ガチャ廃人転生する ー女神様から世界を勇者と救ったら何でも願いを叶えてくれると言われたので『職業ガチャ』を使って魔王を倒しますー

宇都宮 古

第一部 アリマ旅をする

火の大地 幼少期

異世界イリステラに転生する

 俺は牧村まきむら有馬ありま。至って普通の大学生だ。みんなはソーシャルゲームを知っているだろうか。知ってる人間が多いとは思うが、現実のお金入れて課金して運試しするあれである。


 俺は周りの友達も認めるガチャ廃人と呼ばれる存在であり、自分で働いているバイト代は全額ガチャに入れている。


 もちろん、親の仕送りも当然ガチャだ。何故か今日もお金がすっからかん。不思議だなぁ。


 それでだな、金ない奴の心強い味方であるもやしを買いに出かけようとジャージ姿で外に出たわけだ。


「あー、今日も盛大に金だけ吸われたなー」


 なんて独り言を言いながら近くのスーパーへと足を進めている真っ最中だ。セミの鳴き声がとにかくうるせえ。


 で、肝心のガチャの結果はと言うとな。惨敗と見てもいいだろう。欲しいキャラが一人も出なかったのだ。夏の暑さだけが俺の肌に攻撃を仕掛けてくる。


「おっ、なんだあれ」


 俺は声を上げてしまった。目の前には謎の光の球体が浮いていたからだ。現代の日本においてこのような怪奇現象の事例は俺は知らない。


 夏の暑さが見せる目の錯覚なのかと思って目を何度もこするのだが、どうやら錯覚ではないようだ。好奇心で近づいて行くと急に周りを包みこむように光が輝き始めたのだ。


「ちょ、えっ、眩しい!!」


 まだ、目の前が白くてぼんやりしている中で、何とか視力が回復したのを感じながら目を開けるとそこは見知らぬ場所だった。真っ白な何もない場所が俺を出迎えてくれる。


 ゲームのキャラを作る時の画面見たいな空間だなと思っていると、空から一人の女がゆっくりとした速度で降りてきたのだ。羽を生やして天使のわっかを付けている。


 なんか天使みたいな奴だ。


「私は女神イリステラ。異世界イリステラの創造神。貴方には異世界イリステラに転生してもらいます」


「はぁ、あの気になってる事があるんでいいすか?」


「急に呼び出してしまって、気が動転するのも無理はないわ。でも、安心してアタシがしっかり説明するから……」


「髪の毛がピンクなのはクレイジーだと思うんでやめた方がいいっすよ」


 上から降りてくる時からずっと気になっていたのだ。


 この女神を名乗った女がピンク色の髪をしている事をな。よく考えて見て欲しいんだが、頭ピンクの奴が外を歩いていたら一瞬ちらっとだけ見てしまうだろう。


「これは地毛なの!! じ・げ!! 失礼な奴ね。……一番最初に出てくる疑問がそれなの!? もっとあるでしょ、この空間はなんなのとか、本当に女神なんですかとか、異世界ってとか!?」


 どうやら俺の反応が女神様が狙っていた反応と違うようなので、お怒りのご様子である。そんな事を言われても一番最初に目についた疑問がそれだったんだもんなあ。


「いや、ほらっ、俺の世代はゲームとか漫画で異世界は目新しくないし。俺は高校生の時には窓際でもし学校が襲われたらとか永遠にシミュレートしてたタイプだからさ」


「えっ、なんか可哀そう。学校で友達とかいなかったの?」


「うぐっ!? いたけど仲のいい奴はその時はたまたまクラスが違ってボッチだっただけだ」


 こっ、こっちにも衝撃が来た。俺の心に最大のダメージを与えて来やがったぞこの女神。話をそらさないと、どんな所から俺のガラスのハートに攻撃されるかわかったもんじゃないので次に進める。


