第二十一幕 朧なる黒
私は、シヴィ。シヴィ・ランドバーグ
皆さま、私の事はどうかシヴィとお呼び下さい。
私は、ここ怠惰の箱舟でプラネタリウムの受付をしております。
もちろん、プラネタリウムだけでなく。
日によっては水族館、動物園等様々な場所の受付をしております。
本日はプラネタリウムの演目は、第六百七十四星雲の成り立ちと星の紹介などですね。
そもそも、本来のプラネタリウムというのは様々な時間やそれにまつわる星座等の話をしたり時間に合わせた星空を再現したりするという娯楽なのですが。
ここでは、より学術的なニーズや条件や時間を再現すべく本当に空間を隔てて何万年何億年で起こりうる宇宙や星の座標を再現しています。
空間を隔てていないと恐らく、大変な事になるでしょうしね。
そう、光や音楽で作り出す偽物ではなく。
本物を一回一回非効率にも宇宙ごと、星ごと再現しているのです。
代金は、一回三百ポイントです。
私がそれを聞いた時、嘘だろうぉいと言ってしまった事は今でも覚えています。
今では慣れましたが、ここ怠惰の箱舟では受付のお給料というのはそこまで悪いものではないのです。にも拘わらず、一人一回三百ポイントという値段のつけ方は商売する気が無いとしか言えませんし。偽物の星を音楽をかけて出す様な出し物でももっと高い値段をつけます、それがここ以外の常識ってもんですとも。
ここは、所有は高く。体験は安く、そういう値段のつけ方をしているそうです。
にしたって、宇宙丸ごと再現してるなんて判る方にしか判らないからいいようなものの判る方が最初見た時は顎外して震えて帰りましたよ?
楽しませる、施設で脅かして何考えてるんでしょうか。
ここの水族館や動物園もそうです、ふれあい広場以外の所は基本見るだけですが。
バクテリアみたいな大きさの小さな魚から、人魚みたいなものまで。
もっと大きいのだと、星一周サイズで顔しか見えないとかもありますけど。
そういうのは、水槽から廊下を見る様に顔を出してますね。
魚人や人魚なんか、こっちに向かって笑顔で手を振ったり自由に泳いでいたりトンネル状の水槽でしたから見る事が出来たりと。
後から聞いたら、あれらもポイント貰って働いてるそうですけど。
動物園にだって、動物以外にモンスターから神獣までのどかに暮らしている有様を自由に見る事ができます。
私はちなみに、魚人達のマッスルダンスを見るのが好きですね。
あの上腕二頭筋がたまらない、あれは良い筋肉です。
餌をやるコーナーもあって、アルミの皿にそれ用の餌がいっぱい盛られているのを販売してますが。
グリフォンの餌から、小鳥の餌まで幅広く餌やりコーナーにいる動物なら鳥から四足歩行まで様々な餌を売っていたりしますね。
私個人は、魚人たちのマッスルショーで魚人達の黒いブーメランパンツに売店で買ったチケットを挟み入れるのを楽しみにしてます。
売店でポイントで買ったチケットを、挟みいれるとショーが終わった後に入れて貰った魚人の腕輪にポイントとして変換されるそうです。
人気の魚人になると、海パンがチケットでダンサーの腰蓑状態になるのです。
そう言ったショーや、おすすめのルート、迷子の道案内等を私達受付はするのでショーの中身を熱弁に語ったとしてもそれは仕事ですとも。
でもまさか動物園にドラゴンが居て、背にのって大空を舞うサービスまであるのはここだけでしょうね。
無いものがないし、採用されれば即日アトラクションやショーが増えていくのが怠惰の箱舟の良い所でも悪い所でもあります。
案内の私たちが知らないアトラクションやショーがあると、お客様から叱られますしね。
遊園地の乗り物だって、今はもうどこにもないだろう屋上遊園地の様な小さなものから長さニ十キロ以上のジェットコースターまでガンガン増えてくんですよここ。
転送機能や、転移機能をフル活用できるから成り立つような広さです。
もう、無くなってしまったものまで娯楽であるなら揃ってしまう。
私は、受付の仕事はすごく長いです。
それでも、総合案内の受付は勤勉でなければ務まらないと断言しますよ。
外の世界で娯楽施設が消える度、丸ごとその遊園地を新品で再現しているのがこの怠惰の箱舟ですしね。もちろん、水族館も動物園もサファリパークだってなんだってです。
外の世界では採算が取れなければやっていけませんから、当然です。
ここは違う、土地も空間もどんなアトラクションも全部力技で揃えてしまう。
つまり、採算ではなくここの神がやめたくなった時が消える時だと言えましょう。
メンテナンスは、専用技師が国の国民全員単位でいるし。
無ければそれらを作る、技術者も大勢います。
決して、裏切られないし安く買いたたかれたりもしません。
やられ役の怪人達にも仕事は山の様にあるけど、それを強要したりもしない。
怪人達が、ヒーローになってみたいと願っても。
