第197話 リポータークマちゃんの凄い草。「えぇ……」
もこもこしたリポーターは地面に転がりふんふんふんふんと興奮している。
ピンク色の肉球を素早く動かすリポーター。
「クマちゃんそこ危ないから!」
もこもこが心配なリオは暴れる我が子を『メッ!』と叱る。
綿ボコリのような小さなもやだとしても、危険なものには違いない。
早くもこもこを地面から退かさなければ。
うっかり現地人のリオは先端がもこもこした草を持ったまま、おもちゃで遊ぶ子猫のようなリポーターを抱き上げようとした。
「いやクマちゃんそれ俺の手だから蹴るのやめて」
リポーターは向きの変わった草を追いかけるため、丁度いい位置にあった誰かの手を、短くて可愛い足で蹴り蹴りした。
ふんふんふんふん――。
もこもこしたリポーターの愛らしい鼻息が聞こえる。
「えぇ……興奮しすぎでしょ」
草を手放したリオは、リポーターが仰向けのまま左右にじたばた転がっているのを見てもう一度言った。『えぇ……』と。
荒ぶるリポーターを何とか抱き上げ、綿ボコリへ視線を向ける。
「無いんだけど」
かすれ声が呟く。
癒しの獣のもこもこの背中で潰れたのか。
まさか、興奮した癒しの獣の鼻息でホコリのように飛んで行ったのだろうか。
リオは自身の腕の中でふんふんふんふんと息を整えているリポーターに確認する。
「無くなったんだけど」
静かな森の中に響く、ふんふんふんふん――。
ふんふんは深く頷き「……クマちゃ……」と答えた。
『……クマちゃ……』と。
あの草のおかげでもやもやが消えましたね、という意味のようだ。
「いやあの草関係ないでしょ」
リオは答えながら草を見た。
「なんか色変わってんだけど」
黄緑色だった草がピンク色になっている。
リポーターのふんふんが「……クマちゃ……」と頷いた。
『……クマちゃ……』と。
とても素晴らしい草ですね、という意味のようだ。
「えぇ……」
現地人の素晴らしくなさそうな声が響く。
彼はピンク色の草を拾い、じっと眺めた。
「めっちゃきらきらしてんじゃん……」
現在の草の状態をリポートする嬉しくなさそうな声。
仕事を取られそうなリポーターはハッ、と何かに気付いたように動きを止めると、
「……クマちゃ……」とかすれ声のライバルに魔道具を探すよう頼む。
「あーさっき捨ててたやつ」
リオは余計なことを言いつつ『捨ててたやつ』を拾い、彼の腕の中で休憩中のリポーターへ渡した。
「クマちゃ……」と丁寧にお礼を言うリポーター。
もこもこは肉球をペロ――と格好良くひとなめし、仕事を再開する。
魔道具を通した愛らしい声が「――クマちゃ、クマちゃ――」と周囲に響いた。
『――草ちゃん、解決ちゃん――』
その草さえあればすべてが解決するでしょう、という意味のようだ。
「へー」
不真面目な返事をする現地人。
点灯中の赤いランプ。
子猫のようなリポーターに頼まれたリオは片膝を突き、もこもこをそっと、何もなくなった地面へ降ろした。
リポーターが右手の肉球で「――クマちゃ、クマちゃ――」と土を指す。
『――草ちゃん、ここちゃん――』
その草をここに植えてみましょう、という意味のようだ。
「ここ? スコップとか使わない感じ?」
現地人リオはリポーターの無茶振りに『えぇ……』という顔をしながら、何もない地面にそれを刺そうとした。
「……めっちゃ立ってるんだけど。この草おかしくね?」
元々そこにあったかのように直立する草に嫌そうな顔を向け、リオがもこもこに尋ねる。
彼の苦情を全く聞いていないリポーターは、ミィミィと鳴く子猫のような声で「――クマちゃ、クマちゃ――」とリポートを始めた。
『――草ちゃん、きらきらちゃん――』
なんということでしょう、草がきらきらと輝いています、という意味のようだ。
「へー」
悪い大人の見本は草を見ずに返事をしている。
赤いランプは点灯している。
悪い大人に負けず頑張るもこもこ赤ちゃんリポーターが「――クマちゃ!――」と愛らしい声を上げた。
立ったまま寝ているように見えるお兄さんを見ていたリオが、いかにもぼーっとしている人間らしい声で「どしたのクマちゃん」と尋ね、
「…………増えてんじゃん!」
リポーターへ視線を移し驚愕した。
先程地面にサクッと刺したピンク色の草が、いつの間にか花畑のように広がっている。
「クマちゃん埋まってるし!」
慌てたリオはきらきらと光るピンク色の中から、黄色いヘルメットを探す。
「――クマちゃ――」と、こんな時でも集音魔道具を手放さないリポーターを無事救出した彼の口から「えぇ……」と心の声が漏れた。
「すっげぇ……まだ増えてる」
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