「それで、これが噂の異世界転生ってやつですか。でも、俺って死んでないっすよね?」


 当然の疑問だった。俺の知っている限りでは、トラックでひかれてとか、病気で死んでとか、神様の手違いでみたいなパターンが大体であった。


 大体は死んでいて、それで神様に異世界転生させられるみたいな流れが常識である。


 当然だが、俺は病気なんてなった事がない健康体だ。ましてや、トラックでひかれてもいない。なんか道を歩いていたら突然光に包まれただけなのだ。


 神様の手違いってやつなのだろうか。


「死んでないわよ。でも、転生してもらいたいのよ」


「手違いってやつとかじゃ」


「いや、前々からアンタにお願いしたくて狙っていたから手違いではないわね」


 手違いじゃないのか。俺を狙っていたとの話だが俺は自分を客観的に見てもどこにでもいる普通の男子大学生だと思う。


 運動が別に抜群に得意ってわけでも、頭がいいってほどでもない。俺のどこを見て狙っていたのだろうか。


「理由を聞いてもいいか?」


「ええ、いいわよ」


 いい顔を作る髪の毛の色がクレイジーな女神イリステラさん。これはひょっとしてかもしれないな。


 俺の中に隠された力があって、異世界でふるって欲しいみたいな感じだな。俺の中学生の頃に考えていた邪気眼の力がついに目覚めたのだろうか。


「アタシの駒として動いてくれそうな人間で、その世界に対して将来影響を大して与えなくて、どうでもよさげな奴から適当に選んだらアンタだったってわけ」


「ふざけんな!? 誰でもいいって事じゃねえか!! その言葉を聞いて、じゃあ頑張りますってならねえよ!!」


「でも、女神である私選ばれたのだから光栄でしょ。それに、ほらっ……アンタこれからもうだつの上がらない人生なんだし、ここで一回リセットできるだけチャンスでしょ」


 人生のネタバレをすんじゃねえよクソ女神!! 後ろに笑ってついてそうな態度しやがってさ。


 このピンク頭は髪の毛の色がクレイジーなだけでなく、考え方もクレイジーだ。


 かつて、こんな方法で異世界転生させられた奴いるのだろうか。


「それにわけあって、今のアタシだとアンタぐらいの人間しか転生させられないのよ」


「なんだその、本当は嫌だったんだけど仕方なく見たい言い方は!! こっちから願い下げじゃ。俺を元の世界に帰してくれ!!」


「それはできないわ。一度ここに来ると転生するまで出られないわ」


 そういうどうでもいいとこだけ、どっかで見た事あるような異世界転生の設定出してきやがって。ん、その言い方だととりあえず転生すればこの空間から出られるのか。


「じゃあ、元の世界に転生しなおさせてくれ」


「現代に転生しなおさせてあげてもいいけど、アンタの元の世界で選べる転生先はミジンコしかないけどいいかしら?」


「いいわけねえだろ!!」


「元の世界ならミジンコ。アタシの言う通りに異世界イリステラに転生してくれれば、人間でしかもおまけもつけちゃうんだけどな」


 この女とんだ卑怯者である。選択肢があるように見せかけて、選ぶ権利など全くない。


 ミジンコと人間なら誰であっても人間を選択するのではないだろうか。将来微生物になりたかったって奴はしらん。


「クソっ!! 異世界の名前に自分の名前をつけているようなネーミングセンスのない奴にいいようにされるなんて!!」


「ふふん、さあどうするのって、ちょっと待って、はっ!? ダサくないんだけど!! いい名前でしょ異世界イリステラ」


「ダサいとは言ってないだろ。思ってたけど」


「思ってるじゃない!!」


 自分の世界の名前に自分の名前を入れる奴は流石にダサいのではないだろうか。異世界タロウとか、異世界ヤマダとか絶対にそんな世界に転生したくないだろう。


 てか、住みたくねえ。


「じゃあ、ミジンコね。ミジンコで決定ね」


「すいません。是非、凄くセンスのいい異世界イリステラに人間として転生したいです。それで、おまけっていうのは何ですか。チートスキルって奴ですか!!」


「まあそんな所ね。流石にアタシも何もなしに転生させるのは可愛そうだと思っていたし」


「流石女神様。そういうのあるなら早く言ってくださいよ。へへっ、自分女神様の命令に従いますよ」


「アンタ調子いいわね」


 次の人生を楽に生きられますと言われたら誰だってじゃあいっかとなるだろう。


 チートスキルがあるなら話が別って事。どんなスキルが貰えるかなんて知らないが、流石に今の俺のスペックよりはマシだろう。


 チートスキルを使って現世よりも楽に生きていけるのなら、俺は迷いなく異世界を選ぶぜ。


「それでね。アンタには異世界イリステラに勇者の幼馴染として転生してもらって、勇者が魔王を倒す手伝いをしてもらいたいの。目標が達成出来たらアタシが出来る事なら何でも一つ願いを叶えて上げるわ」


