第14話最高の家庭教師


 義父の執務室を出ると同時にもう一人の身勝手男の存在をどうするかを考えた。


 フォード氏。

 

 僕の家庭教師は前回の時と一緒。

 これがまた最悪の教師だった。


 彼は平民出身とはいえ貴族学園をその優秀な頭脳で特待生として入学、卒業した。

 卒業後は何故か進学にも文官になることなく雇われ教師としての道を歩んでいた。


 彼の教え子は学園に入る前の幼い子供がターゲットだ。


 貴族学園は十三歳から十八歳までの六年間。

 その間は各家で各自の家庭教師に学ぶのが貴族として一般的だ。なかには他の私立校に通う子女もいるだろう。だが、そういった貴族は極少数に留まっている。


 貴族の子女と言えども子供の身だ。

 特に茶会やパーティーといった交流を始める前の真っ白な状態。世間の厳しさを知らない幼児だ。しかも魔法を上手く使えず魔力暴走を起こす事だってしばしばある。なにが言いたいのかと言うと、この年代の貴族子女を教育するというのは大変だという事だ。


 平民出身は魔力を持つ者が少ない分、学校に行っても問題を起こさない。

 だが、貴族の大半が強い魔力持ち。情緒不安定な子供は無意識に魔法を使い、場合によっては制御できない魔力暴走を引き起こす。故に敷地内から出る事が叶わない。外の学校に通えるという事は魔力が弱く魔力暴走を起こさない子供か、もしくはコントロールが制御できる子供に限られていた。


 フォードはこの歳の子女達の扱いの難しさを逆手に取ったと言ってもいい。腐った性根とはこの事だ。

 もしかしたら、フォードは貴族を憎んでいたのかもしれない。

 だから貴族の子女にはありえない高圧的な態度をとっていたのだ。

 前の僕は本当の幼児だから気付かなかった。

 あれは虐待同然だと。


 他の教え子たちも当時は気付かなかったのだろう。一桁代の子供に解れというほうが酷だ。ましてや初めての教師となればそれが当たり前と思っても仕方がない。


 本来自分が頭を垂れなければならない身分の者を虐げることで貴族そのものに復讐していたのだろう。マンツーマン指導の教育は他者に気付かれにくい。


 僕はフォードをどのように料理してやるか策をめぐらした。


 

 前は今代最高峰の教育者として貴族学園の学長にまで伸し上がった男。

 彼は義姉上の件に関わってはいない。

 だが助ける事もしていない。

 ただ見ていただけだ。


 見て見ぬふりをしたのも罪人だろう?


 僕の「公爵子息教育」は僅か三ヶ月で終了した。


 


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