第10話 淫乱蜘蛛

「う、うーん……」

 むにゅっ!!

 俺がベッドで寝返りを打つと、顔面に何か柔らかい物が当たる感触があった。

 しかし、俺は起きない。 

 何故なら、眠いからだ! 以上! 二度寝開始!

 そして、俺は再び眠りに落ちて二度寝をする……

 はずだった──

 むにゅにゅっ!!

 今度は、その柔らかい物が顔面にこれでもかと押し当てられ、空気を取り込む鼻と口がふさがれて息が出来なくなりかけたので、目を開ける。

「すー……すー……」

 すると目の前には、今もなお寝息を立てながら、俺の顔に豊満な胸を当てながら寝ている全裸の美少女がいた。

 俺は、気にせず瞬時に足りなくなった酸素を掃除機の電源【強】のごとく、吸い込む。

 スゥーッ、ハァァァァア!!

 アー、死ぬかと思った。

 何とか命を繋いだ俺は隣で寝ている美少女を起こす。

「おい、何で俺のベッドで寝てるんだ?」

 そう何を隠そう、この俺の隣でスヤスヤと寝ている美少女はもこである。

 先日、リナともこと一緒に冒険者ギルドの一つ上の依頼であるブラックベア討伐を受けたときに、もこがそのくまを蜘蛛糸でぐるぐる巻にして、自分の毒の牙を使い、動けなくなったところを食らったら……何故かこうなった。

 もこ本人は、ルイス様と同じ人間になれるようになって嬉しいと喜んでいた。

 追々、話を聞くと、蜘蛛形態にも人形態にもいつでもトランスフォーム出来るらしい。

「う、う〜ん。あっ、ル、ルイス様おはようござい──スピー……」

「ふむ、俺が話している時に寝るとは──いい度胸だな! もこ?」

「も、ももも、申し訳ありません! ル、ルルル、ルイス様!」

 俺の機嫌が悪くなったのを察したのか、ベッドの上かつ全裸の状態で見事な土下座を披露した。

 美術館に出したら、鑑定士たちが口をそろえて『これはまさに、土下座の中の土下座! キング・オブ・土下座! いや、クイーン・オブ・土下座だ!』っと言うに違いない。

 なら、もこが用済みとなれば美術館で飾るのも一つの手か……。

「お前は何で全裸で俺の横に寝ていたんだ?」

 先程から、話が逸れて逸れて忘れていたが、まあ気にしないでくれ。

 いいか、気にするなよ。絶対に気にするなよ!


 ──数秒後


 いや、少しくらい気にしてくれても良いんだぞ?


「え、えっと〜、非常に……言いにくいのですが……」

「なんだ?」

「ルイス様と寝ていると、心が安らぎ、気を許してしまい、どうしても自分では服を維持することが出来なくなってしまうのです……」

 いや、それどういう仕組み? 何で俺と寝てるだけで服が解除されるわけ? マジで、意味わからんのだが……。

「まあ良い、それはそれで対策は出来るからな。もこ、今度お前の服を見繕みつくろってやる」

恐悦至極きょうえつしごくでございます」

そんなやり取りをしていると──部屋の扉が開かれる。

「「ルイス様、おはようございます」」

 運が悪い事にリナとベルファストが入ってきてしまった。

「「──ッ!!」」

 まあ、そうなるよな。

「も、もこー!? ルイス様とい、いいい、一体何をしていたの!?」

「もしかして、お楽しみ中でしたでしょうか。ルイス様の意向をみ取ることが出来なかったこのベルファストをお許しください」

 俺がベッドの上で全裸のもこを土下座させてるとなると「ヤッている最中でしたか。すみません」ってなるよな。

「念の為言っておくが、勘違いだ。俺はただ、もこに説教をしていただけだからな」

「そ、そうですよね! ルイス様に限ってそんなことないですよね!」


 リナは胸をほっと撫で下ろす中──


「……説教プレイ? でございましょうか?」


 うん、このメイドは後でキッチリとしつけてやらんといけないみたいだな。覚悟しておけよベルファスト。

 っと話がズレたな。

「ところで、ベルファスト。朝食の準備は出来ているな?」

「はい、いつも通りに」

「リナ、いざ尋常に勝負!!」

「望むところです! ルイス様!!」

 俺とリナの毎朝の勝負ルーティーンが今、幕を上げた。

「あ、あの〜ルイス様〜、私は何をすれば……」

「もこ、お前は取り敢えず服着ろ」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 

「も、もこー!? ルイス様とい、いいい、一体何をしていたの!?」

 なんと、もこがルイス様に対して全裸で土下座をしていたのだ。

 う、う、羨ましすぎる! 羨ましすぎるわよ、もこ! 

 ルイス様の視線が土下座しているもこの髪、胸、背中、もも、ふくらはぎ、唇、体の様々なところへと舐めるようにして注がれている。

 ハァッ、ハァッ、もこのせいで、こちらが興奮してきてしまったではないですか!

 どうしてくれるんですか!

