第17話 明るいふたり
「これからどこ行きましょうか」
「
「そうですねぇ」
紗奈が振り返り、大きな窓から外を見ると、外を歩く人々は傘を閉じ、空には晴れ間が見えて来ていた。
「雨も上がったみたいですし、
「ええな! 行こか」
ふたりは使い終わった食器をひとつのトレイにまとめて席を立つ。返却口にそれを返し、カフェを出た。
落ち着いて思い出してみると、雪哉さんは大学入学からひとり暮らしで、学業と並行しながら家事を賄っていたのだ。最近ではそれをすごいことだと思っていた。ただ雪哉さんのせりふが
「雪哉さん、晩ごはん一緒でええんですよね?」
「もちろん。
「私、串かつ食べたいです! あ、ごめんなさい、家に連絡しますね」
紗奈は雪哉さんから距離を取りながらスマートフォンを出す。家の電話の番号を呼び出して発信ボタンを押すと、間も無く応答があった。
「はい、
「お母さん? 私、紗奈。あのね、今日晩ごはんいらんから」
そう明るい声を上げると、「はーい」と弾んだ万里子の声が返って来た。
翌週の水曜日、仕事を終えた紗奈が家に帰ると、食卓に着いて晩ごはんを食べていたのは
「ただいま。お姉ちゃんは今日もデート?」
「おかえり。そうやて。紗奈ちゃんはご飯食べるやろ?」
「もちろん。荷物置いて着替えて来るわ」
紗奈は自室に入り、バッグを机の脇に置く。そして手早く部屋着の赤いTシャツとチャコールグレイのハーフパンツに着替えた。
脱いだ服を脱衣所の洗濯かごに入れてダイニングに戻ると、万里子がキッチンに立ち、フライパンでメインのおかずを温め直してくれていた。
「ありがとう。ご飯よそうな」
「ん」
紗奈は食器棚から自分のお茶碗を出し、炊飯器からご飯をよそう。万里子はいつも食べる分だけを炊くので、紗奈の分で内釜は空になった。保温ボタンを切り、内釜は粗熱が取れるまで少し置いておく。
「紗奈ちゃん、冷蔵庫に小鉢ラップして入れてあるから、出したって」
「はーい」
前まではこういうことも全て万里子がやってくれていたのだが、紗奈が家のことを手伝う様になってから、万里子も遠慮無くこうしたことを頼んで来る様になった。紗奈としては自分が食べるものなのだから、手伝いにもならないと思っている。
今日のメインは鮭の
ようやくひとりでお料理ができる様になった紗奈だが、こうして1度に何品ものおかずを揃えるのは、まだまだ難しいだろうなと思っている。週末家にいる時には晩ごはんの支度を手伝うこともあるが、手際の良い万里子に付いて行くだけでやっとだった。
「その内できる様になるって」
万里子は笑いながらそう言ってくれるが、その域に達するまではまだまだ修行が必要だなと紗奈は思っていた。
「いただきまーす」
紗奈がテーブルに着いて手を合わせてお
隆史は相変わらずだった。使った食器をシンクに持って行くこともせず、お茶が飲みたければ万里子に淹れてもらって、やはりお礼などは無い。だが万里子がそれを良しとしているのならそれで良いのだろう。
お礼を言ってくれたら嬉しいと
それから少しして万里子も食べ終わったが、そのまま紗奈に付き合ってくれている。ぽつぽつと仕事での話などをしながら、紗奈は食事を進めて行った。
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