第9話 届かぬ願い

 クマちゃんは現在一人でお留守番をしている。


『俺達はしばらくギルドの会議で戻れないから、ドアをカリカリしないように』


 最近小言が多いリオの言い付けを守り、ドアには近付いていない。

 再びルークに置いていかれてしまったのは悲しいが、クマちゃんにもやらなければいけない事があるのだ。

 

 リュックの中から見つけた小さな本を開く。


《はじめての工作》 


―初級編―


・元になる素材と魔石を用意し、作りたいものを想像する。

・杖で魔力をそそげばできあがり。


 なんだか簡単そうに見える。

 うむ、と頷く。


 この本によると、作りたい物に合わせて素材を探さなければいけないらしい。

 魔石の入手はどうすればいいのだろうか。

 とりあえず部屋の中を探索してみよう。



「ただいま~。って部屋暗!! この部屋めっちゃ暗いんだけど!!」


 リオはドアを開けてすぐに部屋の異常に気が付いた。

 いつもは自動でつくはずのランプが消えている。

 そして暗闇の中で白っぽい何かが動いている。


 同時に部屋に戻ってきたルークは夜目が利くのか、しなやかな動きで暗闇の中にいるクマちゃんを掬い、腕に抱えた。

 もふもふの顎の下を撫で、長い指を器用に動かし曲がっている赤いリボンを直す。


 そして、そのまま何も言わずに部屋を出ていった。 


 

「ぜってー飯食いに行っただけでしょあれ」


 今朝方期待を踏みにじられ心が擦り切れているリオは、暗い闇に包まれた部屋の中で、孤独に呟く。

 そろそろ夕食の時間だ。

 あのルークが部屋の明暗ごときを気にするはずがない。



 リオの中で容疑者は一人しかいない。

 だが証拠がないため捕まえることが出来ない。

 あの小さなもふもふがひとりで、届かないはずの壁の魔石をすべて外せるとも思えなかった。


 捜査を打ち切り、ギルド職員に冷たい目で見られながら、始末書を書く。


 嘘はよくない。

 理由もなく〝全部なくしました〟と書くわけにもいかない。


 真実は後でマスターに報告しよう。

 今はとにかく魔石が欲しい。



 リオの願いも虚しく、外壁に並ぶその窓は、ひとつだけ、ずっと暗いままだった。

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