第72話 魔導剣
気を取り直して再び探索する。とりあえず岩場へ向かってみようということで、辺りを見渡し、一番近い岩場へと移動した。徐々に陽も昇り、暑さが増してくる。水筒に入れた水を少しずつ口に含みながら体調に気を付け移動していく。
岩場には少しだけ草も生えていた。日陰になっているところには小さな虫や獣が身を寄せている。
ディノは岩場に飛び乗ると、辺りを見回した。相変わらず身が軽い。
「うーん、とりあえず見た限りで今はいないな。やっぱり地中に潜ってんのか」
「だろうな、今は陽射しが強いしな。さすがに魔蟲だろうが、わざわざ日中理由もなく地上に出ているとも思えない」
「やっぱじゃあ歩き回るしかないかぁ」
頭をガシガシと掻きながら、ディノが岩から飛び降りる。
「あっちの方向へ行ってみろ」
ぼそっと呟いたルギニアス。
「? ルーちゃん? なにか感じたの?」
肩に乗るルギニアスを見ると、ある方向へ指差していた。
「向こうになにかいるの?」
「いってみれば分かる」
うーむ、ルギニアスは魔蟲を感じることが出来るのかしら。そういえばさっきの魔蟲が現れる前にも、もうすでに存在を感じ取っていたようだったし。行ってみる価値ありかしら。
「ねぇ、あっちに行ってみたいんだけどいいかな?」
ルギニアスが指差した方へ、同じように指差す。ディノとイーザンは少し不思議そうな顔をしたが、闇雲に歩くよりは良いだろう、と私の指示に従ってくれた。
しばらく歩いて行くと、なにやら窪みが現れた。
「止まれ!」
イーザンが私の前に腕を差し出し、私の行く手を阻んだ。
「どうしたの?」
「流砂だ」
「ひっ」
イーザンが止めてくれなければ危うく落ちるところだった!
ディノはその場にしゃがみこみ、流砂の中心部分をじっと見詰めている。
「なにかいるの?」
「いや、違うな、流砂にじゃない……足元だ!!」
流砂に気を取られていると、いきなり地面が盛り上がる。
「きゃっ」
ディノが私を抱え上げ飛んだ。イーザンも高く飛び上がり、空中でくるりと回転しながら、流砂とは反対側へと着地した。
ディノは私を抱えたまま後ろに大きく飛び、着地するとすぐさま私を下ろし、剣を鞘から抜いた。イーザンも魔導剣を構える。
地面から這い出して来たのは、先程のキルギよりはかなり小さいが、それでも大人の男性二人分ほどの大きさのある蟻のような魔蟲だった。
「チチルだ」
な、なんか可愛い名前ね……見た目は全く可愛くないけど……。
「こいつは毒を吐き出すから気を付けろ!」
ディノはそう叫ぶと私に背後へ下がれと手で合図し、剣を構えた。
イーザンが呟き炎を放出する。チチルの目前を炎が覆い、それに怯んだのか後ろへと下がった。炎が消えた瞬間、チチルは口と思われるところから青黒い体液に似たようなものを吐き出す。イーザンはそれを素早く躱すと、再び炎を放出! 炎に意識が向いている隙を狙い、ディノは素早くチチルの近くへと踏み込むと、左下から右上へとチチルの首を狙い振り上げた。
しかし硬いチチルの身体を斬り付けることは叶わなかった。
「ちっ」
ディノは一旦背後へと再び距離を取り、もう一度勢い良く踏み込む。しかし今度は首ではなく、脚を狙ったようだ。脚の付け根を狙い、真上から振り下ろす。しかしそれも小さな傷を付けただけで終わってしまった。
「ディノ! 私の魔導剣で斬る!」
「おう!」
ディノは囮になるように、激しく斬り付けていく。チチルの意識がディノへと移っていく。その隙にイーザンは魔導剣に炎を纏わせた。さらにはその炎剣に雷までをも纏わせていく!
「す、凄い、綺麗……剣が光ってるみたい……」
炎と雷はお互いが舞うように剣身の周りで揺らいでいる。
イーザンはチチルに向かって素早く駆け寄った。そしてその勢いのまま、魔導剣を振るう。剣からは残像のように炎と雷が揺らぎ、そのまま脚を斬り落とした。
驚いたようにイーザンを見たチチルは青黒い液体を吐き出す。素早く躱したイーザンの顔の横を掠め、青黒い液体は砂に沁み込んだ。砂は青黒く染まっていく。毒だ……。
脚を斬り落とされたことによる痛みなのか、怒りなのか、予測不能の動きをし出すチチル。イーザンに向かって突進したかと思うと、ひらりとそれを避けられ流砂へと半身が落ちる。
「おっと、流砂に飲まれたらこっちが困る」
ディノは慌ててなにかロープのようなものを取り出すと、片側の端を勢い良くチチルに向かって投げた。ロープはチチルに巻き付き、ディノは勢い良くそれを引いた。チチルの身体は少し浮き上がり、流砂の脇へと転がった。
『グギギギギギ』
チチルは脚をばたつかせ起き上がる。しかしそれを待ってやる必要もないとばかりに、イーザンは魔導剣を振り上げた。先程ディノの剣が傷すら付けることが叶わなかった首。そこに一刀両断、魔導剣を振り下ろす。
バチバチと音を立てながら、魔導剣はチチルの首を落とした。
「「ルーサ!!」」
イーザンとディノが同時に叫ぶ。
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