第4話 心地よさとキレイ好き

「あんた、さっきの魔法はなんなんだい?」


 女の子がもふもふしているメェのところに老婆がやってきて、気持ちよさそうにしているメェに質問をしました。


「ぁ、おばぁちゃん」


 女の子はメェから離れて、老婆のもとへとかけ寄りました。


「なんだい、ミミ、あんた髪がキレイじゃないか。

 それにとてもいい香りがするねぇ」


「あのしろヒツジさんにしてもらったのよ」


 ミミは、嬉しそうに老婆に伝えました。

 彼女は村長さんの奥さんです。


「白ヒツジやめろ。メェは、メェだ。

 メェと呼んでください」


 メェは可愛らしく、ふたりにおじぎをしました。

 ふたりもおもわず笑顔で、メェにおじぎをしました。


「メェ、お風呂の魔法使える。

 その子、ミミだな?

 ミミは、メェと同じでちょっと汚かった。

 だから、魔法でキレイにした。そんだけだ」


「お風呂って、なんだい?」


 村長さんの奥さんは首をかしげました。

 メェは小さな瞳を少し大きくしました。

 お風呂を知らないことに、驚いたのです。


「お風呂、体を清潔にする場所。

 メェ、大好きな場所。

 でもお風呂入れないから、魔法でお風呂のように体綺麗にする。

 ついでに、服とか、汚れたものを全部キレイにする。

 メェはキレイ好き。ばっちぃの嫌い。

 この村の人、お風呂入らないのか?」


「お風呂がわからないが、体を洗うということかい?

 なら、川や井戸水でたまに流すよ。

 それのことかい?」


 メェはまたもつぶらな水色のアーモンドの瞳を少しだけ大きくしました。

 かなり、驚いているようです。


「お前たち、お風呂を知らないとか、ありえない。

 あの空いた大きな酒樽もってこい。

 メェが簡単なお風呂を教えてやるっ」


「酒樽…かい?」


 村長さんの奥さんは疑問な表情のまま、上機嫌の村の若衆たちに、空の酒樽を持ってきてもらいました。

 ウサはひたすらオーク料理を食べています。


「よし、メェがお風呂を作る。

 シルバートォク、魔法たくさん使うから、大口あけていろ」


 メェは持っている杖に命令すると、シルバートォクは嫌そうな感じでしぶしぶ、口を大きくひらきました。強制的にあけられるよりは、マシだと思ったのです。


「まず、この樽は酒臭い。だから、匂い消す」


 メェはシルバートォクをふって、呪文をとなえました。

 すると、光りが樽を包み込んで、やがて消えると、すっかりお酒の匂いがなくなりました。


「この村に、水と火を使う魔法使いはいるか? ウサは今、食事中。使えない」


 メェは村長の奥さんに尋ねました。


「水を扱う者はいないが…火ならワシが少し出せるよ」


 村長さんの奥さんは、手のひらの上に小さな火の玉をだして、メェに見せました。

 メェは”こくん”と、うなずきました。


「じゃ、井戸でもいい、川でもいい。水をこの中に入れろ。

 なるべくたっぷりが気持ちイイ」


 メェの指示に、村長さんの奥さんは、さきほどの若衆たちに水を汲んでいれてほしいと、お願いしました。

 お酒で上機嫌になっている若者たちは、おもしろがってバケツリレーで樽に水をたぷたぷと入れました。

 それは水が樽からあふれるほどです。


「もういい。酔っぱらい、限度知らない。

 やりすぎだ」


 メェはシルバートォクをふって、バケツリレーを止めると、村長さんの奥さんに樽の中の水をお湯にできるか尋ねました。


「それは簡単なこと。こうやって手を樽にあて、呪文を唱えるだけでいいのさ」


「なら、手を入れても真っ赤っかにならないくらいの熱さ、お願いします」


 メェはぺこりとおじぎをしました。

 髪の青いリボンがゆれて、可愛いです。


 村長さんの奥さんは、「ほいよ」と、樽に両手のひらをあてると、「ほんじゃらほいのさ」と呪文を唱えました。


 水がたっぷりと入った樽からは、湯気が立っています。

 

