20話 雫

「師匠」

 サリーやリョウと別れ、宿の部屋に戻るとルーが待っていた。


「はやかったね。それで、雫とは?」

「はい、町中では目立つからちょっと出てきて欲しいとのことなのです」

「へえ、どこ?」

 訊くとルーは地図を出して、

「この辺にいる、と言っていたのです」

「了解、ありがと。行ってみるね」


 ルーにお礼を言って、私はその場所へと向かった。




 とは言ってもオブシディアンの近くまで来てくれていたようで、そんなに長距離を移動するわけではなかった。



 月明かりのうつる泉のほとりにたたずむ美少女、とても絵になる。

 緑を基調とした衣装を纏い、すらりとした手足に高身長、そして出るところはちゃんと出ているが大きすぎることもない。女性としてはものすごく羨ましいスタイルで、トップモデルといっても疑いようのないほどの美形。それだけでも絵になるというのに。


「久しぶり、雫」

「お久しぶり、ユナ。ルーちゃんからきいた時は驚いたわ。貴方、帰還したってきいていたもの」

 うん。仕草も声も、相変わらず綺麗だ。

「まあ、それには事情があって。

 早速本題。雫がここに来た時のことなんだけど、確か急に強くなった魔力が暴走しかけたって話してたよね?」

 前に話した時、そんなことを言っていた気がする。

「そんなことよく覚えていたわね。恥ずかしい話だからほとんど言ったことがなかったのに」

 雫はそう言って顔をあからめる。妙に色っぽい。

「でも暴走はさせていないのよ。やっぱりこれがあったからなんとか制御出来たの」

 そう言って纏ったマントを翻して見せた。


「やっぱりそのマントだよねえ。それって召喚したところが管理してるはずだよね?」

「そうね。あんまり詳しく訊かなかったけれど、確か召喚陣を起動させた時にその者に合ったマントが生成されるとか。そんなことを言っていた気がするわ」

「へえ、それは知らなかった」

 召喚陣にも不思議が多い。


「少しだけルーちゃんから聞いたのだけど。ユナ、貴方、リースベルトの勇者召喚に巻き込まれたのよね?もしかしてその勇者に関わることなの?」

「当たり。リースベルト、特に王都は亜人とか余所者嫌いってきいていたけれど、異世界もダメっぽくてね。

 それだとなんで召喚なんてしたんだって思うけれど。結構雑に扱われてね」

「勇者専用のマントなんて貰えなかった、と」

「その通り……。しかも今日会った神子からは近く派手に暴走させるって言われてね」

 今日神子と話したことを雫にざっくりと教えた。


「町ひとつ溶かすとはまた物騒な火力ね」

「多分だけど、放っておくと被害は大きくなるだろうね」

 なにしろ今まで魔力なんて存在しないところで生活していたんだ。強化された魔力が蓄積していっていると考えると対処は一刻を争うようなものになる。


「とりあえず対処療法でしかないけれど、寝込みを襲おうかと」

 私はそう言って空の魔石をいくつか取り出した。

「少しでも魔力を減らしておけば被害拡大も暴走のリスクも少なくなるからね」

「言い方」


「あとはちゃんと魔力の扱い方を学べばいいと思うから……同じ異世界勇者としてちょっとレクチャーしてくれると助かるなって」

「ユナじゃだめなの?」

「私は……ここの魔法も勇者専用技術もあんまり得意じゃないんだよね」

 そう、私はこことは違う世界の魔法がベースになっているから、使えないわけではないが得意ではない。教えられるようなものではないのだ。


「まあ、最近はあまり忙しくもないしね。ちょっとくらいなら引き受けてあげてもいいわ」

「ありがと。よろしくね」

「どうせユナのことだからその間にマント取ってくるとか言うのでしょう?別行動にしちゃったほうが都合がいいのよね」

 さすが、私の性格をよく分かってる。


「でも気をつけてね?いくらユナが隠密系が得意だって言っても相手は王城なのよ。それにリースベルトは人間主義じゃないの」

「分かってる。まあ自分の安全第一で行くからあんまり心配しないで。……これでもこの世界の勇者として活動してたのだから」

 そう、自信に満ちた顔で微笑んだ。




 その後、明日の打ち合わせをして雫とは別れた。

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