第231話 仲間だから
大司教が叫んだ言葉に皆は顔を見合わせる。
「仲間だから?」
全員の言葉が重なった。その言葉に私は涙が出そうになった。皆もルギニアスを仲間だと思ってくれている。それがこんなにも嬉しい。
ルギニアスの私の肩を掴む手にグッと力が籠ったのが分かった。見上げると……
「フフッ、ルギニアス、嬉しいね」
「うるさい」
眉間に皺を寄せ不機嫌そうな顔になってはいるが、私にはちゃんと分かっているんですからね! 必死に隠そうとしているルギニアスを可愛く思ってしまった。耳が赤いのは隠せてないよ。フフッ。
「元々ラフィージアの人間だと言っただろう。私の祖先を馬鹿にするのはやめてもらおう」
じりっと歩み寄ったオルフィウス王に、大司教は怯えた顔を見せる。そして、俯きながら呟く。
「では……我々はなんのために……なんのために今まで聖女を繋いで来たのか……我々がやって来たことは一体……」
目を見開きながらブツブツと呟き続ける大司教のその視線はどこを見ているのか、視点は彷徨い、焦点が合っていないように見えた。それほどまでに結界を見守り続けるということは、精神的に負担を負っていたのかもしれない。そう思うとこの人も可哀想だと思ってしまった。
「結界を今後どうしていけば良いのかは分かりません。でも、きっと……なんとかなるような気がする……。だから、とにかくお母様に会わせて!!」
そう叫ぶが、大司教の耳にはもう誰の声も届いてないようだった。「私は……私は……」とブツブツ呟くばかりだ。どうしたものかと、皆で顔を見合わせていると、大司教を支えていたひとりの司教が、こちらに向いた。
「我々が結界までご案内致します」
私たちの背後にいた司教たちは、私たちを囲うのを止めたかと思うと、ひとりが大司教の手を引き、部屋の奥へと消えて行った。
そして、残った司教たちは私たちに深々と頭を下げる。
「我々にはもうどうすることも出来ません。どうかお助けください……」
その言葉に酷く不安になった。お母様……お父様……大丈夫なの? 今、どうしているの?
「こちらへ」と、司教たちが促そうとした瞬間、なにやらぞわりと身体が震える。なにかとてつもない魔力を感じる。
皆も一様に感じ取ったのか、身体を強張らせ身構える。ルギニアスは私の肩を抱いたまま、辺りを見回した。私も同様に見回すとある異変に気付いた。
「女神の像が!!」
叫んだ瞬間、この場にいた全員が女神像を見上げた。
女神アシェリアンの像が先程見たときよりも、より一層黒ずんで来たのだ。じわじわとまるで毒に侵されていくような……。
「結界が弱まっています!! 急ぎましょう!!」
司教の顔は蒼褪め、私たちを見るその顔には焦りの色が浮かんでいた。
「結界はどこだ!?」
ルギニアスが叫んだ。
司教たちは女神像の後ろへと走った。私たちはそれに続く。女神像の後ろには地下へと続く隠し扉があった。ふたりがかりでその扉は開かれ、暗闇のなか階段が現れる。司教は魔導ランプを手にし、その階段へと降りて行った。
階段は真っ直ぐに伸び、どこまで降りて行くのか、終点と思わしきところへと降り立つと、その先には小さな扉があった。その扉の先には小さな部屋。至って普通の石壁に囲まれた狭い部屋だ。
ただひとつ、この部屋の異質さ……それは、床に、壁一面に、天井にすら、部屋全体に魔法陣が描かれていることだった……。
四方の壁、天井、床、合計六つの白い線で描かれた魔法陣。それがとても異質なものに見えた。
「ここは?」
「ここから結界へと転移します。この場所は……本来、聖女様と大司教様しか通ることは許されておりません。しかし、もう……」
そんな決まりを守っている場合ではない、との判断なのだろう。先程からずっと鳥肌が立ちそうなほどの魔力を感じ、それが段々と強くなっている。お母様……お父様……。
「皆様、中央に」
言われるがまま、全員が床に描かれた魔法陣の中央へと集まった。そして、数人の司教は魔法陣を囲むように並び、魔力を籠め出す。
「本来、聖女様の魔力と大司教様の魔力で転移の扉が開くのですが、我々の魔力で開くことが出来るかは分かりません。それでも……」
「私も手伝おう。魔力には自信があるものでね」
オルフィウス王がニヤッと笑みを浮かべながら言った。
「俺たちの魔力でも大丈夫なら手伝うが……必要ないかもな」
ヴァドも同じように声を掛けたが、ルギニアスを見て苦笑した。ルギニアスとオルフィウス王の魔力が身体の周りに揺らぐように溢れているのが分かったからだ。魔力を感知することが出来ない人間でも、おそらく二人の威圧感のある魔力はきっと肌で感じるだろう。
「では、参ります!!」
ひとりの司教が声を上げた瞬間、残りの司教たちが最大限の魔力を放出し出す。その流れに乗るように、ルギニアスとオルフィウス王の魔力も吸い取られていくように流れ出した。
魔力は部屋に描かれた全ての魔法陣に吸い込まれていったかと思うと、激しく光り出す。そして真っ白な光で埋め尽くされた部屋はなにも見えなくなった。ルギニアスの私を抱き締める腕の力だけを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます