。
スピードがゆっくりでよかった。ゆっくりじゃなかったら塀に衝突していただろう。
ブレーキを踏むと、塀の三〇センチ程手前で止まった。
「夜ト、しっかりしてよ。私にだって傷ついてるんだから」
違う、僕はそのことに気を取られていたんじゃない。そう云おうと思ったが、白狐に云う必要はないので「ごめん」とだけ云った。
とは云え、最近僕の自動車運転技術が異常に上がった。白狐と一緒に行動するので、車を使う機会が増えたたというのもあるが、白狐がガソリンスタンドをいじってくれたおかげでガソリンが手に入ったため、同じ車を長い間使っているからかも知れない。
つまり、最近の僕はなんだかんだ白狐のおかげで成長できている。父さんの次に感謝するべき人は間違いなく白狐だ。おそらく、白狐が待ってるからと云ってくれなかったら、僕は自殺していたと思う。何故なら、白狐の家を飛び出したとき、自分が生きているのか死んでいるのか分からない程頭が狂っていたからだ。
僕が今生きているのは白狐のおかげなんだ。
「白狐」
「うん?」
ちょうどシルエットのようになっていて、白狐がこっちを向いているのかどうかは分からない。
「ありがとう」
「え? 急に何? 何か、照れるんですけど」
「僕、白狐がいなかったら死んでたかも知れない。多分、今の僕は白狐がいたから生きているんだ。ありがとう、白狐」
「それは私も一緒だよ」
「え?」
「私だって死のうと思ってた。あの時、夜トが帰ってこなかったら私死んでた。夜トが帰ってきてくれたから私は今生きてる。帰ってきてくれてありがとう、夜ト」
「え、あ、ああ」
「今云おうとしていることは一緒かな?」
「多分、そうだと思う」
「せーので云おうか」
「そうしましょう」
せーの。
「どういたしまして」「どういたしまして」
素晴らしい程に綺麗に声が重なった。
「これも――」白狐は少し躊躇ってから続けた。「これも、血の繋がりがあるから出来ることなのかな」
「さあ、どうでしょう。でもどう思う? 血が繋がってた方がよかった?繋がってない方がよかった?」
「私は――」今度は少し考えてから続けた。「夜トに出会えていたら何でもよかった」
「僕も……そう思う」
「出会ってくれてありがとう、夜ト」
「出会ってくれてありがとう、白狐」
今回は、本当に何も云わないのにまるでせーのを云ったかのように声が重なった。
「どういたしまして」「どういたしまして」
すると、白狐が笑い出した。
「これ、コントに出来そう」
一緒にコントが出来る日が来ればよかったのに……。そう思ったのは僕だけではなかった筈だ。
白狐に道案内をしてもらいながら、どうにかその公園に辿り着いた。
白狐にライトを手渡すと、白狐は目を瞑るように云ってきた。嫌だと云う理由もないので目を瞑った。
白狐は僕の手を握ると、どんどん進んでいった。思っていたよりも歩くのが速くて、途中で転びそうになったがなんとか持ちこたえた。
一分程歩いたところで「目を開けて」と云われた。
上を向いて目を開けると……あの山の頂上とはまた違った夜空が見えた。見ている星などは一緒なんだろうが、何かが違った。何だ? と考えても答えは分からなかったが、とにかく、山の頂上と公園で見る夜空は違って見えた。
「凄いでしょ。ここだけ木とか電柱とか遊具とかが全部ないんだよ」
慥かに、微かな月明かりによって映し出された周りの背景には、木や電柱が見えた。が、この一帯だけはそれらの物が全くない。
「ああ、凄い」
「……大きくなってるね」
「ああ、近づいてきてる」
あの赤い物が否応なしに目に入る。夜ならなおさら。
こんな世界になっても、事実が分かっても、僕は生きようとしている。白狐のために生きようとしている。父親が一緒で母親が違う、戸籍号は赤の他人――のために生きようとしている。それが正解なのか? そんなことは考えなくていい。父さんの言葉を信じろ。僕は間違っていない。
「白狐」
「うん?」
「生きる理由が見つかった」
「え、何?」
「僕は、白狐を愛して、白狐を守るために生きる」
白狐は既にライトを消しているため、月明かりだけではどんな表情をしているのか分からないが、困惑しているのは慥かだろう。
「よ、夜トには夜トの人生があるんだよ。私なんかのために……」
首を振りながら云う。「いいんだ。僕の人生には白狐が必要なんだ。必要な物のために生きる、必要な物を守るために生きる。間違ってるか?」
