第224話 変わり始める関係
翌日、目覚めたときにはルギニアスはすでに起きていた。窓辺でぼんやりと外を眺めている。それがなんだか景色ではなく遠いところを見ている気がして不安になった。
「ルギニアス」
ベッドから身体を起こし、小さく声を掛けると、ルギニアスはこちらに振り向いた。そしてこちらに歩み寄って来たかと思うと、そっと手を伸ばされ頬を撫でられる。
「!?」
ルギニアスの温かい手が頬を撫で、そして顔が近付いてくる。な、なんなの!? 固まっていると、じぃっと正面から見詰められ、一気に顔が火照っていくのが分かった。あわあわとしてしまい、目が泳ぐ。
「おはよう」
「え!? あ、お、おはよう!!」
「フッ。なんで大声」
思わずどもるし、焦って大声になるし、でプチパニックに!
「顔色は戻ったな」
「え、あぁ、寝てすっきりした」
そっか、昨日のことで心配をかけていたのか。膨大な記憶、アシェリアンとアリシャ、それにアリサの記憶……その全てを一気に見たせいで、私の頭はパンクしかけていたのかもしれない。かなり顔色が悪かったらしく、皆に心配をかけてしまった。
「心配かけてごめんね」
「あぁ」
「ルギニアスも大丈夫?」
私と一緒に全ての記憶を見たルギニアス。私以上に自身の関わることばかりの記憶だったルギニアスのほうが、さらに精神的にキツかったのではないかと思う。ベッドのすぐ横に立つルギニアスの手を握った。
ルギニアスは再び私の顔を見詰め、そしてフッと笑った。
「大丈夫だ」
その顔は優しく微笑んでいた。今までこんな穏やかで優しい顔を見たことがない。ルギニアス自身もあの過去の記憶を見て、なにか吹っ切れるものがあったのだろうか。そうだったら嬉しい。
アリシャやアリサとは共に過ごすことが出来なかったけれど、ルギニアスが今、心穏やかに暮らせるのなら、今までの辛いことも上書き出来るくらい幸せになれるのなら、私はそれを全力で守りたい。
「ルギニアス!!」
「な、なんだ?」
ビクッとしたルギニアスはほんの少し目を見開いた。そんな姿も珍しく、なんだか嬉しくなってしまう。
ベッドからガバッと飛び降りた私は、ルギニアスにぎゅうっと抱き付いた。
「!?」
「ルギニアス!! 大好き!! どこにも行っちゃ駄目だからね!!」
「は、離れろ!!」
肩を掴まれ引き剥がされそうになるが、負けじとさらに一層力を籠めて抱き締める。ルギニアスの心臓の音が聴こえる。温かい体温を感じる。それを失いたくない。逃がさないとばかりにキツく抱き締める。
「分かったから。俺はどこにも行かないから」
引き剥がそうとする力が緩んだかと思うと、頭上から優しく宥めるような声が降り注いだ。そして、背に腕を回され同じようにぎゅうっと抱き締められる。
「お前もどこにも行くなよ?」
「あ、当たり前!!」
ガバッと顔を上げ見上げると、私を見下ろすルギニアスの顔はフッと笑い、そして、顔が近付いたかと思うと、頬と頬が触れ合い、ルギニアスの唇が耳に触れた。そして囁くように……
「二度と離れないから覚悟しておけ。――――」
「!?」
耳に吐息がかかりビクッとしてしまい、思わずルギニアスへとガバッと振り向いた。鼻先が触れそうなほどの距離に固まり、そしてルギニアスは意地悪そうな表情でフッと笑うと、身体を離し、くるりと後ろを向いた。
「ちょ、ちょっと今なんて!? 今、最後になんて言ったの!?」
最後に呟かれた言葉は、音になるかならないかの、ほんの小さな言葉で……小さすぎて上手く聞き取れなかった……。なにか大事なことを言われた気がするのに……。
しかし、ルギニアスはその答えをくれるでもなく、こちらに振り向くこともなかった。そのままひらひらと手を振ったかと思うと、「予定を聞いてくる」と外へと出て行ってしまった。
え、ちょ、ちょっとぉ!! なんて言ったのよぉ!! し、しかも、に、二度と離れないとか……覚悟しておけとか……な、なんか……なんだか!!
ボンッと爆発したかのように一気に顔が火照った。ルギニアスの唇が触れた耳が熱い……。再びベッドに潜り込み、耳をそっと抑えた。なんだかそわそわドキドキとしてしまい、しばらくベッドのなかで悶えた……。
スーハ―と深呼吸を繰り返し、なんとか必死に顔の火照りを治めたのに、ガチャリとルギニアスが扉を開け戻って来た途端に再び顔がカァァッと熱くなるが分かって、バチンッと両頬を急いで手で隠す。
そんな姿をルギニアスが怪訝な顔をしながら、覗き込んで来た。
「どうした?」
どうしたじゃなーい!!
さっきのは!? どういうつもりで言ったの!? 最後の言葉は!? とか色々聞きたかったのに、口はパクパクと音にならず、ぷしゅうっと力が抜けてしまった。なんか平然としているルギニアスに悔しくなる。
そんなアタフタしているところを見せたくなくて、必死に平静を装った。
「んん、えーっと、今日はオルフィウス王と話をするんだっけ?」
「あぁ」
朝食は各々部屋へと運んでもらえたため、ルギニアスと二人で朝食を摂る。しかし、先程のこともあり妙な緊張感で味がしなかった……。
その後、再び王の間へと向かい、オルフィウス王との面会をする。ディノたちと合流し、王の間へ向かう途中、なにやら私が一方的にそわそわしていたため、イーザンやオキがなにやら怪訝な顔をしていたが、必死に平静を取り繕っていた。
王の間には以前と同様にオルフィウス王と側近らしき人がいた。王座に座ったオルフィウス王は立ち上がったかと思うと、ルギニアスの前までやって来る。
「すまない、話の前にもう一箇所、貴方を連れて行きたいところがある」
オルフィウス王がルギニアスにそう告げ、そして周りに立つ私たち全員の顔を見た。
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