第32話公爵の部下side

 

 グラバー大公家――


 初代国王の第二王子を祖にするセニア王国唯一の大公家は、その血筋を何よりも誇りとしている。だからこそ、今の王家に対して不満を持っていた。


 血筋の卑しい国王一家に。


 それでも大公家が王家に取って代わらなかったのは敗戦国となった国の傀儡の王になる事に耐えられなかったせいだろう。

 先々代国王に続き、現国王のやらかしに一番怒り狂ったのはグラバー大公だ。


 国王陛下にあれ程までの魔力がなければ大公の手によって廃されていた可能性は大いにある。


 初代国王の再来と謳われた魔力。それがあったからこそ、国王として戴冠できたともいえる。あのような事件を起こした後であっても忠誠を誓えたのだ。そうでなかったら間違いなく内乱が勃発していただろう。それほどまでにこの国では魔力が大きな意味を持っている。周辺諸国の信用を失ったとはいえ、侮られていないのは偏に陛下の魔力による。軍事に集中しているとはいえ、それがなければ国全体に結界を張れるほどの力の持ち主だ。他国からの侵入を許すことはないし、外からの攻撃に特化した魔法道具も陛下の魔力が源となっている。陛下の魔導技術の高さは有名であり、その威力も桁外れなものだ。だからこそ今迄は均衡を保つことができたのだ。それを失った今、陛下の存在そのものが危い状況だった。


「どうしたものか……」


「はい?」


 思わず口に出てしまった言葉を部下に拾われてしまった。

 

「何でもない」


 そうだ。今、考えなければならないことは例の計画だ。失われた陛下の魔力。理由が分からない以上は対処のしようがない。侍医の話でも健康面に問題はない。宮廷魔術師達もこのような事になったのは前代未聞だと首を捻っていた。


 過去を詳しく知る者は秘かに「神罰が今降り立ったのでは?」と囁くほどだ。


 正統な血筋を王家から追い出した事を神が憂いていると言う馬鹿げた主張が聞こえてきた時は流石に大声で笑ってしまった。確かに、今の王家は元愛妾の血筋だ。だが、それを言うのなら先代国王が即位した時に神罰が起こっているもの。今更過ぎる。第一、初代国王の直系であることは間違いないのだ。



 例え、第一王子に王家の瞳と謳われた「紫の目」を受け継いでいなくとも――――



 

 神罰だと言うのなら大公家の方だ。跡取りの男児は全て非嫡出だ。老体だというのに未だに跡目を息子に譲らないのもそのせいだろう。


 

「男爵、例の書類が……」


「宰相閣下からか?」


「はい」


「分かった。厳重に保管しておいてくれ」


「はい」


 

 明日、陛下に上奏する案件だ。

 もっとも既に決定事項であり、今の陛下にそれを拒むことはできない。



 王家と大公家の縁組。

 それを阻むことは誰にもできないのだ。




 

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