ポイントを貯めれば、ちゃんとヒーローショーに主役で出れるしヒーローグッズとしてあらゆるものを作りだして貰えるわ。もちろん、ポイントを大幅に払えばシリーズっていう形で放映もしてくれるしみんなで出し合ったら戦隊物としてシナリオも作って貰えるわ。
子供が好きな怪人達なんかは、特にそれを目標にしてる奴らもいるしね。
私は受付だから、案内するだけだけど。
やられ役がいなくちゃヒーローなんてない、悪役がいなけりゃショーにもならない。
でも、怠惰の箱舟はポイントさえ払えばヒロインにだって主人公にだってなれる。
自分の生まれや運命や種族なんかだって、全部まるっと変えられる。
あの怪人達だって、悲観する奴は一人もいないわ。
だって、これが仕事ですもの。仕事がイヤならはろわ行けって言われるわよ、ここならね。
外の世界みたいに、雇用者が最初の約束を忘れて注意したり。上司がクソで一か月前の事を忘れてこっちにふってきたりとか。
熱心に尋ねたらウザがられたりもしないし、学校じゃねぇんだとかで怒鳴られる事もない。
アイディアをパクられて……、なんて事ももちろんない。
労働条件は言えば全て考慮してくれて、見落としの無い独裁国家より酷い監視がついてるもの。すぐばれるわよ、そしてバレたら犬が来る。
ルールは公正で、ルールを守らせる仕組みは世のどんなものよりエグイわよ。
全ての歴史がさかのぼれ、全ての証拠は即時用意されチート持ちがダース単位で特攻してくるもの。
死ねない、苦しめる為の全てが瞬時に用意されるわ。
私みたいに、今の仕事が好きなやつははろわなんて行かないけど。
私は、受付という仕事が好き。
特に、ここの様に誰も不幸にならない場所の案内はね。
犬で対処できない場合、眷属が出てくるわ。
今まで眷属が負けた事なんか見た事ないもの、これからは判らないけど今までは判る。でもここには眷属に勝った事のある神様も働いてるって人づてに聞いたけど、誰なのかしら。
戦ってみたいなら、ちゃんと闘技場フロア行けばいつでも指名すれば戦えるわよ?
私は野蛮なの嫌いだけど、益荒男様の様な黒光りする様な筋肉が好きなのよ。
魚人の筋肉も良い物だけど、益荒男様のは別格よね。
あの人、休日も修行してるのを見かける。
野蛮なのが嫌いなのに、闘技場フロアの横に併設された修行場には通ってしまう。
差し入れをもって、笑顔で行くの。
笑顔には慣れてる、私はあの筋肉達をみるのがたまらなく大好き。
まぁ、嫌な顔はできないわね。ただ、細マッチョは私の趣味じゃぁない。
ごつく、それでいて均等にしなやかに鍛えられたゴリマッチョが私の好みなの。
受付はね、どんな嫌な事があっても冷静にしてなきゃいけないの。
笑顔じゃなくても、笑顔に見える顔を作るのは当然よね。
でも残念、いろんな所に行ってればここじゃポイントを貯められない。
パチンコやピンボールだってある、台も最初期のものから歴史順で並んで居るわ。
時代遅れのものだろうが、もう作って無かろうが。
ここには全部ある、だから私の様な案内が必要なのよ?
ここのは、確率が全部書いてあって設定が貼ってあるもの。
確率どうりにしか、当たらない。
確率表にごまかしもインチキも無いわ、正直に全部どういう台なのか説明書がぶら下がっている。
ポイントを専用の玉やコインに変えて、景品は専用の玉やコインでしか変えられない。
それでも、バッテリーが切れないゲーム機や携帯やら家電製品なんかもそうだけど。
飴だって、一番安い飴は1ポイントだもの。
高いものは十万ポイント以上するわよ、彫刻というより芸術品でこれを飴で作る必要あるのかしらって思うような大作が。
ポイントか専用の玉やコインを払えば、飲み物も食べ物も売って貰える。
後、トイレとかに立ちたくなっても席を時間指定で取っといてもらえたりするサービスもあるわよ。
審議を通った、全ての娯楽が集い。
審議を通った、全ての景品が揃う。
外の世界じゃ、法律やらしがらみやら製品寿命で消えていったもの達が全部ある。
会社がなくなっても、権利さえ確保できていれば怠惰の箱舟が抱える技術と魔術と金でどうにでもしてしまうもの。
あの女神は、無いものは全て世界線から持ってくるし。
叡智の図書館に技術書としてあるもので、再現できないものがないのだから。
当人が死んだ、話芸の生の講談なんか聞きたいと言っても話の間だけ蘇らせて叶えてくれる。
当人が死んだ、剣術を教わる為に修行の間だけ蘇生させるなんて事もやる。
失われたもの、時代が違うもの。
ここでは関係ないわ、相応のものが取られるだけで叶わないって事はないものね。
だから、案内をする私達はより親身になって話を聞かなきゃいけない。
答えは沢山あるけど、答える口は一つしかないもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます