第60話 再会
「どこへ行った?」
追いかけて来ていたフードを被った人物は小さく呟きキョロキョロとしている。チラリと上を見上げたが、高い建物に囲まれたこの場所では上に逃げるような場所もなく、階段がある訳でもない。すぐに視線は戻り、しばらく周りを探っていたかと思うと、諦めたのか、違うところを探そうとしているのか別の路地へと入って行った。
「あ、危なかった……」
上を見上げたときにぎくりとしたが、どうやら見付からなかったようだ。
今現在、私がどこにいるのかというと……。
「うーん、靴にこの魔導具はちょっと改良の余地ありかしら……」
私の足は建物の壁に貼り付いている。四階ほどの高さに壁を床のようにして立っている。うっかり見付からないように、なんとか追手の視線の先ではない壁だったため、見付からなかったのだ。
リラーナと今までにない魔導具を開発してみよう! となって、最近開発中の『これ』。靴に風系の魔力を付与させた魔石と大地系の魔力を付与させた魔石を埋め込み、風の魔力を身体の周りに纏わせ、大地系の魔力で靴を建物と吸着させる。それによって建物の壁を床のように歩くことが可能になる! ……なるんだけれど……壁から少しでも足が離れると発動条件が解除されてしまい墜落の危険が……と考えているそのときに、私が立っているすぐ近くの窓がガチャリと開き、顔を出した人が驚愕の顔になった。
「「えっ」」
お互いが声を上げ、私は思わず後退り足が離れてしまった!
「え、あ、きゃぁぁあああ!!」
「おい! 馬鹿が!!」
窓を開けた人も驚き、ルギニアスも目を見開き、私の肩にしがみ付いたがどうにも出来ない! ルギニアスは必死になにか魔法を発動させようとしてくれているようだが、なにも起こらない。
「くそっ」
いやぁぁあああ!! 死ぬぅぅ!! ど、どうしよう!!
あわあわと成すすべもなく墜落していく。あぁ、リラーナと実験したときは二階までしか行かなかったけど、今回はさらに高いところ……まだまだ実験途中だったのにこんな高いところへ登るんじゃなかった!!
嘆いている場合じゃなく!! か、風!! 風の魔力だけでも発動出来ないかしら!? そうジタバタし、魔力を送ると私の周りに風の魔力は渦巻いた気がしたけれど、墜落を防げるはずもなく……
バスンッ!!!!
死んだ…………と、思ったのに痛くはなかった。ん? なんで? そおっと目を開くと……。
「ぐ、ぐはぁぁあ……びびったぁ」
私は見知らぬ青年に抱き止められていた。
青年はそのまま崩れ落ち、私を抱えたまま座り込んだ。
「あんたなぁ!! なにやってんの!? なんで上から落ちてくんの!? めっさびびったんだけど!!」
青年に抱きかかえられた状態で顔を見合わせ怒鳴られた。
「え、あ、す、すみません!!!!」
青年は溜め息を吐き、上を見上げた。上には先程私が顔を見合わせ驚かせてしまった人が窓から心配そうに見下ろしている。青年はその人に手を振り、大丈夫だ、と声を掛けてくれていた。窓辺の人は安心したように手を振り返し、部屋へと戻って行った。
「で、あんたは何をやってたわけ?」
窓辺の人が姿を消したのを確認し、改めてこちらを見た青年は濃紺の短髪に金色の瞳。一瞬金色の瞳に見惚れてしまったが、ハッとし、あまりの近さに緊張してしまい、青年の胸に手を突き身体を離した。
「あぁ、悪い」
青年はいつまでも私を抱き寄せていたことに気付いたのか、慌てて身体を離した。そして改めて私を見ると「ん?」と小さく呟いた。視線の先は私ではなく……あ、ルギニアス……ま、またこのパターンか……。
「その肩の……、お前……どこかで……えっと……名前……えーっと」
青年は座り込んだまま腕を組み、頭をあちこち動かし必死に思い出そうとしている仕草。
え? なんだろう、なんか会ったことある人? 私も同じように考え込んだ。
濃紺の髪に金色の瞳……どこかで見たことがあるような……この綺麗な金色の瞳に見覚えが……。
「「あっ!」」
お互いの声が重なった。
「ルーサ!」
「ディノ!」
お互い顔を見合わせ驚いた顔、そして笑顔になった。
「ルーサ! ルーサだよな!? 久しぶり!」
「うん、ディノも久しぶり!」
幼いときに出逢った少年。あのときも見知らぬ男に追われていた。それを助けてくれたのがディノだった。ディノは立ち上がり、私に手を伸ばすと引っ張り上げた。
幼い頃の面影はあるまま、すっかり大人っぽく男らしい顔付きになったディノは、あのときよりも背は大きく伸び、立ち上がると私よりも遥かに背が高い。私も背は伸びたのに、頭一つ分はディノのほうが高かった。なんだかちょっぴり悔しくなっちゃう。あのときは少し私よりも高いくらいだったのに。
腰から剣を下げ、あのとき言っていた剣闘士として力を付けたのだろう、身体付きも細身の割には服の上からでも分かるほど、しっかりと筋肉質な感じだった。
「で、ルーサはなんで空から落ちて来たんだよ」
苦笑しながらディノが聞いた。
アハハハ、と私も苦笑しながら、先程あった出来事を全て話したのだった。
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