第7話 間違いない

 朝、目が覚めたクマちゃんは、ルークの腕から抜け出し部屋の中を見た。

 床が大変なことになっている。

 なんとなく、このままにしておいてはいけない気がする。


 少しくらい部屋が汚くても気にしないタイプのクマちゃんが、ちょっと気になるくらいには大変なことになっていた。

 ひとりではどうにか出来そうにない。

 助けが必要だ。


 

 クマちゃんに顔をふんふんされ、ルークは目を覚ました。


「くすぐってぇ」


 やたらと色気のある低い声が部屋に響く。

 寝起きでも全く眠そうには聞こえない。


 クマちゃんがルークの意識を床に向けようと、もふもふの手で彼の長い指を引っ張っている。

 視線をそちらに流したルークは、無言でクマちゃんを抱え、洗面所へ向かう。


 そして、椅子に掛けてあった黒い上着を取りそれを羽織ると、しなやかな動作で部屋を出ていった。



 ドアが閉まる音がする。


「いまなんじ……」 


 寝起きでさらにかすれた声でリオが呟く。


 室内に自分以外の気配がない。

 ――もう朝食の時間だろうか。


 普段は二度寝したくなるが、今日は意識がはっきりするのが早い。

 何故か妙に体の調子がいい。

 室内なのに澄んだ空気は、森の中のように爽やかだ。


 いつもより軽く感じる体を起こすと――爽やかではない。


 部屋が大変なことになっている。

 

「え、なにこれ」


 床に木が倒れている。


 よく見るとその周りに、割れた植木鉢、こぼれた土、そして転がったリュック、はみ出した杖。

 間違いない。

 犯人はクマちゃん。


「えー……めっちゃ木倒れてんじゃん」


 室内に木。

 しかも倒れている。

 意味がわからない。


 原因はあの謎の植木鉢だろう。

 だが昨日クマちゃんにあげた水は、この部屋の水差しに入っていたものだ。

 特別ではない、この宿で普段から飲料水に使われているただの水。

 自分があげたのだから、間違いない。


 考えてもわかるわけがない。

 クマちゃんに聞くしかないだろう。

 答えを知っているかは分からないが。


 一人でこれを片付けるのは絶対に嫌なリオは、素早く身支度を整え、一人と一匹を探しに部屋を出た。

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