第242話 もこもこ画伯作『仲良しなリオちゃん』

 素敵なクマちゃんの素敵な絵が、悪い村長のリオちゃんに消されてしまった。

 両手の肉球で涙をぬぐい悲しみを乗り越えたクマちゃんは、現在『暮らしの手引きちゃん』の続きを作っている。


 うむ。村長のリオちゃんは少し大きめに描いた方がいいだろう。



 円形のベッドに敷かれた真っ赤なシーツが、テラテラと怪しい光を放っている。

 その上に置かれた背の低いテーブルでは、真っ白な子猫のようなもこもこがヨチヨチウロウロと動き回り、クレヨンでお絵描きをしていた。


「…………」


 細かい男リオは珍しく口を閉じ、愛らしいもこもこが自画像を美化しすぎないよう見張っていた。

 

 先程の絵は本当にひどかった。

 ふわふわで可愛いぬいぐるみから、音叉のような足が生えていたのだ。

 何故足だけ長く描こうなどと思ったのか――。


 リオが気にせずにはいられない足の絵を『あれはイカの二本だけ長いやつ……』と思い出していたとき、もこもこが金髪の青年を描いているのが見えた。


 紙の半分に描かれた三人の客人とクマちゃん。

 そのよこで、紙の半分を顔だけで支配している金髪。


 リオはクマちゃん画伯に尋ねた。


「遠近感おかしくね?」


『その金髪は相当手前にいますね』と。

 同じ髪色の彼には分かる。

 きっとそいつは『もっと後ろに行きたいんだけど……』と思っているはずだ。

 

 できれば完全に枠外へ追い出すか、クマちゃん達の仲間に入れてあげるかしてやってほしい。

 

 お手々を止めたもこもこ画伯は、子猫のような声で「クマちゃ……」と答えてくれた。


『代表ちゃん』


 村長のリオちゃんは村の代表ちゃんなので、みんなよりも一歩前にいるのです……という意味のようだ。


 キュ! と湿ったお鼻を鳴らし気合を入れたクマちゃんは、すぐに続きを描き始めた。

 もこもこ画伯は忙しいらしい。



「そっかぁ」仕方なく引き下がる村長。


『歩幅おかしくね?』とは言えなかった。


 可愛い我が子の愛くるしい呟きが聞こえてしまったのだ。



「クマちゃ……クマちゃ……」

『リオちゃ……仲良しちゃ……』


 

 駄目だ――。

 可愛すぎる。胸が張り裂けそうだ。

『一歩じゃなくて二十歩くらい前にいると思う』口から出かかった言葉を無理やり飲み込む。

 

 もこもこは『仲良しちゃんなリオちゃん』本人が、『クマちゃん達より後ろでいいんだけど……』と思っていることを知らない。

 

 そんなことを伝えてしまえば、クマちゃんはキュオーと鳴いてしまうだろう。



 画伯がいま描いているのはスイカのようだ。

 大きく描きすぎて顔だけな金髪の両脇にある赤緑黒。


『仲良しなリオちゃん』は両肩にスイカをのせている設定らしい。

 

 気になる。

 スイカから出ている管のようなものが『仲良しなリオちゃん』の口に繋がっているのも気になる。

 まさか、あれで両肩のスイカから直接汁を――。


 もこもこ画伯の考える『仲良しなリオちゃん』像がとがりすぎているのが気になるリオの葛藤は続く。 

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