第160話 街灯の活用方法

 豪快な肉料理はとても柔らかく、味付けもしっかりとしたもので美味しかった。最初は顔が引き攣っていた私たちだが、意外とあっさりとして柔らかい肉だったおかげか、ディノは完食していた。

 肉以外にもサラダとスープとパンが出て来たが、どれも唖然とする量で、私やリラーナは半分も食べられなかったという……。

 残った料理をヴァドが平らげていったが、見ているこっちが気持ち悪くなりそうな量を食べ尽くしていた。


「獣人の食欲が凄過ぎるな……」


 ディノですら苦笑させたヴァドの食欲……全員が苦笑だった。




 食事を終え、宿を探しながら街をうろうろとしていると、次第に街の灯りが灯り出す。


「お? なんか灯りも違うな」


 ディノが街灯を見て呟いた。その街灯はアシェルーダの街にある街灯と形状が少し違っている。明らかに違うのは、アシェルーダは背の高い柱の上に魔導ランプが灯る。

 しかしここザビーグの街灯は、背が低い。道に等間隔に並んでいるのは同じだが、腰の高さ程の円柱で全体が光っている。しかもなんだか……


「暖かい?」


 近寄り眺めていると、なにやらほんのりとした暖かさを感じるような。


「あぁ、ガルヴィオのどの街も大体同じだが、街の街灯は暖房としての役割もあるからな」

「暖房?」


 ヴァドは頷いた。


「ガルヴィオは基本的に気温が低いから、街灯から熱を発して街中を暖めている感じだな。夜はかなり気温が下がるんだが、街はこの街灯のおかげでそれほど寒くはならない」

「「へぇぇ」」


 リラーナと二人でしゃがみこんで街灯をまじまじと見てしまった。リラーナはどういう構造なのか、私はどんな魔石なのか。それに男性陣は笑った。


「壊すなよー」


 ヴァドが笑いながら言うが、リラーナが本当に壊しそうな勢いであちこち触っていることに笑ってしまう。


「これって炎系の魔石だけじゃない?」

「ハハ、さすがだな。なんの魔石が使われているか分かるか?」


 円柱のなかでは炎が渦巻いているのは確かなのだが、アシェルーダで見かける街灯よりも明らかに細長く炎が伸びている。しかし炎の量が多い割にはそれほど強さを感じない。炎の量や動きを調整させている別の魔力がある。


 じっと街灯を見詰め、感知をしてみると、どうも感じるのは風系の魔石と大地系の魔石。


「風系の魔石で炎の動きを管理して、大地系の魔石で炎の強さを調節している?」


 横で同じように観察していたリラーナが、「なるほど」と呟いた。そしてヴァドは驚いたような、しかし楽しそうに笑った。


「ハハハ! 凄いな、そんなすぐに解明されるとはな!」


 その言葉を聞いたイーザンも興味深そうに私たちと共に街灯を眺めた。


「そういえば魔石屋はすぐそこにあるぞ、覗いてみるか?」


 ヴァドのその言葉にぐりんと勢い良く振り向くと、全員に盛大に笑われた。そしてヴァドにわしわしと頭を撫でられる始末……完全に子供扱い……。


「アッハッハッ!! 本当に魔石が好きなんだな。宿はもう少し先にあるから、ちょっとだけ覗いていくか」


 しかし、子供扱いされようがなんだろうが、やはり魔石は見たい! 目を輝かせていると、やはり全員に笑われたのだった。


 観察していた街灯から、ヴァドが言うように本当にすぐ傍にあった魔石屋。扉を開けなかへと入ると、店内は薄暗く、しかしあちこちにランプが灯され、魔石が輝く。幻想的な雰囲気で思わず感嘆の声が漏れる。


「うわぁ、綺麗ねー」


 リラーナも同様にキョロキョロと周りを眺め、声を上げた。壁一面に棚があり、魔石が並んでいる。様々な色の魔石が灯りに照らされ、キラキラと煌めく。


 店の一番奥のカウンターには店員だろう女性が立っていた。


「イラッシャイ、マセ」


 ん? なにか発音がおかしかったような?


 皆も同様に思ったのか顔を見合わせた。カウンターに近付き、声を掛ける。


「こんばんは、少し魔石を見せてもらっても良いですか?」

「ゴ自由ニド、ドウゾ」

「…………」


 な、なんだろう、なにか変な感じ? 見た感じ普通の女性なんだけれど、なんだか様子がおかしいような。

 ま、まあ、いいか。とりあえず魔石を、とカウンターに並ぶ魔石に目をやっていると、再び女性が声を掛けて来た。


「イラッシャイマセ」

「え?」


 驚いて顔を上げると、しかしそこにはにこやかな顔のままの女性。先程から同じ笑顔のまま。それがなんだか少し気味悪く思ってしまい、少し後退る。そこにヴァドがずいっと前へと出た。


「こいつは……魔傀儡だな」

「魔傀儡!?」


 全員が驚きの声を上げ、そしてリラーナとディノとイーザンはルギニアスをチラリと見た。

 ま、まずい……。


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