第24話 魔王!?

 どういうことなのよ!? な、なんでこんなことに!? お父様とお母様が行方不明だなんて嘘よ!! 私が魔石精製師になったら帰って来て良いって言ってたじゃない! そんな二人が私を置いてどこかへ行くなんてこと絶対ない!! ないはずなのよ!! きっと……


 自信がなくなってしまった……お父様もお母様も私に大事なことは一切話してくれなかった。私がまだ子供だから? 子供だから話してくれなかったの!? だから置いて行ったの!? どうして!? どうして!?




 その日の夕食は食べたのかどうなのかも覚えていないほど、私は朦朧としていた。分からない、分からない……分からない……分からない!!


 部屋で一人になるとますます私の気持ちは沈んで行った。なぜ、どうして、その言葉ばかりが頭を巡る。涙が溢れて止まらない。ベッドの上で突っ伏して泣き叫ぶ。私は一体どうしたら良いんだろう……。


『…………い!!』


 泣き腫らしたまま眠っていたのか、なにか声が聞こえ身体を起こす。


『おい、俺の声が聞こえるか?』


「……誰?」


 以前も聞いたことのある声……。あのときは怖かった。でも今は……なんだかホッとする。

 なんだかもっと昔に聞いたことがあるような、そんな声。

 頭が混乱して辛い。そこに降り注いだ声はなんだか慰められているような温かい気持ちになり嬉しくなる。


『俺の声を覚えていないか?』


「?」


 小首を傾げる。覚えているような覚えていないような不思議な声。


『…………んぐぐ』


 な、なに? なんか力を込めてる?


「あなたは誰? どこから声が聞こえてるの? なにをしているの?」


 その質問には答えないその声。


『ぐぬぬぬぅ……うがぁあ!!』


 その叫び声と共に『ポンッ!!』となにかが飛び出してきた。飛び出してきたそれは私の顔面にぶち当たり……


「むぐっ」


 驚き過ぎて悲鳴も出ない。目の前はなにかが貼り付いて真っ暗。な、なに?

 得体の知れないものが顔面に貼り付き、恐怖のあまり「それ」を鷲掴みするとぶん投げた。


 ベシッと部屋の隅に飛んで行った「それ」に恐る恐る目をやると……



「痛いだろうが!!!!」



 床に転がった小さい物体……漆黒の長髪に真紅の瞳の……



「可愛いぃぃ!!!!」



 思わず「それ」を拾い上げ頬擦りした。


 ちんちくりんの身体。可愛い幼子のような顔。私の手よりも少し大きいくらいの大きさだ。ぬいぐるみのようなお人形のような可愛らしさ!!


「か、可愛い!?」


 驚いた顔の「それ」は自分の身体を見回し、「ガーン」といった顔で蒼褪めた。


 両手で「それ」を持ち上げ下から顔を覗き込む。これって生きてるのよね? 人形じゃない……なんなの、これ?


「どうしたの?」


 ハッとした顔をした「それ」。


「離せ!!」


 あまりに怒って暴れているから可哀想になりベッドの上にそっと下ろした。


「ねぇ、あなたは誰?」



「俺は…………ルギニアス…………お前たちが言うところの魔王だ」



「は?」



 一瞬固まってしまった。


「ま、魔王?」

「あぁ」


「…………アハハハ! そんな馬鹿な!」


 そう笑いバシッとルギニアスと名乗った「それ」を叩いたら、吹っ飛んだ。


 ベッドから吹っ飛ばされたルギニアスは怒り心頭でベッドによじ登って来る。


「お前な!! ……くそっ」

「ご、ごめんね?」


 なんせ可愛い。動く人形としか思えない。声は低いんだけど……。


「でも魔王ってどういうこと? 魔王って封じられてるはずでしょ? あなたが魔王ならどこにいたの? 封印は? なんでそんなちびっこいの?」


 そもそもこんなちびっこい可愛らしい人形が魔王って……ちょっと無理あるよねぇ。プッ。


「うるさい。もういい」


 なんだか拗ねてしまった。


「まだ……力が……」


 ブツブツとなにかを言っている。じーっと見詰めているとその視線に気付いたのか、おもむろに立ち上がったルギニアスは私に向かいちょいちょいと手招きした。


「?」


 なになに? と顔を近付け間近で見るルギニアスはやっぱり可愛かった。ぷくぷくほっぺが可愛いなぁ、つんつんしてみたい……。


「お前はもう寝ろ。酷い顔だ」


 酷い顔とは失礼な、とは思ったけれど、ルギニアス登場で目を覚ましたけれど、さっきまで号泣して疲れてそのまま眠ってしまっていたのだと思い出す。きっと目が腫れているのだろう。


 ルギニアスは私の額に小さな手でそっと触れ、なにか小さく呟くと私の意識はそこで途切れた……。


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