第20話 魔力付与
「さてと、じゃあここに昨日ダラスさんから買い取った魔石があります」
そう言いながら作業台に親指ほどの大きさの赤い魔石を置いた。
「これは精製魔石ですか?」
「そうだよ、精製魔石が一番安価で使い勝手が良いからねぇ」
「使い勝手が良い?」
「うん、天然魔石もまあ安価なほうではあるんだけれど、元々の石の性質があるから付与出来る魔力が偏っていたりするんだよね。その点精製魔石は付与する魔力によって精製してもらえるから」
なるほど、ダラスさんが言っていた。私はまだ修行し始めたばかりだからひたすら結晶化するのに必死だけれど、結晶化に慣れてきたら付与する魔力に合わせて精製していかないといけないのよね。
「精製魔石の良いところは色でも大体なんの魔力が付与出来るか分かるところだね」
そう言ってウィスさんは作業台の魔石を指差した。置かれている魔石は赤い魔石。
「こちらから依頼してその魔石を精製してもらうこともあるし、すでに出来上がった魔石を付与する魔力によって買い付ける場合もある。色はその付与出来る魔力の判別も出来るから重宝しているんだ。赤系の魔石は大体炎系の魔力を付与出来るし、青系の魔石は水や氷、黄色系の魔石は雷系、緑系の魔石は風や大地、とかってね」
「へぇぇ!!」
「でも天然魔石はそれに限らない。見分けも付かないから付与してみないと分からない。だから期待通りの付与が出来ずに使えない、ということもあったりする」
苦笑しながらウィスさんは言った。
「ん? じゃあ天然魔石ってあまり売れないんじゃ……」
「あー、ハハ、そう思うよね。でもそうでもないんだよねぇ」
ウィスさんはいたずらっ子のようにニッと笑った。
「天然魔石のほうが強いのよね」
リラーナがそんなウィスさんの先を越して言った。ウィスさんは「あっ」という顔になり、苦笑しながら頭を掻いた。
「強い?」
「そ、強いのよ。精製魔石と比べてね、付与出来る魔力の大きさが違うから、精製魔石よりもより強い魔石が出来上がる」
リラーナが自慢げに説明をしてくれた。
「リラーナちゃんに言われちゃったけど、そうなんだよね。ダラスさんに聞いたかな? 精製魔石は二種類あるよね。蒸留、ろ過する精製魔石が一番魔力付与が小さくて、次に魔力を練り上げて創る魔石で、その次くらいが天然魔石かな。だから精製魔石では出来ない魔力付与が天然魔石では出来たりする。使用出来る期間も長いし。だからどうしても天然魔石もなくならないんだよね」
「へぇ」
ウィスさんはハハハと笑った。
魔石といっても色々あるのね……今まで輝きやその神秘的な部分しか見てなかったけど……奥が深いわ!! 面白い!!
「ハハ、目が輝いてるよ。さて、じゃあ付与してみようか。これは赤い魔石だから炎系を付与します」
ウィスさんは赤い魔石の上に掌を翳した。そして集中する。
じっと見詰めているとウィスさんの手がぼんやり光り出した? と、思うと赤い魔石のなかをチリチリとなにやら光が蠢いているのが見えた。
その蠢く光は次第に範囲を広げていき、魔石全体を覆っていった。そして爆発的に光を放ち輝いた。一瞬にして部屋全体を明るくし、目が眩む。必死に目を凝らし、魔石を見た。
光が落ち着き出すと魔石の姿がはっきりと見える。
「?」
なんだか付与前と少し違う。
ウィスさんは魔石を摘まみ上げると私の掌に置いてくれた。
「はい、付与完了。見てごらん」
掌に乗る赤い魔石。先程までも見ていた魔石だけれどなんだか色が違う?
「さっきまでの赤と違うわ」
「うん。よく分かったね。魔力を付与された魔石は輝きが増す。元々魔石自体も輝いてはいるんだけど、魔力を付与すると純度が上がるかのように、透明感も増して輝きが増すんだよね」
そう言いながらウィスさんは私の掌にある魔石を摘まみ上げ、ランプに翳した。
真っ赤な魔石はランプの光を通し、キラキラと煌めいている。
「綺麗」
「ハハ、本当に綺麗だよね。天然魔石に付与するとまた少し違ったように見えるかもね」
「そうなんですか?」
「うん、今僕のところにはないから、ロンさんのところで見せてもらったら良いよ。他の魔石にも付与しちゃうからちょっと待ってて」
そう言ってウィスさんは作業台に何個か魔石を置いたと思うと、次々に付与を施していく。そのたびに部屋中に光が溢れ、クラクラとしそうになった。
「お待たせ―、ロンさんのところに行こうか」
ウィスさんは一通り魔石の付与を終えると、その魔石を丁寧に布で包むと鞄に収めた。
三人で作業場を出ると、もうすっかりと昼になっていた。
「ロンさんの店に行く前にお昼食べて行こう」
そう言って連れて行かれたところはウィスさんおすすめだと言うカフェだった。初めて入るお店にワクワクしてしまう。
可愛らしいお店で店のなかには花がたくさん飾られていた。昼食の時間のせいかとても混んでいて、一つだけ空いていたテーブルに着く。
「ここのお店のカフラシチューがとても美味しいんだ」
「「カフラシチュー?」」
「うん、カフラ貝っていう貝が具として入っているんだ」
リラーナも食べたことがないらしく二人で顔を見合わせた。
ウィスさんおすすめのそのカフラシチューを頼んでみる。パンと共に熱々のシチューが運ばれてきた。湯気が上がり良い匂いが漂ってくる。
「「美味しそう~!」」
リラーナと二人できゃっきゃと喜び、二人揃って「いただきます!」と声を上げるとスプーンでシチューをすくった。
熱々のシチューはまろやかで、大き目に切られた野菜がほくほくとしている。さらにカフラ貝と思われる一口大ほどの白い身。思っていたより大きくてびっくりした。
カフラ貝は噛んだと同時にじゅわっと中から旨味が口いっぱいに広がった。美味しい!
「あつっ、ほふほふ、美味しいぃ!」
パンも焼き立てで香ばしい。ふわふわで周りはカリッとしていてこちらも美味しい!
シチューは前世のお母さんがよく作ってくれたなぁ、とか思い出したりもする。懐かしい気分にもなるが、前世のお母さんも今世のお母様とも離れることになってしまい、少し切ない。
でもでも、今世のお母様は死んでしまった訳じゃないしね! いつかはまた再会出来るんだから! そのために今頑張っているんだから!
しんみりしてしまいそうな気持ちを振り払い、熱々で美味しいシチューを堪能した。
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