「ええっ、いいんすか!?」


「もちろんよ。こっちからお願いしてるわけだしね」


 勝った。俺の次の人生勝確定の瞬間である。


 チートスキルも貰って、目標を達成したら好きな願いを何でも叶えてもらえるなんてこんな好都合な条件は中々ないんじゃないだろうか。


「それで、どんなスキルなんすか」


「ふふっ、そう慌てないでまずはこれをプレゼントよ」


 女神イリステラがそう言うと何もない空間から俺の手元に見慣れたスマートフォンが現れた。


 それは、どういう見方をしてもスマートフォンである。今日も自分が少し前まで課金をしてガチャを引いていたのでよく覚えている。


「使い方はアンタにもわかりやすいように同じようにしてあるわ。早速開いてみて」


 俺は言われ通りに画面を開くとホームの画面には、女神様との通話というアプリと職業ガチャという名前のアプリの二つだけが存在していた。


 女神様との通話というのはこのピンク頭と話す事ができるアプリだと想像できる。


 多分、チートにあたいするのは隣の職業ガチャってやつだろう。俺は名前から既に不穏な空気を感じ取っていたが、女神様が押せ押せと俺に目でアイコンタクトしてくるのでタップしてみた。


 すると、明るい起動音と共にデフォルメされた女神イリステラが可愛らしく描かれたイラストが出迎えてくれた。


 そのまま、タップしていくとガチャの画面が現れた。既視感を覚える画面であった。


「ふふん、そこで五連ガチャをタップよ」


 言われた通りに押すとスマートフォンの画面から、現実にカードのような物が五つ現れた。


 色は青、青、青、青、青。勘のいい人間なら、ここで嫌な予感を覚えるのではないだろうか。


 俺はここで既に全てが外れであるという事がわかった。


 初めてやるはずなのに何故かそう感じざるおえないのだ。目の前で、レアの文字と共に職業の文字が現れる。


 戦士、戦士、弓使い、神官、戦士、既に戦士が三回被っているのが凄いリアルな感じだ。


「ガチャじゃねえか!!」


「えっ、何で怒ってるの。好きなんでしょガチャ。アンタに合わせた能力にしてあげたのに」


「好きだけどさ。異世界行ってまでガチャしたくねえよ。しかもこれ職業って事は、この中から一個選んで戦うとかそういう感じだろ」


「察しがよくて助かるわ。その通りよ」


「ふざけんな!! 命かけて戦うのに誰がガチャで運命を決められたいんだよ。命かけてまでガチャしたくねえよ。ガチャから美少女戦士が召喚できるとかにしてくれや」


 命がかかっているような環境でガチャで運ゲーしたい奴はいないだろう。至極真っ当だと思う俺の意見に対して、ピンク頭は俺が何で怒っているのかわからないようだ。


 俺は怒りのまま画面を見るとさらに驚愕した。五連の部分の下に一回五万エンと書かれていたからである。


「しかも金とんのかよ!!」


「最初の一回はチュートリアルだから無料よ」


「そういう再現だけ上手いのすげえムカつくな。エンって何だよ、異世界なら見た事ないお金のない単位にして欲しかったな」


「し、仕方ないでしょ。異世界イリステラで最初にお金の単位を決めた人間がエンって名づけちゃったんだから」


 お金の単位なんかどうでもいいか。それよりも、俺はこれからこの職業ガチャで戦わなくてはいけないのか。


 断固として拒否なんだが。


「スキルの変更を要求する!!」


「では、アリマよ。異世界イリステラで勇者の幼馴染として、しっかりと魔王を倒す手伝いをお願いしますね。異世界イリステラをよろしくお願いします」


「何だその説明口調の喋り方は、俺の話を聞け。おいっ、何だこの光は。さてはお前、このまま進行する気だろ。ふざんけな、エセ神!!」


 こうして、俺は光に飲み込まれて無事に異世界イリステラに転生したってわけ。

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