第64話 初めてのメンバー

 笑いながらレインさんは私に色々服や小物を合わせていく。


「分からないことは誰にでも何でも聞けば良いのよ。知らないということは別に恥ずかしいことじゃない。そうやって知ろうと努力している子のほうが応援したくなるってもんよ。そういう子たちは皆から好かれるし助けてもらえるわよー」


 ウインクしながらレインさんは言う。


「あの子たちはそれを分かってるのか元々の性格なのか、周りの大人に可愛がられていると思うわ。まあ大人が上手く使われてるだけかもしれないけどねー。アハハ」


 釣られて一緒に笑ってしまった。


「だからルーサちゃんも色々周りの人たちを上手く使いなさい? あら、これは言い方が悪いかしら。フフ。頼ることも知らないことを聞くことも、貴女の損になることはないから! 困ったことや不安なことも口に出しちゃいなさい! 若い間にガンガン周りに頼っちゃうのよ! 大人になれば嫌でも今度は頼られる側になっちゃうんだから!」


 そう言って思い切り背中を『バシーンッ!』と叩かれ前のめりになった。い、痛い。


「フフ、そうですね。ありがとうございます。レインさんも相談に乗ってくださいね」


「当ったり前よー!」


 むぎゅうとまたしても抱き締められた……も、もう少し力を……。



 不安に思っていることを見透かされたのかと思った。さすがレインさんというかなんというか、人のことをよく見てるんだなぁ、と感心した。修行が終わることへの不安を少しでも軽くしてもらえたような温かい気持ちになる。


 うん、私は独りじゃない。周りにはたくさんの頼れる人たちがいるんだしね。これから独り立ちしたにしても、全てを自分一人の責任で考えるのは私にはまだ重い。それを正直に話して一緒に考えてもらえば良いのか。

 うん、大丈夫。私はきっと大丈夫。少し心が軽くなった。



 レインさんが色々と見立ててくれたものを、説明を受けながら購入していく。今回用意されたものは、服や鞄は暑さや砂風に対する耐久性が高いものを。靴はロングブーツで砂が入り込まないよう、密着度が高いものを。暑さや蒸れ対策に魔石を付与されている。リラーナと二人で開発したような不完全なものじゃなく、ちゃんと商品化されているものね。

 さらに陽射しや砂から身を守るためのマント。耐久性に優れていて、さらには通気性も良く涼しいという優れものだ。


 結構なお値段になったが、今後も使うことになるだろうから必要経費だ。


「気を付けていってらっしゃい!」

「ありがとうございます!」


 レインさんにお礼を言いつつ店を後にする。




 そして翌朝、全ての準備を整えダラスさんとリラーナに挨拶をする。


「ルーサ、気を付けてね……」

「うん、ありがとう、行ってくるね」


 リラーナは終始心配そうだ。ダラスさんは少し心配そうな顔はしているが、もう見守ると決めたような顔だった。


「気を付けて行け」

「はい!」


 そして二人に手を振り出発した。



 ディノとイーザンさんとは王都から出る乗合馬車の乗り場で待ち合わせをしている。店を出ると大通りを横断し反対側へと渡る。そのまま少し大通りを歩いて行くと、乗合馬車の乗り場がある。すでに乗合馬車は停車していて、その前に二人の姿が見えた。


「おーい、ルーサ!」


 一人が手を振り私の名を呼んだ。ディノだ。同様に手を振り返し駆け寄る。


「おはよう!」

「おう、おはよ。準備万端か?」


 朝から元気なディノと笑いながら挨拶を交わす。そしてその横にはスラリと背が高く綺麗な顔をした男性がいた。明るい青色の瞳に、深緑色の長髪を一つ括りで肩に垂らし、魔導師とはあまり思えないような服装の男性だった。どちらかと言えばディノの服装に近いような? 剣士と言っても違和感はないかもしれない。ローブではなくマントを羽織り、杖ではなく剣を腰から下げている。


「おはよう、私はイーザン。三日間よろしく」

「あ、はい、イーザンさん、こちらこそよろしくお願いします! ルーサです!」

「イーザンで良い。言葉も普通に話せ。私もルーサと呼ばせてもらう」

「は、はい」


「アハハ、そんな緊張すんな。イーザンはまあちょっと癖はあるが良い奴だ」

「おい、どういう意味だ」

「えー、そのままの意味だ。アハハ」


 ディノが笑いながら言った言葉にイーザンは眉間に皺を寄せて睨むと「チッ」と舌打ちをした。えぇ、な、なんか怖い人なのかしら……ど、どうしよう、大丈夫かしら……。


「えーっと今日はランバナスまで行くんだよな?」

「うん」


 ランバナス、砂漠が広がる土地に出来た街だ。


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