第68話退学処分2



 大公女を含めた取り巻き連中は各家での再教育が実施されている。



「僕としては大公女達が反省して改心できるか疑わしいけど。でも、今回は大公家の顔を立てておきます。全く期待はしていませんけどね」


「その現実的な発想は大事よ。公爵家の当主に必要なのは理想でも信念でもなく、どこまでも現実的に物事を捉えることですもの」


 義姉も僕と同様の考えだ。

 彼女達がこれで変われるとは思っていない。

 

 因みに、新聞社にリークしたのは僕ではない。同級生の中に新聞王の息子がいた事を知らなかった彼女達が悪い。しかも最下位クラスにいたから余計に気を付けないといけなかった。新聞王は平民から一代貴族になった「准男爵」だ。


 かなりの野心家である新聞王は金で一代限りの貴族となった。

 恐らく息子の代で「永代貴族」に引き上げたいとでも考えていたんだろう。なのに肝心の息子は最下位クラス。さぞかしガッカリした事だろう。だが、そこに大公家の娘が編入してきた。取り入るチャンスと思った事だろう。新聞王も最初は息子に「大公女様に取り入れ」とでも言っていた筈だ。一時期、新聞王の息子が大公女周辺をウロチョロしていたから間違いない。



「あの准男爵の子息に入れ知恵をしたのはミゲルでしょう?」


「ん?何のこと?」


「誤魔化してもダメよ。そうでなければ彼にこんな情報を仕入れられないわ」


「義姉上、彼は学園新聞を立ち上げたいと生徒会に申請していてね。ちょっと話をしただけだよ」


「ちょっと……ね」


「その時に偶々、会長室を五分ほど離れなければならない時があってね。彼には悪い事をしてしまったよ。折角、来てもらっていたのに慌ただしくて。結局、その後も生徒会の仕事が急遽舞い込んでしまって余り会話ができなかったんだ」


「空白の時間に彼は一体何をしていたのかしら?会長室に一人残されて」


「さぁ?僕は『少し待っていてくれ』としか言わなかったからね」


「そう言えば、書記の子に聞いたんだけど会長室に盗難があったんですって?」


「うん……でも大したものは盗まれていないけどね」


と聞いているわ。なのに被害届を出さないのかしら?」



 やれやれ、どうやら義姉上は全てお見通しの用だ。

 

「勿論、被害届は出すよ。らね」


「今はその時ではないと?」


でしょ?」


「困った子ね。一体何時からそんなに悪い子になったのかしら」


 楽しそうに笑う義姉はこの件を僕に一任してくれるようだ。

 そもそも生徒会長室の机の中を勝手に漁って立体写真を持ち帰る人間が悪いし、僕は何もしていない。ただ、大公女とその取り巻きの困った行動を少し話して聞かせただけだ。まあ、その時に証拠物件が机の中にあるとはチラリと話したけど。それだけ。別に誘導した訳でも何でもない。彼が勝手に忖度しただけだ。お願いした訳でもなんでもない。

 

 新聞王は息子がどういった経緯で手に入れた情報かは知らないのだろう。息子の方もまさか「盗んで手に入れた」とは言い難い。誤魔化して話しているのだろう。父親の方も最初は訝しむだろうが、ネタがネタだ。美味しいネタが一杯だったから記事にした方が良いと判断したんだろう。




 被害者が高位貴族なのもポイントだ。

 しかも揃いも揃って国の要人。

 大公女の醜聞を記事にしても情報提供者は息子だ。「学内で起きた出来事を記事にした」と言い繕えなくもない。被害者の家は親だけでなく一族に発言権が大きい。大公家に圧力を掛けられても被害者達の家が結託して更なる圧力をかけて押さえこんでくれると踏んだんだろう。かなり危険な賭けではあるけど一大スキャンダルの特ダネである事を天秤にかけて後者を選んだ口だ。


 新聞王の博打は大当たり。

 大公家は相当叩かれた。

 今も世間に叩かれまくっている。

 暫くはこのネタで大売れだろう。



 

 それにしても新聞王は前回同様に金儲けが上手い。


 折角、僕が義父上に改正案おねだりをそれとなく会話に紛れ込ませて、「准男爵」の位の買い取り価格を百倍にして貰ったのに。全然効果がなかった。どんだけ儲けているんだ?あの男は。呆れを通り越して感心してしまう。



 

 

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