第216話 肖像画
ようやく終点が見えたと思った先は、僅かな広さの地面。そこに漏れ出る灯りが別の部屋かなにかがあることを示していた。
そこに繋がる扉と思われるそれに手を伸ばしたオルフィウス王が取っ手を握り開くと、今までランプの灯りしかない薄暗い地下に光が差し込み目が眩む。
その扉の先にはとても地下とは思えないほど、とても広く明るい部屋が広がっていた。
王の間と同様に円形に広がったその部屋は、王の間よりも簡素ではあるが、とても厳かな雰囲気で静まり返っていた。半円に広がる天井は高く、灯りらしきものは見えないのに、天井自体が光っているのか、部屋全体が明るい。
そしてその厳かな雰囲気を醸し出している原因は、壁一面に肖像画のようなものが並んでいたからだった。
金色の額縁に飾られた多くの肖像画。威厳があり、精悍な顔付き。男性もいれば女性もいる。漆黒の髪に水色の瞳の人たちの肖像画。皆、オルフィウス王と同じ色。
「これは……」
「歴代のラフィージア王の肖像画だ」
私たちが茫然と見回していると、オルフィウス王が言った。歴代のラフィージア王……なるほど、だから肖像画に描かれた人たちは、なんとなくオルフィウス王と似ているのね。
「この肖像画を見てくれ」
そう言ったオルフィウス王はひとりの肖像画の前まで進み、こちらに振り向いた。皆、それに続き、その肖像画の前へと近寄る。そしてその肖像画に目をやると……
「!?」
皆、目を見開いた。
「ル、ルギニアス……」
思わず口にし、そしてハッとしルギニアスに振り向いた。ルギニアス自身も目を見開き驚愕の顔をしている。
その肖像画に描かれた男性。漆黒の髪に水色の瞳、精悍な顔付きであることは他の肖像画とも同じだが……。
その人物の顔はルギニアスに瓜二つだった。
「ど、どういうこと!?」
リラーナがルギニアスを凝視しながら声を上げる。私は……なにも言葉に出来ず、ただルギニアスを見詰めるだけだった。
「この肖像画はラフィージアの二代目の王のものだ」
オルフィウス王はルギニアスを真っ直ぐに見据えながら言った。
その肖像画に描かれている人物、ラフィージアの二代目の王……ルギニアスとそっくりの顔。唯一違うのは瞳の色……。肖像画に描かれているのは水色の瞳。オルフィウス王と同じ瞳の色。しかしルギニアスは真紅の瞳。それだけは明らかに違うのが分かる。
しかし、まるで鏡に映したかのような瓜二つの顔……これは一体どういうこと!? なんだか酷く不安になった。
「ルギニアス」
ルギニアスの傍に寄り、手をグッと握った。その手は先程とは全く違い、酷く冷たい手だった。それがますます不安になり、思わず両手で握り締める。そんな私たちの姿に心配してくれたのか、ヴァドが口を開く。
「オルフィウス王……これは一体どういうことです!? なぜこんなにルギニアスとそっくりな……」
「それはこちらが聞きたいところだ。ここへ来てもらった理由がこれで分かっただろう。本来ならここへは部外者は入ることが出来ない。王である私の他にごく僅かな人間だけが出入り出来る場所だ。それなのに、聖女の話だけでなく、この男の顔を見て聞かずにいられると思うか? だから仕方なくここへ連れて来たのだ」
ヴァドが怪訝な顔をして聞くも、オルフィウス王ですら怪訝な顔となり、こちらを見据える。皆も不安気な顔をこちらに向ける。
ルギニアスは肖像画を凝視していたが、訳が分からないといった顔で俯いた。その目は宙を見詰め、怯えるような、不安そうな……そんな目。
「俺は……誰なんだ……」
ルギニアスが呟いた声は消え入りそうな、怯えているような弱々しい声。そんな声、初めて聞いた……。
「ルギニアス!!」
そんなルギニアスの姿に私のほうが泣きそうになってしまう。思い切り手を伸ばし、ルギニアスの首元に抱き付いた。そして背の高いルギニアスの首をグイッと引き寄せ、頭を抱えるように手を添えるとぎゅっと抱き締める。
「ルギニアス……ルギニアス……私が傍にいるから……絶対傍にいるから」
耳元で囁くように必死に訴えた。ルギニアスが何者でも関係ない。ルギニアスは私にとって大事な存在であることには変わりはない。
そんな私たちの姿を見るオルフィウス王はスッと目を細めた。そして再び口を開く。
「これは極秘事項……この国でも私の他に知っている者はごく僅かなのだが……」
オルフィウス王は少し躊躇うように口にする。
「この二代目の王には双子の兄がいた」
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