第84話 港町エルシュとガルヴィオ

 片付けを終えて五人で試験会場を後にする。今日の試験内容についてなどを話しながら、城を後にし、昼食のためにカフェへと入る。カウンターで注文し、自分で席まで持っていく仕様だ。各々注文し終えると空いている席へと移動し落ち着く。


「改めて自己紹介でもするか、俺はライ。王都でもう一人の魔石精製師キリアさんの弟子だ。あんたはダラスさんの弟子なんだよな?」


 ライと名乗った深緑色の短髪に金色の瞳の男の子は私を見て聞いた。


「うん。もう一人の魔石精製師の人ってキリアさんて言うんだね」

「あー、まあダラスさんよりは知られてないかもなぁ。でもキリアさんも凄いんだからな!」


 ライは身を乗り出し張り合うかのように息巻いた。


「ちょっとライ、やめなさいよ。恥ずかしい」


 呆れたようにライを見た女の子。長い金髪と碧眼でキリッとしていてかっこいいお姉さんといった雰囲気。ニコリとこちらに向いた。


「ライと同じくキリアさんの元で修行しているリースよ。よろしく」


「キリアさんて何人も弟子取ってるんだ!」


 メルが興味津々に聞いた。


「そうね、今現在は私とライだけだけど、去年独り立ちした人もいるから、常に二人とか三人とかいるわね。魔石精製師の神託を受ける人が一年で数人出るか出ないからしいから、そんなに多いほうでもないのかもしれないけど」

「えー、私も弟子入りしたかったなぁ……」

「すれば良かったじゃないか」

「そんな簡単に言わないでよ。今回の試験のために王都に来るのも大変だったんだから!」


 ライが何気なく言った言葉にプリプリと怒るメル。


「あー、分かるな。僕も地方出身だから王都に試験のために出て来るだけでも結構大変だった」


 もう一人の優しげな男の子が苦笑しながら言った。ふんわりとした明るい茶髪に翠色の瞳の優しそうなお兄さんといった雰囲気の男の子だ。


「僕は港町エルシュ出身のアラン。よろしく。僕はエルシュにいる魔石精製師の師匠の元で修行していたんだけど、王都に来るだけで結構な金額と日数がかかったよ」


「おー、エルシュ出身なんだ! 確かガルヴィオと貿易してるんだよな!?」

「うん、ガルヴィオからの船が行き来してる」

「「「おぉ」」」


 ガルヴィオからの船に興味津々。皆揃ってどんななんだ、とアランに詰め寄る。


「ど、どんなと言われても……うーん、僕たちには毎日普通の光景だけど……」

「獣人なんだろ!?」

「あー、うん。船員は獣人だね。だから船が到着してしばらくの間は、街にも獣人がうろついてるよ」

「「「凄い!!」」」


 興奮した私たちに詰め寄られ、アランは苦笑し、たじろいでいた。


「アハハ、そっか。皆、獣人は見る機会がなかなかないよね。エルシュに一度遊びにおいでよ。僕は国家資格を取得出来たら、エルシュで店を出そうと思っているし、案内するよ」

「おぉ、良いな! 一度行ってみたいと思ってたんだよな!」


 ライの言葉にメルとリースもうんうんと頷いた。私も行ってみたい! しかも獣人の国にもいつかは行ってみたいし!


「ガルヴィオにアシェルーダからの船も行ったりするの?」

「ん? アシェルーダからの船は行ってないんじゃないかな」

「え? なんで?」

「アシェルーダとガルヴィオの間にはアシェリアンの神殿があるとされているからね。航海するのにかなり大変で危険らしいよ?」


 え、じゃあガルヴィオには行けないの!?


「でもガルヴィオからの船は来るんでしょ?」

「ガルヴィオの船はかなり特殊らしい。物づくりを得意とするガルヴィオだからこそ造ることが出来た船、って感じらしいよ。王都へエルシュから魚を空輸するために使う飛行艇もガルヴィオから贈られたものらしいし」

「「「飛行艇!?」」」


 思わず全員が大きい声を上げてしまいアランがビクッとした。そういえば昔、お父様とお母様と一緒に魚料理を食べたとき、『生魚』というものを食べたわね。昔、王都には港町から空輸されてくる、とか勉強した記憶が……。あのときは意味が分からなかったけど、飛行艇……。


「飛行艇ってどんななんだ?」


 ライが興味津々だ。


「うーん、僕も間近で見た訳じゃないけど、確か、空を飛ぶ翼の生えた乗り物だね。水の上も走ることが出来るとかなんとか」

「空を飛ぶ……鳥みたいにか!?」

「鳥というか……」


 どうやら口では何と言ったら良いのか分からなかったらしく、紙とペンを取り出し、描いてみせてくれた。


「な、なんだこれ」


 はっきりとは覚えていないけど、と、アランが描いた大まかな絵を皆で覗き込む。そこには船のような胴体に尻尾が生え、翼と思われる羽根が左右に伸びていた。


「魔石が埋められているらしくてね。なんの魔力付与なのかは知らないけれど、その力で空を飛べるらしいよ」


「これって人が乗れるのよね?」

「うん。人が乗って運転して、荷物を運ぶらしいよ」


「す、凄い……」


 こんなものがあるなんて。人が乗れる空飛ぶ魔導具!? そんなものがガルヴィオに……ますます行ってみたい! リラーナが知ったら絶対行きたがるはず!


「はぁぁ、スゲーな、ガルヴィオ。ますますエルシュに行ってみたいな」

「「私も……」」


 ライもメルもリースも茫然といった感じだった。


「ガルヴィオに行ってみたい……」


「「「「え?」」」」


 ボソッと呟いた言葉に全員がこちらを見た。


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