第50話バカ女1

 あの大公女……アホなのか?

 初日だけではない。

 その後もずっと校則違反を繰り返しては水浸しになって帰っていくという行為を繰り返している。これ、学校に来る意味があるのだろうか?

 

 大公家に「お宅の新しい娘さん、頭がおかしいのでは?病院に連れて行ってください」と遠回しの手紙を送ったせいか数日休んでいた。


 その間、大公直々に意味不明の手紙がきた。「娘は市井での生活が長く、貴族社会に大変疎い。多少の事は大目に見てくれ」的な内容だった。親子共々アホなんじゃないか?それともこっちが何も知らないと高を括っているんだろうか?大公女になって既に五年は経ってる。それなのにまだ何も知らない子供でいるらしい。やっぱりバカだ。なので大公家だけでなく学園に通う全ての家に注意喚起を行った。

 曰く、「大公家の新しい令嬢は淑女のマナーも知らないバカだから近づかないように」と。何も嘘はついていない。学校に通うのに夜会のように化粧を施したり香水を振りまいているのは「バカ女」に尽きるだろう。この噂は瞬く間に広がったのは言うまでもない。休みの間、父親に絞られたのか化粧や香水を付けてくる事はなくなった。遅すぎる対応だ。どうせならもっと早く取り組むか、自主退学すればいいのに。でも、これで分かった。あのバカ女に前回の記憶はない。

 前とあまりにも違い過ぎる展開が続いたため、僕以外にも記憶持ちが存在しているのかと思ったのだ。一番持ってそうだと考えていたのが大公女だった。なにしろ、前と一番違っているのは彼女だからな。でも、あまりにもお粗末な対応に「違う」と判断した。



「え?もう一度言ってくれないか?」


「はい……その大公女様が生徒会室の前で会長を待っているそうで……」


「なんで?」


「今までの事を謝罪したいと仰っています」


 僕は眉間にシワを寄せた。謝罪するくらいなら最初から校則を破るなって話だ。それに今までの行動からそんな殊勝な考えがあるとは思えない。何か裏があるのではと考えるのが普通だ。ただでさえ忙しいのにまた厄介事が増えそうな予感……。


「謝罪は不要だと言って追い返して」


「宜しいのですか?」


「この忙しい時期に大公女の世話まで出来ないよ。どうしても帰らないなら大公に手紙を送るとでも言っておくと良い」


「畏まりました」


 父親からの叱責は嫌なのかバカ女は素直に帰ったらしい。

 念のため生徒会室前に設置している隠し映像を見ることにしよう。あの手のタイプは本人のいない処で本性を晒すものだからね。


 生徒会の権限を利用して取りつけておいたのが正解だった。

 役員たちと一緒に映像を見たがそれはもう酷いものだった。あれだけの騒ぎを起こしているのにも関わらず反省した様子がないどころか自分の行動が正しいと思い込んでいる節があった。前回を知らないのだとしてもとんでもない思い上がりである。




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