第182話 魔傀儡師
真っ直ぐ見詰め訴える。ルギニアスはハァァアと深い溜め息を吐き、魔傀儡を下ろす。
「おい、壊さないのなら縛れ」
ルギニアスは振り向き低い声でそう呟くと、ディノたちは慌てて駆け寄り、魔傀儡を後ろ手に縛り上げた。蹴りや逃亡をさせないために足も縛り、魔傀儡は地面に横たわらせる。
「ルギニアス……ありがとう」
「フン」
不機嫌そうなルギニアスは腕を組み、顔を逸らした。
「今回はルギニアスのおかげで俺たちは出番なしだったな」
ハハ、とディノは笑い、男性陣は苦笑していたが、私とリラーナは魔傀儡の傍に膝を付き覗き込む。
「それにしても本当に人間そっくりね。魔石屋の魔傀儡を見ていたから、それほど驚きはないけれど、腕の断面がなければ絶対魔傀儡とは気付かないわ」
リラーナが感心しながら話す。その間も魔傀儡は動けない身体を必死に動かし逃れようとしている。
「この魔傀儡、喋らないのかしら?」
「うん、魔石屋にいた魔傀儡は喋ってたよね」
「エミリー!!」
私たちがそうやって魔傀儡を観察していると、森のなかに誰かの名を呼ぶ声が響き渡った。
全員が再び警戒態勢に入り、声の主を探す。振り向くとそこには一人の獣人男性が息を切らし駆け寄って来た。
魔傀儡の女性と似た髪色に耳や尻尾。魔石感知を行ってもなにも感じない。普通の人間の魔力を感じるだけ。ということはこの人は……
「魔傀儡師か?」
ヴァドがそう呟き、駆け寄ってきた男性は足を止めた。
「貴方方は……?」
怪訝な顔をする男性は、しかし、私たちの足元に横たわる魔傀儡に目をやると、驚き目を見開いた。
「エミリー!!」
そう叫び駆け寄ろうとした男性をルギニアスが制した。掌を男性に向け翳し、今にも発動させそうなほどの魔力を向ける。
「あんたの魔傀儡か?」
ルギニアスの魔力に驚き足を止めた男性に向かってヴァドが問い掛ける。
「あ、あぁ。僕の魔傀儡だ。返してくれ!」
若干涙目になりながら訴える男性は、ルギニアスの魔力に怯えながらも強い瞳をこちらに向けた。
「こいつは俺たちを襲って来たんだ。返せと言われて、はいそうですか、とは返せない。お前はなぜ魔傀儡に人間を襲わせるようにしていた?」
ヴァドは男性を睨みつつも、冷静に聞いた。
「…………僕はもう魔傀儡は作らないし、修理もしない……だから、僕のところに来られるのは迷惑なんだ…………」
俯きそう答える男性。その言葉にヴァドは呆れるように溜め息を吐いた。
「だからと言って、殺すほどの攻撃をして良いと思ってんのか? 人を殺せば、お前は罪に問われるぞ」
「そ、それは!! ……いや、違う……人を殺したい訳じゃなくて……この辺りは魔獣も多いから……それで……」
「魔獣の対策のために攻撃力を上げたのか? 人間を襲う可能性は考えなかったのか?」
「人の場合は少し攻撃をしたらすぐに逃げる! あんたたちみたいに戦うやつなんて今までいなかった!」
涙目のまま叫ぶ男性の姿を見て、私たちは苦笑する。確かに普通の人ならば、自動攻撃の魔導具が発動した時点ですぐさま逃げ帰っていただろう、ということは容易に想像がつく。
私たちがいつまでも森にいたから、ということか。おそらく本来魔傀儡も対人間に対しては今まで出て行ったことはないのだろう。まさかこれほどまでこの場に居座る人間がいるとは思わなかったのかもしれない。
そう考えると、ある意味申し訳なくなるような……。
「もう攻撃させたりもしない。僕自身も貴方方に危害は加えない。だからエミリーを返してくれ! 魔傀儡はもう彼女だけしかいないんだ!」
そう叫んだ男性の姿が必死で、まるで愛する人を想うかのような姿に、私たちは顔を見合わせ頷いた。
「ルギニアス、その人を通してあげて」
またしても不服そうな顔となったルギニアスだが、渋々といった様子で男性に向かって翳していた手を下げ、魔力をおさめた。
男性は私たちの足元で横たわる魔傀儡に向かって駆け寄り、その身体を抱き起した。
「エミリー」
『フェリオ』
魔傀儡は主を認識したのか、男性の名前らしき言葉を口にした。
「なんだ、やっぱり話せるのね」
リラーナがそんな魔傀儡の姿を見て言う。
「あぁ!!」
フェリオと呼ばれた男性が急に声を張り上げ、皆がビクッとする。
「う、腕が!!」
全員が「あっ」といった顔となったが、ルギニアスは地面にしゃがみ込み魔傀儡を抱き起しているフェリオを冷ややかな目で見下ろし言う。
「腕だけで済んだことに感謝するんだな」
ギクリと身体を強張らせたフェリオは見下ろすルギニアスの姿を見て蒼褪めた。
「す、すみませんでした……もう攻撃はさせないので、縄を解いて良いですか?」
皆は顔を見合わせ頷き合う。そしてフェリオに頷いて見せると、頭を下げながら再び「すみません」と呟くと、魔傀儡の縄を解いていった。
そしてフェリオは自分の住んでいる小屋へと私たちを案内したのだった。
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