第11話 魔石精製師となるために…

「あれ? お父様、ここにいたの?」


 声を掛けるとお父様は驚いた様子で慌てて振り向いた。


「あ、あぁ、ルーサ、もう王都観光は終わったのかい?」

「まだまだ見たいところはいっぱいあるけれど、もう夕方よ? お父様は全然来ないし……」

「あー、ごめんごめん。ちょっと色々と用事があってね」


 アハハ、と笑いながら頭を掻くお父様。ダラスさんは顔を背け小さく溜め息を吐いた。


「いらっしゃい、ルーサ、神託どうだった!?」


 リラーナが勢い良く聞いて来た。


「あれ? お父様がいるならもう聞いているんじゃないの?」

「ん? ルーサのお父様はうちの父とずっと話し込んでいたから私は全く知らないわ」


 どうやらお父様は私とお母様と別れたあと、ずっと魔石屋さんにいたのね。なんの話なのかしら。私の神託が魔石精製師だから? なにか助言とかもらったのかしら。


 チラリと見るとお父様はまるで言い訳でもするように話す。


「あ、あー、ルーサの神託のことでな、ちょっとダラスさんに相談をしていたんだよ」

「ルーサの神託のこと?」


 リラーナがキョトンとした顔になったため、意気揚々と宣言した!


「私ね、『魔石精製』の神託を受けたの!!」

「えー!! そうなんだ!! 魔石大好きルーサにはもってこいじゃないのよ!」


 笑いながらも一緒に喜んでくれるリラーナ。しかしなぜか大人たちは微妙な顔をしているのが少し気になったけれど、今その理由を聞いたところで教えてもらえないんだろうな、と経験上理解していた。


 リラーナと魔石精製について大いに盛り上がり、昨日言っていた魔石の本を貸してもらった。


 お父様はダラスさんにお礼を言うと小さな声で「また来ます」と声を掛けていた。魔石でなにか事業でも始めるのかしら? ダラスさんのほうは表情からも乗り気ではなさげなのが分かるが、お父様は一体なにをしようとしているのかしら。


 そんなことをモヤモヤと気になりはしたけれど、夕食を終え宿に戻ってからはすっかり忘れて、リラーナから借りた魔石の本に夢中になってしまった。


 色付き絵が描いてあって、横にはなんの魔石なのかの説明やら、その魔石の採取方法や精製方法が簡単に説明されてあった。

 夢中になって読み込み過ぎたため、途中でお母様に叱られたのは言うまでもない。




 翌日も王都観光を行ったが、やはりお父様は一緒には来なかった。どうやらまたダラスさんの元に行っているようだった。


 一体なにをしているんだろう。


 そんな疑問は三日目には判明することとなった。王都へ来て三日目の朝、お父様から言われた。



「ルーサ、よく聞きなさい。これからお前はダラスさんの元へ行くんだ」



「え?」



 言っている意味がよく分からなかった。


 お父様はベッドに腰掛けた私の正面に椅子を置き、私の両手を握り締めながらゆっくりと話す。お母様は私の隣に座り悲しそうな顔で見詰めた。


「ダラスさんにはこの三日間で話をし、ようやく協力を得られた。お前は今後魔石精製師としてダラスさんの元で修行をするんだ」


「魔石精製師の修行?」


「あぁ、そうだよ。ずっとなりたがっていた魔石精製師だ」


 魔石は大好きで、魔石精製の神託を受けたのは願ってもないことだった。それは嬉しかったのは事実なんだけど、ずっとお父様とお母様の反応が気になっていた。なぜそんなに悲しそうなのか、それが気になって仕方がない。


「お父様とお母様は魔石精製師になるのは反対じゃなかったの?」


 貴族としての能力ではない、だから受け入れてもらえないのだと思っていた。


「私たちは反対なんかしていないよ。ただね……」


 お父様は言い淀んだ。私の手をグッと握り締め、眉を下げながら笑顔を作る。


「これからお前は一人でダラスさんの家に住み込みで修行をしに行くんだ」


「え!? 住み込み!?」


 驚いてお父様の顔を見ると、寂しそうな泣きそうな、なんとも言えない顔をしていた。お母様は私の膝に手を置き俯いてしまった。


「住み込みってどういうこと!? 私一人でダラスさんとリラーナと一緒に暮らすの!? 屋敷のみんなとはもう会えないの!?」


「そうだよ、これから一人でダラスさんの家で暮らすんだ」


「そんな!! そんなの嫌よ!! みんなにもう二度と会えないの!?」


「会えなくなるわけじゃない。お前が魔石精製師として独り立ち出来たらきっとまた会えるだろう……きっと……」


「お父様とお母様は!? 会いに来てくれるの!?」


「ダラスさんの元で修行している間は私たちもお前と会うことは出来ないよ。修行の邪魔になってしまうからね」


「そんな!! 嫌よ!! お父様とお母様に会えないなんて嫌!!」


 泣きながらお父様に抱き付いた。


 魔石精製師にはなりたかったけれど、みんなと会えなくなるなんて思ってもみなかった。お父様とお母様にも会えないなんて! そんなことになるのなら魔石精製師なんてならなくても良い!!


「嫌よ!! 魔石精製師なんてならなくても良いから私も屋敷に帰る!!」


 お父様はぎゅっと私を抱き締めそっと頭を撫でた。しかしその身体を離すと、微笑みながら私の頬を撫でた。


「駄目なんだ。ルーサは魔石精製師にならないと。これからお前は一人で生きて行くんだ」


「どうして!!」


 わぁぁあ!! と声を上げて泣いた。お母様も私をただ抱き締めるだけだった。


 どうして……どうして一人で生きて行かないといけないの? どうして魔石精製師にならないといけないの? どうして……どうして……。


「ごめんね……ルーサ……ごめんね……」


 お母様はひたすら謝るだけだった……。

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