第22話 マスター!!

 プシャーーッッ!!


 ルビーとエメラの一撃は奴のミナヅキ・アオアジサイに破られた。


 バタンッ!


 二人は血が吹き出るのを感じながら倒れた。

「ハハッ、私たちの……負けか」

「……クッ……ソ」

 ルビーは笑い、エメラは痛さのあまりもだえる。

(負けたのか……私たちは……)

(あんな奴に負けるなんて……不覚……)

 そんな二人のもとに、ルイスが歩み寄る。

「さっきの一撃は見事だ」

 なんとルイスは二人に称賛を送ったのだ。

「「……えっ?」」

(褒められた?)

(今、称賛を送られた? アイツから?)

「おいおい、折角俺が褒めてやってるのに何だその顔は」

「え、いや、私たちはてっきり」

「このまま痛ぶられると思っていた……」

「あぁ、あれは……ウソだ」

「「ウソ?」」

「元からお前たちを痛ぶるつもりはなかった」

((散々痛ぶっておいてそれは絶対、ウソだ(よ)!!))

「なら何故あんなことを?」

「お前たちの実力がどの程度かを知りたかった。これが主な理由だな。だから、俺はお前たちをワザと煽った」

(本当か? 本当にそれだけか?)

「もう一つ聞いて良いか?」

「何だ?」

「そこまでして私たちを欲する理由は?」

(どうせ、私たちの身体目当てだろう)

 ルビーは鋭い眼光を飛ばしてルイスを睨む。

「それを聞いて何になる」

「私の興味本位さ」

(正直、口実なんてどうでも良い。奴の考えが知れれば……)

「……戦力として実力があるお前たち二人が欲しかった──ただそれだけだ」

「本当にそれだけか?」

 何か裏があると思ったルビーはもう一度ルイスに問う。


「──お前たちは強者と戦いたいんだろ?」


「「──ッ!!」」

 その言葉を言われた瞬間、二人は声を出せなくなった。それは、ルイスに何もかも全て見透かされていると身にしみて感じ取ったからだ。

(オイオイ、嘘だろ。私たちの心の覗き見してるんじゃないか?)

(まさか、私たちが思っていることを言い当てるなんて……)

「俺のところに来れば、いつでも好きな時に強者と戦える。お前たちも強くなれる。衣食住にも困らないし、お前たちの安全は俺が保証する」

「そうか……なるほどな」

(コイツのとこに居れば退屈しなさそうだな。それに、強い)

 ルビーはルイスが言っていることは嘘ではないと判断し、付いていくことにした。

「いいぜっ! お前のところに行ってやるよ!」

「ちょ、姉さん!?」

(姉さん、何言ってるの!)

「エメラ、私たちはコイツに負けたんだ。なら、敗者は勝者の言うことに従う。違うか?」

(アイツに負けたのは悔しいけど、姉さんの言い分は正しい。だから、私はコイツの下につく。だって、姉さんと私で決めたルールだから──)

「ち、違わ……ないです……」

「なら、お前ら行くぞ」

「待ちな! アンタの名前をこっちはまだ聞いてないぜ?」

 ルイスはそう言われたので振り返って言った。

「ルイス・フェイト・バハリエリだ」

「私は【ルビー】。そして、こっちは妹の【エメラ】。孤児だから私たちに名字はない」

「よ、よろしく……」

「ルビーに、エメラか……覚えておこう」

「これからはよろしくなっ! !!」

 ルビーはニカッと笑う。

(ね、姉さーんッ!?!?)

「何だ? そのマスターって?」

「私がそう呼びたいだけだ。実際にマスターは、この私たちを負かしたんだから。ほら、エメラもっ!」

「マ、マスター、こ、これから……よ、よろしく」

(どうして、こんな奴のことをマスターって呼ばなくちゃいけないのよ。屈辱だわ……)

「まあ、とにかく帰るぞ」

「ど、どこにだ? マスター?」

(帰るってことは、私らのダンボールハウス?)

「どこって、俺たちの家だろ?」

「家ってどこですか?」

 エメラはルイスが言う『俺たちの家』が分からなかった。

「家って……ルビーとエメラも住む俺たちが住む家に決まっまてんだろ?」

「「──ッ!!」」

(私たちの……)

(家……)

「何をそんなに驚いてるんだ? 二人共」

(ハハッ、マスターはおかしな人だッ!)

(普通の神経の奴だったら、私たちを奴隷契約で性奴隷にするのが妥当。それをしないということは──私たちに信頼を置いている?)

「いや、何でもない。マスターは面白いな!」

「姉さんの言う通り、何でもない──面白いかどうかは別として、私も少しだけ興味湧いた」

 エメラは口角を少しだけ上げて言った。

「そうかよ。なら取り敢えず足を動かせ。帰るのが遅くなる」

「はいはい、分かったよ。マスター」

(マスターはせっかちだな)

「ちょ、私はまだおま──マ、マスターを許した訳じゃないからな!」

(実力は認めるけど……それだけだから! あと、せっかち)

 楽しそうなルビーと素直じゃないエメラは、これから始まるマスターとの生活を楽しみにしながら、その背中を追いかけるのだった。

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