鳥焼きパーティ!

「それでは水鳥の処理やってくぞー。自来也、いつまでも凹んでんなよぉ」

「す、すみません。〆るときの命の消えていく感覚がどうも……」

「命食って人は生きてんだからその感覚忘れるなよー。じゃあ、俺が最初に捌くからよーく見とけ」


 アヒルを自分の手で〆てグロッキーになっている自来也にトドメを刺すようで若干申し訳なくもあるが、時間も押しているので巻きでアヒルの処理をさせてもらう。

 まず、下が大きな箱になっている両サイドが中に隙間のある緩やかな傾斜の作業台の上でアヒルの胴体を握る。次に翼の羽根を擦るように毟る、この時生えている方向に抜かないと皮が切れてしまうので注意。

 風切り羽根も雨覆も毟り終えたら手首から先を鋏でカットする。食うとこもないしね。

 翼の後は胴体だ。胴体は肩と側面の皮が破れやすい、なので腹から先に毟る。胴体には二種類の羽根がある。一つは軸がある羽根、英語でいうならフェザー。もう一つは羽毛、英語でダウンだな。これを同時に処理する。羽根をグッと抜きながら羽毛を擦るといい感じに一緒に捲れるので、綺麗にそのまま羽根と羽毛を作業台の隙間に落とす。この隙間は後で羽根と羽毛を別々に分けるためのものだったのだ。

 羽根と羽毛を背中と腹側両方毟り終え、お次は産毛をガスバーナーで焼き切る。この時に加減をしないと美味しい匂いが出なくなるので注意。

 最後はお湯に数秒湯通しして、瞬時に甕に入れてある水につけて冷やす。これで作業終了。頭を落としているので中身が出ないように結ぶのも忘れずに。


「内臓は取らないんですか?」

「冬だから精肉するまでは抜かねぇ。水につけてモツをガッツリ腐らせるような原因は減らしてるしな」

「……今すぐ食べるのでは?」

「半日ぐらい置いた方が美味くなるからな、これは今は食わねぇ。別の水鳥がある」

「この水鳥は今〆なくてもよかったのでは……」

「まぁな!」


 悪戯が成功した悪ガキのような表情で黙阿弥が笑っている。悪いやつだねぇ。

 ぶっちゃけると自来也に経験を積ませるためだけにこのアヒル君を〆た。俺たちの飯で五羽ぐらい食べるから捌くこと自体は不要じゃないんだよ。今やらなくていいってだけで。解体小屋の熟成室には二十を超える丸々のアヒル肉が保存されてるしな。


「ハハハ! そう恨めしそうに見るな。これより冬が本格化する。黙阿弥たち管理人が感冒などにかかったら、自来也が村の者を率いて水鳥の間引きをするのだぞ。それ故に今、お前さんに処理の方法を伝授したんだ」

「なるほど! そうだったのですね!」


 いや、適当に言った。黙阿弥の悪ノリに乗っかっただけである。俺みたいな口だけの奴に本当に騙されないようにしろよ自来也。







 社前の広場で焚火を起こしてくれている連中が鳥焼き用の網を既にセットしておいてくれた。仕事のできる奴らめ、そんなに鳥が食いたいのか。

 黙阿弥が切り分けてくれたアヒル肉の四肢を木の枝に串刺し塩胡椒を振る、遠赤外線でふっくらと焼けるように少し離した位置からじっくりと焼く。香ばしい匂いが辺りに広がってきた。それにしても塩胡椒を入れたボトルの中身がまったく減っていない。こいつら一切使ってないな。


「これは強烈に腹が減りますな」

「然り然り」

「御使い様のお墨付きで肉を食せるとはまったくありがたい」


 黙阿弥、惣太、七之助の水鳥管理の志能便三人組が涎を口の端に滲ませながら、パチパチと心地よい音を立てて焼けていくアヒルの肉を見つめる。

 対照的に、自来也は油っけが濃すぎるので野菜があったほうがいいのではやら、米を今から炊いても間に合うかやら真剣に悩んでいる。これが村で良いもん食ってるかどうかの違いかな。自来也はこの時代にそぐわないほどに舌が肥えすぎている。

 実際のところ、自来也には料理人の適正はある。一度臨死に近い状態まで飢えたことが原因か味覚はかなり鋭くなっているし、何よりも料理基準で食材を揃えるのではなく、食材をどう料理するかでメニューを考えられるタイプの料理の仕方をする。分かりやすく言えば主婦の料理ってことだな。

 基本の煮る焼く炊く揚げるを教えたらメキメキ料理の腕が上達したもんで、面白がって外国料理を色々教えたら日本風にアレンジしてたまに酒場で振舞うようになったんだよな。俺が酒場で管巻いているときしか調理場に立たないので、村民からはレアキャラ扱いされてるのが笑える。


「自来也、野菜が食いたいなら倉庫に発酵玉菜と沢庵があるぞ。米も食いたいなら好きに炊け」

「ありがとうございます! 行って参ります!」


 全力疾走で倉庫まで駆けだす自来也。うん、あいつに任せてたら美味いもん食えそうだ。

 ちなみに、発酵玉菜はザワークラウトのこと、沢庵も年代的に存在していないが原型はあるので勝手に名前を語っている。村の奴ら、沢庵のこと天神漬けって名付けようとしたからな。俺が名前を言いにくくなるのはごめんだ。


「黙阿弥、焼きはどうだ」

「十二分に火は通ったかと、皿を用意します」

「構わん。齧りつく」


 黙阿弥から手渡されたアヒルのモモ肉をガブリと一口。脂が遠赤外線で程よく熱せられて非常に香ばしく、熱さを感じさせない旨味が口の中を蹂躙した。

 あぁ、なんで俺はビールを持ってこなかった……。


「いかがです?」

「最高だ。さぁ、お主らも食え食え」


 俺の言葉に三人も一斉に肉に飛びつく。汚れることなど厭わずに大口を開けて肉に噛みつき、ホフホフと湯気を出しながら上を向く。顔は見えないが口の橋は吊りあがっている。

 それを確認した俺が二口目を食べようとしたところで自来也がザワークラウトの入った瓶と沢庵を切り分けた皿を抱えて戻ってきた。ありがとうと自来也に告げてザワークラウトを一口。


「酸いな。だが……」


 肉をいただく。うん、行儀が悪いがザワークラウトの酸っぱさと油を伴った肉肉しさが口内でマリアージュ。最高だねぇ!


「飯は今炊いてます!」

「よし! 自来也も食え!」

「はい! いただきます!」


 勢いよくアヒル肉に噛みついた自来也もまた、天に向って吠えた。



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