第17話とある子爵side


 怒りを通り越して呆れた。


 どうやら被害者は私の息子だけではなかったようだ。

 あの腐れ外道共は他の貴族子弟に対しても似通った事をしていた。

 流石に伯爵以上の子弟には不埒な真似はしなかったようだがそれでも罵声と鞭打ちだ。しかもその映像を証拠として残しているというではないか!!

 

「こんなことが許されると思っているのか!!」

 

「えぇ許される筈がありません!!このような事は断じてあってはならないことです!直ぐに調べさせましょう!徹底的に調査いたします!!」


 妻の怒りは相当なものだ。

 私ですら怒りを抑えきれんのに冷静沈着で優秀な妻のことだ。さぞかし内心腸が煮えくり返っている事だろう。

 

 しかし……これは大事になる。


 たとえ被害者とはいえ、こんな映像が世間にでれば息子も他の子弟も醜聞の嵐は免れない筈だ。

 それにこれだけでは終わらないだろう。下手したら今文官として活躍している者達まで引きずり落とされる可能性がある。彼らも被害者の筈だ。かと言って自身の醜聞を口にするとは思えない。沈黙を保とうとするだろう。映像だけで何処まで戦えるか。相手の教師達には平民と貴族の両方がいる。両方の階級に詳しい彼らの事だ。何かしら対抗手段があるに違いない。


 私も動く必要がある。

 こうなったのも親である私の責任だ。

 フォード氏の実績と公爵家の紹介もあって彼らを息子の家庭教師に雇い入れたのは私だ。だがいくら能力があっても人としての資質は別問題だということを失念していたようだ。


「どうされますか?すぐに行動に移しますか?」


 妻の言葉に我に帰る。私は深く考えすぎてしまったようだ。そうだ。私が悩んでいても仕方がない。先ずは息子の為にもやれることからやっていくべきだ。

 

「そうだな。まずは父である私が彼らを雇い入れた各家に対して事情の説明と今後の対応について話し合いたいと思う。彼ら以外にも教育者の肩書で子供達に悪事を働いている可能性がある。それで構わないかな?」

 

「分かりました。直ぐに準備させます」


 それから妻と相談しながら話し合いを進めた結果、全ての家で事実確認がされた。そしてこの事が公になる前に、当事者達には相応の処罰を与える事で合意したのである。こうして事件は収束を迎えたのだが、この時はまだ誰も知らなかった。息子は魔力暴走によって自身の魔力を封印してしまった。


 眠り続ける息子の容態は良くならない。医師からは「ストレスによる昏睡状態が続いています」と言われた。日に日に酷くなっていく息子を前に、私はただ祈ることしかできなかった。最近では寝言でさえ苦しそうな叫びをあげている。恐らく精神崩壊は免れないだろう。それでも何とか自我を保ち続けようと抗っている。


「お願い!お願いだから目覚めて!!」


 妻は泣き崩れながらも息子に付きっきりで回復魔法をかけ続けている。その姿を見ると涙が止まらない。

 私は父親失格だ。

 息子を守れなかったばかりか妻を悲しませている。

 このまま目を覚まさなかったら私は自分を一生許せないかもしれない。

 その時は責任をとって死を選ぶべきなのだろうか?



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