 私は、息が荒くなるのを何とか抑える。

 危うく、ルイス様の前でらしてしまうところでしたよ。

 そう思ったものの、万が一のためルイス様にバレないようにして確認する。

 ダ、ダメです! ル、ルイス様に気付かれてしまいますぅ♡ 

 背徳感はいとくかんがある中、優しく指で体をなぞる。

 ふぅ、良かった。

 何とか、ルイス様にバレずに確認できました……

って違いますよ! そういう話じゃなくて!

 私は、ルイス様からお叱り《しか》を受けることはあっても、こんな羞恥しゅうちプレイはされたことが一切ありません! 

 まさか、もこが私よりも先にいってるなんて。しかも、ま、真っ裸で土下座をルイス様の目の前で、ベッドでなんて──そ、そんなこと私には出来ません! いや、ルイス様にされと言われれば、もちろん恥ずかしいながらも、身も心もさらけ出しますが──。

 その後、私の心の中での自問自答が始まった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 私、ベルファストは、遂にルイス様にも春が来たと思い、嬉しい気持ち半分、悲しい気持ち半分で御座います。

 私は、ルイス様にリナやもこの二人よりも、一番信頼を置いてもらっていることを自覚をしています。

 ですが、ルイス様がもこに対して説教プレイをまさかしているとは思いもよりませんでした。

 子供を産めないアンドロイドである私は、ルイス様からちょっかいをかけられないので、もこが少し羨ま──とは思わないですね。

※ホントは羨ましい

 

 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「はむっ! はむっはむっ!」

「あむっ! あむあむあむ!」

 俺とリナは、テーブルいっぱいに広がる料理をあれよこれよとお皿に手を伸ばし、片っ端から食らっていた。

「ルイス様とリナ様のお二人とも、朝から凄い食べますね。そうは思いませんか? も──」

「あーむ、アムアムアムアムアムアム!!」

「いや、アンタもかい!!」

 キマッター! もこの渾身こんしんのボケがベルファストにクリティカルヒットオォォォォオ!!

 そこに、ベルファストによるもこへのツッコミもキマッタアァァァア!!

「ルイス様、お食事中のなか申し訳ありませんが、ご報告が御座います」

 ベルファストは俺の側まで来てそっと耳打ちをしてきた。

「いかが致しますか?」

「俺の方から奴らをしつけに行く。俺は、俺自身に金銭を払い、びて、命乞いをして、自分の立場を理解している者には、最大限生かしておいてやる価値があるが、自分たちが俺よりも弱いくせに、媚びずに強がり、挙句の果てには挑発して煽ってきて、立場を理解していない奴らには、俺が直々にどっちが上か教育してやんよ!」

「ふひふはまに(ルイス様に)、ははらうはんて(逆らうなんて)ふふへまへん(許せません)!」

「はふはへふ(流石です)、ふひふはま(ルイス様)!」

「リナ、もこ、お前たちは口に入っている物を食べてから喋りなさい」

 二人は、口に入っている物を飲み込む。

「奴らが誰に喧嘩を売ったのか分からせてやりましょう!」

「すみませんルイス様。あまりにも料理が美味しくて、つい」

「食事が終わったら奴らを躾けに向かう。それまでに準備を整えておけ」

「はっ!」

「はい」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 OMG《オメガ》のパーティーメンバーである、聖女、魔術師、盾持ち、勇者の四名は一人の青年の攻撃を食らって地に伏せ、戦闘不能におちいっていた。

「な、何故……です……か……」

 傷だらけで今にも意識が飛びそうな中、大きく穴が空いたクレーターに剣を突き刺して、何とか両足で立ち、目の前の人物に少年は問う。

「神よ! 何故、魔族に手を貸すのですかぁ!」

 そう大きな声で、これでもかと力一杯叫ぶ。

 少年の問いを聞いた神は答える。

 その姿は、腰まで伸ばしたあわ褐色かっしょくで黄色みのある髪色(亜麻色)で、女性のような顔立ちをしていて、キトンを身にまとっていた。

「世界のバランスを保つためには、魔王と勇者が双方共に必要不可欠な存在だと言える。だから、魔族を殺されては困るのだよ。もちろん、その逆もまた然り。それが僕たち、のやるべきことだからね」

「……な、納得が……いきません! 魔王は人類にあだなす存在です! それを何故、神であるあなた様が力を魔族にお貸しになるですか!!」

「君は魔族は人類に仇なす存在だとそう言ったね ──その認識は、いささか間違っていると思うよ」

「──どういうことですか?」

「君たち人類もまた、他種族の迫害、殺人、奴隷、強盗、強姦、その他諸々もろもろも含めて、魔族と同じことをしていることに、気付いていないのかな?」

「──たとえ、そうだとしても、僕は勇者だ! 人々を守るのが務めだ!」

「──そうか、なら私はこの世界のバランスを保つのが務めさ。君なら分かってくれると思ったんだけどね」

 神は、残念そうにしながら左手を勇者に向ける。

 そして──口を開いた。

「Perfect Angel(パーフェクト・エンジェル)」

その直後、神の御業みわざによる光の爆発が生じ、勇者パーティーは全滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る