31話 初依頼

「常に身につけておくって、このマント変に目立たないか?」

 メモを見たリョウがそんなことを言う。

 現代の感覚で言えば常にマントを着てるのはしっくり来ないかもしれないけれど、ここは異世界。なんなら着ていた方が自然まである。


 この町を歩いていた感じだけみても、マントを着ている人はちらほら見かける。

 というか、一種のブームになっているっぽい。勇者の必須装備だったのもあって、似たデザインのものが大流行りしている。特に冒険者に。

 ……だからこそ、人の多い場所に行く時はマント脱いでいたな、逆に気付かれずに済むから。


「そうでもないんじゃない?ギルドにいた人とか、結構マント着てる人多かったよ」

 結構ちゃんと周りを見ていたらしいサリーが言う。

「それでもやっぱり、勇者って言えばマントと剣だよね。一気にそれっぽくなった」

 そう続けた。


「そういや俺たち勇者一行ってやつのはずだよな。全然それっぽい行動してないんじゃね?」

 ついにリョウがその事に気付いてしまった。

「そりゃあ、勇者を名乗るには実力が全っ然足りてないからね。圧倒的に戦闘経験が足りない」

 と言いたいのをちょっと抑えた。

「……ウサギに負ける勇者って、見たい?」

 ぼそっと聞こえたサリーの言葉の方が、よっぽど酷かった。




「なんか依頼受けてみよう」

 リョウの言葉を受けて、冒険者ギルドへと足を運んだ。

 といってももう昼前で、いい依頼は捌けている時間帯。難易度が高すぎるものや、報酬が割に合わないようなものしか残っていない。


 困った時はギルド員に訊こう。


「そうですね、初心者にはこの辺りがオススメですね」

 ギルド員が出したのは、ド定番、薬草採取や低級魔物討伐。この辺りは常設依頼で難易度も低く、失敗ペナルティもない。その分報酬も少ないけれど。


「初依頼だし、こんなもんじゃない?やってみようよ」

 サリーが快く引き受ける。

「薬草採取ならこの辺り、魔物討伐ならこの辺りが良いでしょう。町からもあまり離れていませんし危険度もあまり高くありません」

「いのちだいじに、だね!」

 ほんとにそう。安全性って大事。

 勇者だから余裕でしょって危険地帯にホイホイ遣られていた現役時代を思い出した。……まあ、ギルドの依頼程度なら割と余裕なことが多かったけど。面倒だっただけで。


「こちらが常設のリストです。上の方が低難易度、下の方が高難易度の常設依頼になります」

 渡されたリストに目を通す。

 そこまで変なものは載っていない。

「あ。この間のウサギ、結構下の方にある」

「ラピットラビットですか。その魔獣は危険度と言うより希少性で難易度が上がっているものですね」

「つまりこの間はラッキーだったんだ。美味しかったもんな」

「ラーザさんもいちばん美味しいウサギだって言ってたものね」


「ちなみに、ラピット系の魔物は人気が高いので持ち込んで頂けたら高価買取してますよ」

 このギルド員、多分自分が食べたいだけだ。美味しかったって言ってた時、ものすごい羨ましそうな顔をしていた。冷静を装っていたけど、ちょっとだけ声が裏返ってた。


「火の魔法練習するとしたらどの辺りに行ったほうがいい?森の中とかは避けたいと思ってるんだけど」

 忘れるところだった。これを訊いておかないと。

「そうですね、木々が密集している所だと延焼の危険もありますし、避けたほうがいいですね。だとすると、この川辺とかはどうでしょう。常設依頼のスライムの生息地になりますが」

 スライムか。常設のスライムってことはそこまで強くないほうかな。

「稀に上位種がいることもありますが、基本的に弱い種が生息しています。注意点としては物理が効きにくい所ですね。魔法は効くので魔法攻撃の練習にはちょうどいいかと」

「今の私たちにピッタリじゃない?」

「確かに」

 上位種に気を付ければ問題なさそう。

 道中に薬草の生息地もある、結構いい条件だ。



 誰の反対もないということで、初依頼はスライム討伐ということになった。

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