第26話 魔石の魔力

「手にしっかりと握って集中してみろ。魔石の内部にある魔力を感じ取れ」

「魔石の内部?」

「そうだ。魔石精製師は魔石の内部にある魔力を感知出来る能力がある。まずはそれを感じ取ってみろ」


 言われるがままに魔石をしっかり握り締め集中する。


「…………えっと、どうやって?」


 集中したのは良いけれど、一体どうやって感じ取るというのだろうか。肝心のそれが分からない。


「魔石の内部を探るように意識を向けろ」


 そう言ったダラスさんは私の魔石を持つ手に人差し指を突き立てた。


「ここだ。ここにある魔石。お前の掌のなかにある魔石。そこへ全ての神経を集中させるんだ」


 目を瞑り、ダラスさんの指が当たるところに意識を向ける。ダラスさんの指。私の手。掌……そして掌に当たる固い魔石……。

 そうやって順に手繰り寄せていく。魔石の内部へと意識を進めていく。


 深く深く意識が魔石の内部へと沈んでいく。――――チリッ。

 魔石内部になにやら蠢くものを感じた。もやもやとしたそれは次第にはっきりと感じていく。


「なにか感じました」


「じゃあそのままそれをさらに探るように意識するんだ」


 言われるがまま、目を瞑りさらに意識を深く潜らせる。もやもやと蠢いていた小さな存在は徐々にはっきりとしていき、青く揺らめきながら、まるで水面に光が反射しているかのようにキラキラと煌めいていた。


 目に見えている訳ではない。それなのになぜか色が見える。水が見える。いや、水ではないのかもしれない。それでも小さな魔石のなかで青い光がキラキラと揺らめいているのがはっきりと分かった。


「青い光が見えました」


「それだ、それを覚えておけ。今感じたその感覚、それが魔石に付与されている魔力だ」


 しっかりとその青い光を感じ取った感覚、煌めきを身体に覚える。そしてフーッと息を吐くと目を開けた。集中力がかなり必要となるためか、結構疲れるわね。


「魔石内部の魔力は感知出来たな。次は精製するための魔力だが今の魔力を今度は結晶化させるときの魔力に上乗せしてみろ」

「え、結晶化の魔力と一緒にですか?」

「あぁ」

「えー、二種類の魔力を同時に!?」

「そうだ」

「…………」


 ダラスさんは簡単に言うけど……本当に出来るのかしら……。


「魔石精製師の神託を受けた者なら必ず出来る」


 本当に出来るのか信じていない顔でもしてしまったか、と思ったけれど、ダラスさんは「出来る」とはっきり言い切った。


 半分信じられないという思いも捨てきれないまま、ゴリゴリと精製魔石を準備する。そして純魔石水が出来上がると魔力を送り始める。


 結晶化するための魔力は少し慣れて来ていたため、その魔力を体内で意識的に動かしていく。そしてそこから先程感じた青い魔力を……。


 しかし、青い魔力を意識しだすと、結晶化させる魔力のほうがおろそかになってしまう。それに青い魔力自体、それを体内で創り出すのにも一苦労だ。


「ぶはっ! だ、駄目だぁ」


 疲れて集中力が途切れてしまう。


 一度失敗するとその純魔石水は使えなくなってしまう。水は淀み魔石として結晶化させることは出来ない。


「練習するのみ、だな」

「うぅぅ……」

「一発で出来たら天才だ。誰でもそんなすぐに出来るはずがないだろ」


 ダラスさんは小さく笑い、頭をポンと撫でた。


「だが、必ず出来る」


「……はい!」


 ワシワシと撫でた後、手を離したダラスさんは、作業台に並べた魔石に目をやり……気が遠のくことを口にした。



「残りの魔石も全部魔力感知していけ」


「え……」


「全ての魔力を感知し、全ての魔力で精製出来るようになること。これが目下お前の修行だな」


「うぇぇぇええ!!!!」



 ちーん……気を失うかと思った……。




 その日からは何日も魔力感知と二種類の魔力での精製、その練習ばかりとなった。魔力感知自体はすぐに終わったが、その魔力を覚えるのに一苦労。さらにその魔力を使いこなすのがまた一苦労どころの騒ぎではなかった。


 様々な性質の魔力。それらの性質を身体に覚え込ませ、それを体内で動かしていく。それ単体ならば何度も練習していくうちに出来るようになったきた。しかし結晶化の魔力と同時というのが、異常に難しい……。うんうん、と唸りながら頭を悩ませ毎日練習を繰り返す。


 毎日疲労感いっぱいでぐったりと眠りに落ちる。そんなとき決まってなにか温かいものが頬に触れているような気がした。しかし疲れ切ってしまっている私は瞼が重すぎて、目を開くことはなかった。


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