「間違ってはないけど……夜トにはもっと必要――大切な物があるんじゃないの?」
「昔はあった。白狐に出会う前まではあった。でも、白狐に出会ってからは白狐が一番必要で大切な存在になった。
何度も云っただろ。僕は白狐が好きなんだ」
しばらくの沈黙が流れた。白狐なりに正解を探しているんだろう。
では白狐の正解とは何だ? 僕と一緒にいること、僕から離れること。いや、そんなことはどうでもいい。僕は、僕の考えを貫き通すだけだ。たとえ白狐になんと云われようとも。
「本当に私でいいの? 夜トのお母さんに、ひどいことをした人を親に持ってるんだよ? 本当にいいの?」
「いいんだ。それでも、僕は白狐のことが好きだから。白狐の親に何かあったって、僕が好きなのは白狐本人なんだから」
そうだ。白狐本人が好きなんだから、白狐の周りなんてどうだっていい。
不意に腹に衝撃が走った。白狐が僕に抱きついたのだ。
「ありがとう……」
聞こえるか聞こえないかの瀬戸際程の大きさの声で白狐は云った。
「僕もだよ。ありがとう」
白狐は僕から離れた。
月明かりが強くなり、周りがくっきりと見えるようになった。こんなに月が明るくなったのは久しぶり――だと思う。
白狐が寝っ転がったので、僕も寝っ転がった。
「ねぇ、夜ト?」
「うん?」
「何で夜トは、一人称が『僕』なの?」
「え? 何、似合ってなかった?」
「うん。車とか猛スピードで走らせるくせに、僕って云うのはちょっと……変かな。ごめん、偏見だけど」
「じゃあ、僕じゃないなら何だ? 俺?」
「そう……だね。俺が一番似合ってると思う」
「それって遠回しに暴れん坊だって云ってない?」
「……否定はしない、けど」
「そこはしてくれよ」
寝転ぶと、何をせずとも星空が目に入ってくる。
横から、白狐が近づいてくる音が聞こえた。
「……何してんの?」
「……目、瞑って」
「何するつもり?」
「ただの……愛情表現」
「……外国の挨拶?」
「そう」
僕――いや俺は目を瞑る。
恋愛マンガだったら、あと少しというところで誰かが来て「あーあ」となるのが定番だが、ここには誰もいない。誰かが来る筈もない。つまり、やめる理由はない。
やめるとしたら、俺がやめるか白狐がやめるかの二つしかない。俺はやめる気はないし、白狐にも多分やめる気はない。
次の瞬間、俺の唇に温かくて柔らかい物が押し当てられた。それは三秒間程俺の唇に触れていた。
「夜ト……キスしたことあった?」
「覚えている限りでは……ない」
「ふふふ、初めてもーらい」
何が面白いのか、白狐はしばらく笑っていた。
もういいだろうか――と思って目を開けて、聞いた。「……白狐は、どうなんだよ」
「……乙女だって」
「男を使い捨ててたってことか? ひどいな」
「むーっ! 初めて、だよ!」
「へぇ、そうなんだ」
わざと興味なさそうに返す。こうすると、白狐は怒る。
「っ! 初めてあげたんだから、もっと感謝してよ!」
予想通り怒った。が、他にツッコむところがあった。
「勘違いされそうだから、もう少し違う云い方をしてくれ」
「え?」
最初は意味が分からなかったようだが、しばらくしてから「あ、あー」と云って顔を押さえてた。
「ふ、ファーストキスをあげたんだから感謝してよね!」
「ああ、ありがとう。大好きだ」
「っ! さらっとそう云うこと云わないで! て、照れるじゃん……」
何だか、からかうのが楽しくなってきてしまった。それに、白狐が本気で照れているところなんてめったに見られない。今を楽しもう。
「え? こんなもんで照れんの? さすが乙女だなぁ」
「ちょっと! 馬鹿にしてるでしょ!」
「乙女っておつおんなとも読めるんだぜ」
「は? 私が乙な女だって云いたいの?」
「乙な女って何だよ」
「はぁ? 夜トが云ったんじゃんか!」
「こう読めるんだよ、ってことを云っただけで乙な女とは一言も云ってない」
「へぇ、そうやって逃げるんだ。まだガキだね」
「変態怠け者JKには云われたくない」
「あれぇ? 変態怠け者天才JKって云ってなかった?」
「……何云ってるか分かんない」
「ほら逃げる。頭が幼いなぁ、幼稚園生みたい。お姉さんが可愛がってあげるよ」
「何されんの?」
「木に逆さに縛って放置」
「処刑じゃねぇか」
