第5話
お腹もいっぱい、気も使わないたわいもない話で心も満たされて二人はうどん屋を後にして別れた。これから留美は自宅からリモートプライベートレッスンらしい。
スタジオで働く時もあればリモートでも働く。加奈子は自分にもも少しスキルがあれば、体力があればと思った。
加奈子は運動音痴でコミュ障なことを知ってる留美はあえて自分の会社は勧めてこないし加奈子もするつもりはない。
街から離れて地元に戻ると本当に田舎だ、と思いながらも知り合いが多い地元のスーパーで働く気にもならないし時給も低い。
さっきのうどん屋でも自分くらいの世代の女性が働いていた。違う店舗では加奈子のママ友が働いており、長期休暇は休み取れる、子供が学校行っている間のみと好都合だと言っていたが知り合いのいるところには入りたくない、それに大手のチェーン店でもある。
「選んでる場合じゃないよな」
と加奈子はため息をつく。
「乾さーん!!!」
聞き覚えのある声に加奈子は振り向くとそこには工藤さんがいた。
「工藤さん、こんにちは」
「こんにちはー。昨日はどうも……おでかけ?」
たしかに昨日の服とは違ってワンピースにメイクもしている。そのためそう言われたのかと。
「友達と……ランチ」
と加奈子が小声で言ってしまうのも、過去に子供が生まれる前にランチに行くと言ったら謙太から夫が仕事で汗水流してる時に優雅に夫の金でランチか! と言われたり近所の人からも似たような言葉で揶揄されたことがあったからでもある。
「いいわねー! 子供いないうちに楽しまないと!」
と工藤さんは予想外の返答に加奈子は驚いた。かと言ってもあの時も他の友人からは別にランチくらいいいじゃん、て言う人もいたのだが夫が揶揄するから断った際にはそんなこと言ったら友達無くすよと言われたことも思い出した。
だがなぜ今ここに工藤さんが? と加奈子。普段は会うこともないのだが二日連続である。
「そーそー、ちょうどよかった。あなた今仕事してないわよね?」
「は、はい……」
図星な質問にすこし加奈子は身構えた。
「あ、今日は私は休みよ。普段介護職なんだけど……今ねー、友達が職員さん募集してるのよ」
「え、介護の?」
「ちがうー、介護は体力いるわよ? どう見てもなさそうだからっ! でも似たようなもんかしら」
少し失礼だなと思いつつも介護職でない似たような仕事とは? と加奈子は前のめりになる。
「地域のふれあいセンターの事務員さん募集してて、あなたみたいに人の世話焼き好きそうな子……いいと思うの!」
「世話、やき……」
「ほら! 昨日の阿澄さんとかさぁー。あと事務経験無くてもパソコン触れるなら大丈夫。他に先輩もいるしね。それに時間も10-16時だし土日祝休み! 週に一、二回出勤だから月に8日ってところかしら。時給も県の最低賃金よりプラス20円増し! シフト制だけど所長に聞いたらお子さんやご家庭優先で、早抜けもOK! って」
加奈子はそれを聞いてビビビッと来た。
土日祝休み、16時までだが早抜けもできる、そして家庭優先である。
返事をしようとしたら加奈子は思いとどまる。
こんな都合の良いものには何か裏がある、と。新卒で入った会社を辞めた後にハローワークで検索して出た受付は正社員採用と書きながらも辞めるまでパート扱いで低収入であったり、他にも理不尽な思いをしたり……。
「とりあえず今度お話だけでも聞きに来たら? 知ってるわよね、ふれあいセンター」
「はい……以前バザーとか子供の行事で行きました」
子供二人の通う幼稚園と小学校のちょうど間にある場所でこぢんまりとした施設であり、町内の老人たちの憩いの場であった。
「絶対いいと思うの! 考えてちょうだい! あ、一応履歴書……持ってきて」
と工藤さんに手をぎゅっと握られた加奈子であった。
「へーいいじゃん」
夜、相談するやいなやあっさりとそう言う謙太。
「月に数日だろ? 家事にも支障なさそうだし」
そこかい、と言いたくなる加奈子だが早く謙太からのOKがもらえてびっくりしている。
「多分ちゃんときっちり働いても扶養の……」
「あー、そんなの数えなくてもわかる。扶養の範囲余裕だろ」
ああ、またか。と加奈子は右から左に受け流し、即座に用意した履歴書を広げた。
実に10何年ぶりに先日から書いていた履歴書の残り。
大学の就職活動では何百枚も書き、次の転職2回ほども書いた。どの仕事も職種が違うし期間も短い。相変わらず書くのは大変だが……と加奈子は手をとめ、ため息をつく。ここ数日ら履歴書書いてる時は常にここで
「十年間の経歴が無い」
と手が止まってしまうのだ。
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