日常編
第24話
そうして、私の二度目の学園生活が本格的にスタートした。
過去では、もうこの時点で退学していて授業なんて一度も受けたことがなかった私には、何もかもが新鮮で。
知らないことを知るというのがこんなにも有意義で、そして、価値のあるものだったということを、初めて知った。
教養に、座学、帝王学に、社会、倫理、どれも難しいけれど、様々な知識が不足している私にはちょうど良かった。
「えー、つまり、君たちの占術の際出てくる様々な光や剣、石、カード、使い魔などは、君たち自身の魔力が具現化しているということだ」
アルベルト先生の授業はとても分かりやすい。図で説明してくれているのもあるけど、私にも分かるくらいの言葉で話してくれているからだろう。
「なにか質問はあるか?」
「はい先生」
「よし、ルドガー君」
「どうしてその、魔力がなんらかの形になってしまうんですか?」
「良い質問だな。これは随分と専門的な分野で、諸説あるということを念頭に聞いて欲しい」
「はい」
生徒のそんな疑問に、その部分を掘り下げての説明が始まった。
「まず、魔力とは本来形を持たないものであり、だからこそ様々な形を取れる。
簡単に言うと……そうだな、エネルギー、生きている間に自分から生まれている燃料だな。使い方次第では爆弾になることもあるが、魔力の使い方はなんとなく本能的に理解してる奴しか居ないだろう。これ以上はまた今度やろうな。
ともかく、我々占術師は占術の際に、その魔力を纏いながら、占術の為だけに作られた専用の動きをしている」
かつかつ、と音を立てながら、黒い大きな板に白い何かで人の図が描かれていく。
「花たちなら特別な発声の旋律、フェアリアならステップと旋律、星舞いなら足の動き、ラケシアなら呼吸、それぞれが口伝や、先達に教わる形で継承して行く」
そこまでを説明した先生は、手を止めて生徒たちに向き直った。
「ここまではいいか?」
「はい」
「で、こっからが専門的な話だ。まず、魔導機械はどうやって動いてるか知ってるか?」
「はい! 魔力を燃料に動きます」
私の席からは見えない後方から、誰かの声が聞こえる。
みんな好き勝手に色んな席に座るからか、人によっては定位置が決まっていないので、本当に誰が誰だか分からない。
とはいえ、私はまだこのクラスの人を全員を覚えている訳じゃないから、結局何も分からないのだけど。
「そうだな。つまり、占術師の身体でも同じことが起きてるんじゃないかってのが、学説のひとつだ」
「よくわかりません!」
前の方の席の、金髪の男子生徒が手を挙げながら断言した。
「あー、ほら、魔導ランタンに火を灯す時、スイッチ押すだろ? それが占術師たちの特定の動作なんじゃねーか、って話だ」
「先生、それだと形が変わる説明になりません」
生真面目そうな黒髪の女子生徒が手を挙げながら反論する様子を、ぼんやりと眺める。
「それがなるんだなぁ。魔力が魔導機械を通ることで、火が起こされてる。つまり、魔力が火という物に変化してるってことだ」
「はえー……」
そんな声が聞こえたけど、真後ろの方だからか、どんな生徒がそんな声を上げたのかは分からなかった。まぁ、分かっても仕方ない気はする。
「他になにか質問あるかー?」
「はい先生」
「はい、ライアンさん」
「魔導機械が火を起こして、火が出来てるんじゃないんですか?」
「そう、そこが諸説ある部分なんだな。これ以上はマジで専門的になるから、この違いが分かって、なおかつ、気になる奴だけ放課後居残るように」
そう宣言した先生は、描いた図を何か四角い物で消しながら、改めて生徒たちに向き直った。
「今は、カードやなんやかんやは、自分の魔力から出来てるってことだけ理解しててくれ。そんじゃ次だが……」
そうして、先生の授業の、次の説明が始まったのだった。
授業も終わり、教科書とノートを鞄へと入れる。あとはもう寮へ帰るだけなのだけど、それよりも私にはやらなきゃいけないことがあった。手紙探しである。
今日は特に予定が無いから、母の手紙にあった図書館の本を探しにへ行ってみようと思う。
ここ一週間ほどは授業や教室の雰囲気、それから地理に慣れるのに必死だったから、全く行くことが出来なかったけれど、今日なら行けそうだ。
「セリーヌ」
「あ、ウル君。どうかしたの?」
ふと声を掛けられて、ちょっと驚いてしまった。
「騎士」
「うん?」
何を言われたのか分からなくて、つい首を傾げてしまった。
「おれは、お前の騎士になる」
「……えっと……?」
言った当人はなぜだか満足げだし、本当に意味がわからない。どうしよう、困った。
「まっったアアアアア!!!!」
どーん! と扉を開けて、とても見覚えのある少女が教室へ入って来た。
「……誰だ」
「セリーヌの騎士は! このボク! お前みたいなポッと出に任せられるワケ無いネ!」
訝しげに目を細めるウル君に、メイリンがビシッと指を差しながら断言しているけど、これは一体何が起きているのだろう。
「メイリン……? どうしてここに……」
「聞いてセリーヌ! ボクも特別クラス入りしたヨ!!」
「そうなのね。メイリンってやっぱり凄いわ」
「フフーン、もっと褒めてくれてもいいヨ!」
嬉しそうに目を細めるメイリンは、やはりとても可愛らしい。
そして、同じクラスになれたことが素直に嬉しいと思えた気がした。
まだ自分の感情が分からないのは、仕方ないと考えても良いのだろうか。
「それより、なにネこいつ。セリーヌに馴れ馴れしくして!」
「……あ、この子はラカーシャのウル君。ウル君、この子は清星国のメイリン」
「……そうか」
剣呑な視線をウル君に向けるメイリンに、慌てて彼を紹介した。
当の本人はというと、無表情のまま小さく頷くだけ。
「はー、スカしちゃって、なんだヨ。セリーヌの騎士の座は譲らないからネ!」
「……なら、どうする?」
「ふゥん。じゃあ、決闘でもするカ?」
「いいだろう」
なんだか、とても雰囲気が悪い。なにがどうしてこうなったのだろう。まったく理解出来ない。
初めて出来た友達が、自分の知らない誰かと友達だったら、嫉妬する、のかもしれない。
その感覚が分からない私には、どう反応すべきなのかも分からなかった。
だけど、それよりも。
「待って二人とも」
「なにネ、どしたヨ」
「……?」
止めたことで不思議そうにこちらを見る二人に、真面目な顔をして尋ねる。
「騎士って、なに?」
途端に二人ともが、キョトンとした、とても可愛らしい表情で固まったのだった。
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