第6話 戦火の王国②
要塞砲の一撃により敵軍に一部ほころびが生じた。
だが、それは全体から見ればごく僅かであり、後方にはまだ本体が控えている。
フレイヤの役目は敵の注意を引きつけ要塞砲を守ることにある。
要塞砲の発射には多大な電力が必要になり、充電に時間が掛かる。
敵軍もユヴァンス基地に攻め入るためにも前線にある要塞砲を潰しておきたい。
ラノベ大山脈に堅固な城塞とともに設置された要塞砲が、この戦の勝敗を分けるポイントになるのは間違いがなかった。
「ロミナ次くるよ。十時の方向、ドラゴンフライ型空中戦車 20機」
「オッケー! どんどんいくよ」
殺到する敵軍の数は多い。数で劣る友軍機が囲まれないようにフレイヤは高機動を活かして単機で戦場を駆け巡っていた。
フレイヤの持つガトリング砲が火を噴く。
通常兵器では空中戦車の厚い装甲に阻まれ、致命傷にはなりにくい。
しかし、牽制や体勢を崩すことができればそれでよく、その隙に接近戦に持ち込み高エネルギーを収束させた爪の餌食としていた。
一機、また一機と流れるように空中戦車を沈めていく。
「ロミナ気をつけて、敵空母からファランクス型装甲騎士が出たわ」
「空母の位置は? まだ射程外なの?」
「ええ、要塞砲やフォトンライフルを警戒して距離を取ったままね。近づこうにも敵機が邪魔してるわ」
「ああもうイライラする! とりあえずこの邪魔な戦車をどうにかしないと」
モンタギュー帝国軍は定石どおりに装甲騎士ファランクスにて壁方陣形を組ませて前進してきた。鋼鉄の巨体がそびえる壁と化し、大空を染めてゆく。
「要塞砲次射来るわよ。射線に入らないでね」
轟音とともに稲妻が数多の装甲騎士を巻き込んで天を駆け巡る。
「ローラこっちも撃つよ」
「ええ、狙いはこっちよ」
ロザラインが示したのは装甲騎士が固まっている地点だった。そこにフォトンライフルの一撃が襲い掛かる。
二乗の空を駆けた稲妻は多数の装甲騎士を破砕したが、それでも全てとはいかなかった。大多数を相手にしては要塞砲もまだまだ難点があり、再充電まで時間を稼ぐ必要がある。
重装の機体にさらに大盾を持った動く城壁とでも形容すべき装備の装甲騎士が友軍機の砲撃を受け止めつつ前進を続ける。
「正面からじゃ有効打は難しそうね。第三第四中隊は右翼から、第五第六中隊は左翼から回り込んで、残りは防衛線の維持よ」
重装甲の装甲騎士相手に友軍の戦闘機部隊は苦戦を強いられた。
数と頑丈さで勝る帝国軍機と少数ながらスピードで翻弄する王国軍。戦場は混戦へともつれ込んでいった。
フレイヤとファランクスが格闘を繰り広げ、要塞砲が敵軍を焼いていく。その隙を伺うように空を友軍機が飛びまわり、迎撃の砲弾やミサイルが空を駆け巡る。
戦闘の開始から数時間もたち、西に傾いた日の光が戦場の空と山肌を赤く染めていくなか、鋼と鋼がぶつかる音、機体の爆発音、様々な音が大空に鳴り響く戦場でロミナイールは、自身にこの戦いを勝利に導くだけの能力がないことを悔やんでいた。
「ローラ……多くの犠牲を出さずには、いられないのですね」
「耐えて、ロミナ。彼らはこの国を、貴女を守ろうとして戦っている。私たちは、いざとなれば彼らを見捨てでも生き延びねばならないの。精霊王機を帝国軍に渡しては駄目なの。彼らもそれはわかっているからこそ戦っている。私たちは彼らの頑張り、犠牲となった者たちを見届けるためにこそ、ここにいるのでしょう?」
