第36話冤罪事件2

 ジョヴァンニ・カストロの冤罪事件そのものは実に単純なものだった。


 

 辻斬り――



 殺された人間は貧民街出身とはいえ、罪は罪。それも犯罪とは縁のない女子供とあっては放っておけるものではない。目撃情報もある。すぐに捕まると思われていた事件の最重要容疑者に上がったのが当時、十一歳だったジョヴァンニ・カストロ。彼は己の剣術を磨くために、または剣の切れ味を試すために人気のない場所で人を切りつけるという犯罪行為を行ったという。


 ただ、証言をしたのが同じ貧民街の者達。信憑性に欠ける。その上、彼らの証言だけでは証拠として弱すぎた。容疑者として挙げられたのが僅か十一歳の少年というのもいただけない。しかもただの少年ではない。近衛騎士団団長であり侯爵の嫡男。ちょっと話をと言うだけでも憚られる相手だった。殺されたのは子供だけではない。大人も含まれている。「剣を持っていたとしても子供が果たして大人を殺害できるものだろうか」と言う常識的な側面からも擁護の声が上がった。


 それでも嫌疑は晴れることは無かった。何故なら被害は徐々に拡大し始めており、貧民街の住民以外にも被害が及んでいたからだった。最初の頃はジョヴァンニを信じて庇っていた面々も、幾つかの証拠が出てきてしまえば信じ続けることができなかった。ついには侯爵家と縁を切られてしまったのだという。孤立して行き場を失った彼に手を差し伸べたのがルーチェ・グラバー大公女だった。彼女はジョヴァンニの無実を信じたのだ。そして大公家の力を駆使して冤罪の証拠を集め奔走し、真犯人に辿りついた。


 真犯人は騎士団所属の平民で、以前からジョバンニに嫉妬していたと供述した。動機については色々とあったようだ。騎士団での貴族達の横暴や暴行行為、いじめ問題。ストレス発散で貧民街の者を斬り殺して回っていたらしい。ジョバンニを犯人に仕立て上げるつもりは無く、証言者たちが偶々ジョバンニに似た少年を目撃した事で彼を犯人に据える計画を思いついたらしい。結局のところ恵まれた環境にいたジョバンニを妬んで自分の身代わりにしようと企んだと言う訳だ。

 

 ただ、犯人は自供したその夜に独房で死んだ。

 隠し持っていた毒薬で命を絶った。


 彼のズボンのポケットから毒薬の入った小瓶が見つかった事から覚悟の自殺だとされた。





 これは本当に自殺なのか?

 



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