しばらく云い合いは続いて、俺が折れて終わった。やはり、高校生には勝てなかった。白狐は、上手く返したり避けたりする方法を身につけていた――と云うより、先を見据えて言葉を発することが出来ていた。
一方の俺は、その場その場の言葉しか出せず、先を全く考えずに発言するため墓穴を掘ることとなっていた。
「……そう云えば、何で外国の挨拶しようと思ったん?」
白狐は俺の耳元で囁いた。「夜トが好きだから」
「でもさ、今日入れてあと五日の人生だぜ」
「だから、やりたいこと全部やって死ぬの」
もう一つ質問をした。
「何で……俺らは出会ったんだと思う?」
白狐は腕を組んで考えていた。たまにう~んと唸っていたが、何をそんなに悩んでいるのかは不明だ。
「全てを解決させるため、かな」
「どう云うこと?」
「夜トには、いろんな疑問があったんでしょ? で、私と会ったことで解決した。まあ、解決したせいでどんなことになったかは置いておくとしてね」
どうだろう、俺は疑問が解決した方がよかったんだろうか。
慥かに白狐のことは相変わらず好きだが、疑問が解決したことによって少し壁が出来たことは間違いない。俺は今、一〇〇パーセント白狐を愛することが出来ていない。どこかで何かが突っかかっている。
しかし、だからと云って何も知らないで死ぬというのも嫌だった筈だ。やはり、疑問は残ると気持ちが悪い。
だが、もしかしたら一〇〇パーセント白狐を好きになっていたら気持ち悪いなんて感情は忘れて人生を楽しんでいたかも知れない。
どっちがいいのか、俺にはもう判断できなかった。どっちもいいような気がするし、どっちも嫌な感じがする。
でも、今考えていて一つ確実なことが見つかった。俺は、何があろうと事実を知ろうと行動していた筈だ。結果として答えが見つからなくとも、俺は見つけるために努力した筈だ。今回は、たまたま答えが見つかってしまっただけなんだ。
と云うことは、俺は答えを欲している。が、知って後悔することもある。やはり、どっちがいいのか分からない。多分、どっちでもいいんだろう。「白狐?」
「うん?」
「そろそろ車に帰るか?」
「……飽きてきた?」
「いや、そう云う訳じゃないけど」
「ま、いっか。帰ろ。十分星空は見たし。……挨拶もしたし」
「海外の挨拶、な?」
今日は珍しく、夜の気温は低かった。いつもは毛布を被って少し暑いな、ぐらいだったのが、今日は毛布を被っても少し寒いくらいだ。
「夜トぉ、寒い」
「俺も寒い」
「一緒に寝よ。近くにいたら暖まるよ」
「……何かされそうだからやめとく」
「私が何するって云うんだよ!」
「気が付いたら木に逆さに縛られてそう」
「あーあー、五月蠅い。いいよ、私が前に行く」
白狐はドアを開けようとした。
「はいはい、分かりました。後ろの方が広いから俺が行く」
ドアを開けて車から一旦出、後ろのドアを開けて中に入る。が、どう考えても狭い。前よりかはマシだが。
「……きついって」
「いけるいける! 横で寝て」
「……白狐が背もたれ側に寝るんだ?」
「え、駄目なの?」
「白狐に押されて椅子から落ちそう」
「だから、背もたれ側を譲れと?」
「そう云うこと」
「やだね。ここは私の特別ベッドなんだから」
「へーへー、分かりましたよ」
朝起きたら下で寝ていることを覚悟で白狐の隣に寝た。やっぱり車の椅子に二人寝るのは無理がある。
「せめて座ったまま寝ない?」
「腰が痛くなるから却下。あ、別に自分がおばあちゃんだとかそう云う意味じゃなくて」
「分かりましたよ」
最初はどちらも後ろ――つまり座席の背もたれを見ながら寝ていたのだが、途中で白狐が寝返ってこっちを向いた。
「……何でこっち見んだよ」
「普通、恋人同士って向かい合いながら寝るじゃん」
「え? 二人とも上向いて寝ない?」
「え? そうなの?」
「いや、そうじゃない? 知らないけど」
「知らないんかい」
「……はい」
「はい?」
「はい?」
「はい」
「……はい」
「何これ」
「知らん。おやすみ。あ、あっち向いて寝ろ」
「やだ。おやすみ」
白狐の息が顔にかかってこそばしかったが、睡眠に影響はなかった。
微かに聞こえる虫の声が睡眠欲をかき立てた。どんどんと瞼が落ちてきて、視界が真っ暗になる。
ここは車の中で、隣で白狐が寝ている。
そんな必要のない確認をして、眠りについた。
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