第2部 港町トングァン

第28話 解体師がまだいない、ドラゴン解体部

 ドラゴンの国。


 ドラフィール王国。


 この国で最も他国から賞賛されているモノは何か。


 この国の宝とは何か。


 それは、ドラゴンの素材だ。


 そのドラゴンの素材を生み出す魔獣省ドラゴン解体部こそ、ドラフィール王国の要ともいえる、重要な部署である。


 そんな、魔獣省ドラゴン解体部の責任者を務めるマコジミヤは、声を上げていた。


「できないとは! どういうことだ!!」


 アナトミアというドラゴンの解体をしていた少女を解雇してから10日。


 アナトミアの代わりに新しく雇った、これまで魔獣の解体をしていた者達3人が、そろってマコジミヤに頭を下げていた。


「申し訳ない。ドラゴンの死体が、生きているよりも堅くなるって話は知っていたが、まさかあんなに堅いなんて思わなかったんだ」


 3人の中でも、もっとも年齢が上の男性が、マコジミヤに事情を説明する。


「それはもう聞いた! だが、お前達には十分な道具を渡していたはずだ。それなのに、なぜ解体が出来ない!」


「確かに、用意された道具は高級品だ。長年魔獣の解体をしていた俺でも、使い慣れた道具より使いたくなるような、上等なモノだった」


「なら、なぜだ!」


 しつこく説明を求めるマコジミヤに、魔獣の解体師だった男は、申し訳なさそうな態度から、苛立ちを見せ始める。


「だから、言っているだろ! 堅いんだよ! ドラゴンの体は! あんな道具じゃ歯が立たないくらいにな!」


「ぐっ!」


 解体師である男性の苛立ちがこもった声に、普段書類仕事ばかりをしているマコジミヤは萎縮してしまう。


 だが、すぐに自分の立場を思い出す。


「な、なんだ、その態度は! 私は魔獣省の役人だぞ! 仕事が出来なくなってもいいのか!!」


 権力をはっきりと見せると、解体師の男性も少し反省したのか、軽く息を吐いて呼吸を整えた。


「……すまなかった。頭に血が上った」


「……わかればいい」


 お互い、少しの間の沈黙で冷静になる。


 ケンカをしても、意味は無い。


「とにかく……そちらの言い分は、道具が悪いからドラゴンが解体できない、ということだな?」


「あの道具を悪いなんて言い方はしたくないが、ただ、このまま続けてもドラゴンの解体は出来ないだろうな。俺たちが使っていたのは、ほとんど新品みたいだったが、前任者はどんな道具を使っていたんだ?」


「……む」


 アナトミアが使っていた道具。


 質問されて思い返してみるが、マコジミヤはよく知らなかった。


「どうだったかな……平民の娘が使っていた道具だ。大した物じゃないと思うが……」


「平民の娘が使っていた? なんだ? 私物で仕事をさせていたのか? じゃあ、その道具はもうないのか?」


「むむむ……」


 男性の質問に、マコジミヤは何か掴めそうな気がした。


「とにかく、今のままじゃドラゴンの解体は出来ない。俺たちの方でも方法がないか考えてみるが、そっちでも何か対策を出してくれ。前任者に話を聞くなり、同じ道具を用意するなり、な」


 そう言って、解体師の男達は出て行った。


「あの娘が使っていた道具……」


 マコジミヤは、アナトミアに書かせていた資料を改めて読み返した。


(平民の娘が書いた文章なんぞ読みたくないが……)


 すると、最初の方にドラゴンの解体に使用する道具の特徴が書いてあった。


「……なんだ、これは……」


 そこに書かれていたのは、マコジミヤが用意した道具よりも、遙かに値段の高いモノたちだった。


 それはそうだろう。


 アナトミアが記した内容が正しいのなら、使っている道具のほとんどが、ドラゴンの素材を……しかも、ドラゴンのなかでも上位に位置するような貴重なドラゴンの素材を使用したモノばかりだったからだ。


「こんなモノを、平民の娘が使っていたというのか? ありえん」


 価値でいえば、国宝に指定されてもおかしくない。


「……そういえば、あの娘、シュタル・ドラゴンを解体していたな」


 つまり、アナトミアは今もドラゴンを解体する道具を持っているということだ。


 この国宝に匹敵するような価値のある道具を。


「どうやって、手に入れた? 平民の給与で手に入るモノではない。内容を見るに、道具の性能を維持するために整備するだけでも大金が必要だ」


 整備に使う道具にも、ドラゴンの素材が使われている。


 たかがドラゴンの解体をする平民の娘に払える金額ではない。


 ならば、どうやって手に入れたのか。


 薄汚い平民がやりそうなこと。


 そこから、マコジミヤはすぐに結論をだした。


「まさか、横流しをしていたのか? ドラゴンの素材を!?」


 マコジミヤの手が震える。


 怒りで、どうにかなってしまいそうだった。


「あの醜女め! ドラゴンは国の宝だ! それを私欲にまみれ、我が物とするとは! 許せん! 絶対にだっ!」


 マコジミヤはすぐに国の騎士達がいる総務省の警備部に連絡をいれた。



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