 メェはシルバートォクを下に置くと、手を突っ込みました。


「うん、メェの手、気持ちがイイ。

 これくらいの熱さで問題ない。

 この中に裸で入るのが、お風呂だ。

 入りながら石鹸で体や髪を洗うと、なお気持ちいいぞ」


 メェが村長さんの奥さんに、手を入れるよううながしました。


「おぉ、ほんとだ、気持ちがイイ。

 これは知らなんだ。すっぱだかで入るのは、さぞかし気持ち良かろう」


「なら、オイラが入ってやるぜ」


 酔っぱらいの若者がひとり、恥ずかしげもなく真っ裸になると、仲間の手を借りて、樽の中へと”どぶん”つかりました。


「うわああああああ、なんだこれはっ! めちゃくちゃ気持ちがいいぞっ。

 あまりの心地よさにとろけそうだ」


 まわりの村人たちも集まってきて、樽風呂で気持ち良く歌いだした若者を眺めています。

 そして、つぎつぎと手を入れては、その気持ち良さを体感しました。


「体を洗うのに、こんな方法があったなんて知らなんだ」

「いや、都会の貴族様は湯につかると聞いたことがあるぞ」

「じゃこれか?」

「あぁ俺も入りてぇよー」

「うちでもしてみましょうよ、あなた。だって、火魔法使えるでしょう?」


 大反響です。

 メェは、石鹸をもってこいと、ミミにいいました。

 ミミは、うん、とうなずいて家に取り走りました。


「メェどの、石鹸は服を洗うもの…。人の体は使ったことはないのじゃが」


 村長さんの奥さんは、眉をひそめました。


「体を洗う石鹸がこの村にはないのか? メェ、驚くことばかりで、すっかり目が覚めてしまった」


 メェは信じられないと首をふりました。

 やがて、ミミが石鹸をもってかえってきました。

 そしてメェにそれを渡しました。


「ん? これが服を洗う石鹸か?」


 メェは村長さんの奥さんに尋ねました。


「あぁそうだよ。手作りさ。村のもんはみな自分で作るのさ」


「…これでは、服の汚れは落ちない。弱すぎる。

 でも、体洗うには十分だ。あとは香りをたせばいいだけ。

 ハーブを刻んでまぜろ。イイ香りする」


 メェは石鹸を樽風呂を楽しむ若者に渡して、体を洗うといいと伝えました。

 もちろん若者は浮かれ気分で、石鹸を使いました。

 みるみる汚れがとれてゆきます。


「ほら、みろ。あんなに体も髪も汚れおちる。

 お風呂は偉大だ。メェは、お風呂が大好きだ」


 村長さんは、樽風呂の横で喜んでいます。

 次に入りたいようです。でも若者たちがすでに服を脱ぐ準備をして順番待ちをしていました。

 みんなお風呂が気に入ったようです。


 村長さんの奥さんは、メェに尋ねました。


「なら…服を洗う石鹸はどうしたらよいかのぉ?」


 メェはシルバートォクを拾い上げながら、答えました。


「キヤキヤの実をすりつぶしていれろ。それから、ボッボの汁入れるといい。

 服の汚れをよく落とす」


「ほほぉ。キヤキヤの実にそんな効果があったとはな。

 知らなんだ。あとはボッボの汁な、あいわかったわい」


 村長さんの奥さんは、可愛いメェの知恵に感心しぱなしでした。


「お前さん、どこでその知識を得なさった?」


 村長さんの奥さんは、メェにききました。


「メェ、実家、本屋。子供の頃から本読むか食べるかしてた。

 ちなみにメェ父が本屋で、メェ母は回復魔法使う村医者だ」


 メェはちょこっとかしげて、可愛いしぐさをしました。

 村人たちは、すっかりメェにめろめろです。


 ウサは…いまだに食べています。

 まだまだおなかに入るようです。

 ウサは食べることが大好きですが、なにぶん、口が小さいので、よく噛むものには時間がかかるのです。


 空はすっかり暗くなり、星が瞬いています。


 広場の中央では組み積まれた薪が、いまだ勢いよく燃えていて、火の粉を空へと飛ばしていました。


 村人たちは、さらにどんちゃん騒ぎをして、歌い踊り、お風呂を楽しんでいます。

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