第62話 地図

「イーザン?」


「あぁ。まだ十九と若いが腕は確かだ。ディノとも何度か共にしているから連携も取りやすいだろ。ただし、初めてのメンツだからな、強力な奴が出るようなところには行くなよ?」

「はい」


 確かに私自身も初めてだし、ディノと一緒に行くのも初めてだ。さらにはまだ会ったことのないイーザンという人。どんな人なんだろうな。どこへ行くかはダラスさんに相談してみようかな。


 モルドさんと契約を交わし、依頼金を支払う。



「じゃあ明後日だな」

「うん、よろしくね」


 ディノとは仲介屋で別れた。どうやらディノはあちこち出歩くことが多いので、ほとんどが仲介屋で寝泊まりをしているということだった。


 ディノと別れ、明後日の準備のため買い物をして帰った。その間はつけられている様子もなく、ルギニアスも警戒してくれていたが特になにもなく無事に帰ることが出来た。


「おかえり、ルーサ、無事に依頼出来た?」

「うん、昔襲われたときに助けてくれた男の子に再会して今度の依頼を受けてくれたよ」

「え?」

「えっとね……」


 今日あったことを正直に話すとやはりまだつけられていたのか、と心配されたが、いつまでも傍にいることも出来ないから、今後対策を考えようということになった。そしてなぜかまたしてもリラーナにニヤニヤされたのだった。なんなのよ、一体。




 夕食を終え部屋へと戻り、明後日のための準備をしたりと、色々片付けた後ベッドへ横たわる。

 胸元にある紫の石を取り出し見詰めた。魔石精製師として修行を始めてから、この石以外に一度として見たことがない紫色の魔石。中心部分は黒っぽく見えるほど濃い色が渦巻いている。でもなんだか……


「昔よりも少し明るい色になってる……?」


 最近はあまり取り出してじっくり見たりはしていなかったため、はっきりとしたことは分からないが、こんなに澄んだ明るい色だったかな? 全体的にもう少し暗い色だったような気がするんだけどな……。


「ねぇ、ルーちゃん、そこにいるの?」


 そう呟いてみても答えはなかった。お前にはまだ知る資格はない、と言われているような気がしてなんだか悔しい気持ちにもなった。


「はぁぁあ、早く一人前にならないと……」


 盛大に溜め息を吐きながら、紫の石を握り締め眠りに就いたのだった。




 翌日、仕事の合間にダラスさんと採取の場所について相談した。


「今回採取に行くのってどこが良いですかね?」

「そうだな……魔獣の森は近いし騎士がいるから安全ではあるが……修行中の身では入ることを断られる可能性があるからな……」


 ふむ、と考え込んだダラスさんはおもむろに立ち上がり、ごそごそと部屋の隅からなにかを取り出し作業台に広げた。

 それは大きな紙に描かれたアシェルーダの地図だった。


 王都を中心にあちらこちらに色々な街の名前がある。陸地の端は海に囲まれ、その先にはガルヴィオの名が。上部にはラフィージアの名も書かれてある。


「ラフィージアって実際この方角にあるんですか?」


 文字だけで書かれた国の名を指差し聞いた。


「いや、ラフィージアは空に浮いているからな。地図で書くにはこう書くしかなかっただけだろう。ラフィージアに行ったことがあるという人間を聞いたことがないしな。実際の場所というより、おおよその場所として記されているだけじゃないか?」


 ラフィージアには誰も行ったことがないのか……。ディノの受け売りじゃないけれど、これはますます行ってみたくなっちゃうわね。空に浮かぶ国かぁ。どうやって浮かせているのか気になるわぁ。


「ラフィージアのことよりもだな、採取の場所だが……」

「あ、そうでした……」


 ラフィージアに思いを馳せ過ぎて、すっかり忘れていた。そうよ、魔石採取の場所を考えないと!

 そんな私の様子にダラスさんは苦笑し、地図の上、ある場所を指差した。王都から指でなぞり西側で止まる。


「王都から比較的近い場所にフェスラーデの森という魔獣や魔蟲が出る森がある。巨大な森だから魔獣たちも多い。魔石採取のために魔獣狩りを行うには最適だが、そこの魔獣たちは非常に強い。だからいきなりは厳しいかもしれない」


 そして指を離すと、再び王都から指をなぞらせ、今度は南側を差す。


「それともう一つ近い場所にあるのは王都から南にある砂漠地帯だな。ここは魔蟲がよく出る。フェスラーデの森の魔獣たちよりは比較的倒しやすいかとは思うが、砂漠に慣れないと戦いにくいのと、近いと言ってもローグ伯爵領をさらに越えたところにはなるから日帰りでは無理だな」


「泊まり……ですか……」


 うーん、どうすべきかしら、泊まりとなるとディノたちにも連絡しておかないといけないし、いきなり初対面の人と泊まりの旅かぁ。


 それに……ローグ伯爵領……その言葉に身体がピクリと強張った。今はもう『ローグ伯爵領』ではないのだが。未だに耳にするのは『ローグ伯爵領』。皆慣れ親しんでいるからか、『ランガスタ公爵領』という人はいない。


 ローグ伯爵領よりも南……今までローグ伯爵領以外には王都しか行ったことがなかった。南なんて行ったことがなかった。未知の世界。この国には私の知らない場所がまだまだたくさんあるのよね。


 そう考えるとなんだか緊張と共にワクワクする気持ちが勝って来る。


 いつかは色んな場所へ行ってみたいと思っていた訳だしね! 図らずもディノとの約束が実現する訳だし良いかもしれない!


「じゃあ砂漠地帯に行ってみます!」


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