41話 水晶眼②
「行ってくるねー!リョウ、レナちゃんに鼻の下伸ばして迷惑かけちゃダメだよ?」
「だ、大丈夫。迷惑なんてかけるわけないだろ」
リョウの視線が泳いでいる。
「なんか怪しいなあ……。レナちゃん、こいつが変な目で見てきたらぶっ叩いていいからね」
サリーはしっかりそれを目撃してセレナータに忠告する。
「勇者様にそんなことはできませんわ」
セレナータは笑いながらそう返す。
「確かに王女様はそんなはしたない事出来ないか。それに護衛の人が目を光らせてるだろうから心配ないよね」
ちらりと目を向けると、護衛の2人は居住まいを正していた。お忍びとはいえ、王女の護衛だ。光栄でもあり責任重大だろう。
そのうちの1人、ユーナとサリーに着くことになっている護衛が2人の方へと近付いた。偶然にも、ユナが暗示をかけた方だった。
「では、よろしくお願いしますわ」
セレナータがその1人へと声をかける。
「はっ!」
「私がお2人を王都まで護衛します。よろしくお願いします」
その護衛はセレナータへ礼をすると、2人へと声をかけた。
「……よろしく」
「よろしくね!」
「すぐに出発しますが、よろしいでしょうか?」
「いいよね?」
護衛の言葉にサリーがユーナに確認をとり、ユーナは頷きで返した。
「街道を行けば夕方頃には王都へ辿り着ける予定です」
街の門をくぐり、少し経ったところで護衛がそう言った。
「こっちに来る時は出発時間も遅かったし、森の中を突っ切ったから1泊しなきゃいけなかったものね」
「そうだね」
護衛は先頭を歩き、少し歩調を速めていた。
一応2人が着いていけるように気を使ってはいるが、結構な速度だった。
「ねえ、ユーナちゃん」
そんな中、サリーが小声で声をかけた。
「あの護衛の人、黒い靄みたいなものが見えるんだけどユーナちゃんにも見える?」
「靄?見えないけど……。水晶眼の効果なら、黒い靄は悪意、だよ」
ユーナも小声で返す。
「悪意……。それ、着いて行っても大丈夫?」
「大丈夫じゃないかもしれないけど、あの人だけが悪意を持っているのか、それとも指示した人からなのか調べる価値はあると思う」
「確かに。あの人だけなら上に不快だったって訴えちゃえばいいものね」
そうは言っても、恐らく上からの指示での悪意だろう。
「提案しておいてこう言うのもあれだけど、逃げるのも手だと思う」
意見を訊きたいと振る。
「まだ相手の出方も分からないし、少し様子見したい、かな。本当にヤバそうならその時は逃げちゃえばいい。私も何か見えたらすぐに報告する」
「同意見。まずはどんな目的で呼び戻しているのかも分からないしね」
ろくな事じゃない気がするけど、という言葉は口に出さずに飲み込んだ。
「そういえばなんだけど」
サリーが唐突に切り出した。
「ユーナちゃん、なんでこの眼について詳しいの?」
実際は使っている人から聴いたからなのだけど。
「ええと、ここに来てから読んだ本にそういう記述があったから」
そう言ったユーナは、サリーには揺らいで見えた。
「…………そっか」
恐らくそれが嘘なのだろうと、何か誤魔化したのだろうということがサリーには分かってしまった。
けれど、キラキラが好意で靄が悪意であるということも知っている事から悪意からの嘘ではないのだろうと理解した。揺らいだけれど、ユーナから見えるオーラはキラキラしたままだったから。
ユーナも水晶眼の前では嘘がバレるということは分かっているが、色々と隠している今、本当のことを言うことが出来なかった。
それはそれとして、一応は護衛という名目なのに小声で話しているうちに結構距離が開いてしまっていた。
内緒話も一段落ついた、ということで2人は小走りで距離を縮めた。
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