要塞砲は既に沈黙し、味方部隊も大多数を失い後退を余儀なくされていた。
敵軍は増援部隊も到着し、多方面からユヴァンス基地へと攻め入り基地の陥落も時間の問題となっていた。
そして敵の本陣にはワイバーン級空中戦艦を上回る巨大な戦艦が姿を現していた。
艦首にはモンタギュー帝国の帝国旗の紋章がある。
帝国軍の旗艦ブロセリアンドである。
その旗艦から発進する機動兵器は最精鋭たる親衛隊の装甲騎兵と赤い派手な機体。
それらは戦場の喧騒をくぐるようにフレイヤ目掛けて進んでいく。
「マスター相手に精霊機がいるにゃん」
「え?」
索敵モニターに映し出されるのは陽光を反射する鮮烈な朱の鎧騎士。
機体の識別コードは敵軍のものだがロザラインも初めて見る機体だった。
「あれは帝国軍の精霊機?」
「そうにゃん。炎の精霊機サラマンダーにゃんよ」
「だってよローラ。どうやら帝国軍も痺れを切らして奥の手を出してきたわね」
「貴重な精霊機を出してきたってことは、その乗り手もそれ相応よね。こっちはもう弾薬ないわよ」
「精霊機相手に通常弾は効かないわよ。ライフルとソードを使って!」
「ライフルもエネルギー少ないよ」
「威力押さえれば数発は撃てるでしょ。無駄撃ちしないでよ」
「そんな無茶な。相手も精霊機なんでしょ」
「がんばれ! ロミナはできる子よ」
「う~ 他人事だと思って……」
周囲にいたはずの友軍機は必死に抵抗を試みるも、次々と押し寄せる敵軍の波に飲み込まれ撤退も容易なことではない。
押し寄せる帝国軍機。一機で奮闘するフレイヤの前に朱の鎧騎士が舞い降りた。
真紅の鎧に金の縁取りと帝国軍の紋章が煌く、明らかに量産機とは一線を画す優美な姿を持った機体。どことなくフレイヤとも似ている機体。
モンタギュー帝国に伝わっている精霊機、炎のサラマンダーである。
「よう。随分暴れてるじゃねえか」
突然サラマンダーから声が発せられた。
「それが精霊王機だということはわかっている。おとなしく投降しろ。さすれば命は助けてやるぞ、美しい美姫さんよお!」
「お断りよ。私のことを知っているあなたこそ何者よ」
「おっと失礼。俺様はベンヴォーリオ、モンタギュー帝国の第二皇子と言えばわかるかな、お嬢さんよぉ」
「第二皇子ベンヴォーリオ……」
その名は聞いたことがある。粗暴で争いごとを好む厄介な性格でロミナイールの最も嫌いなタイプの人間だった。
「その美しい機体を壊したくねえ。戦況も大体決着がついたはずだ。お前らにもう勝ち目はない、それはお前にもわかっているはずだ。だから投降しろ!」
「断ると言ったはずだ」
「いかな精霊王機といえど、これまでの戦闘で消耗しているはずだ。機体の性能に助けられたとはいえ良く戦ったものだ。褒めてやろう。だが、所詮は素人のお姫さんだ。真の戦いを知らねえ小娘なんぞ、俺様の敵ではない!」
「その素人に自慢の装甲騎士団やられてんですけど、くすくす、帝国の殿方も案外だらしがないことで」
互いに虚勢を張り合うふたり。そうしている間にも周囲は帝国軍機によって囲まれているが、この場には誰も手を出そうとする馬鹿はいないようだった。
「なかなか気の強い女だな。気に入ったぞ、娘よ。その機体共々俺のモノにしてくれよう。せいぜい可愛がってやるぜ!」
サラマンダーが大剣を構えた。フレイヤも呼応するように長剣を構え相対する。
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