はぷにんぐあにまるず♫
マァーヤ
第1話 食事は自分で狩るべし
ここは魔族領を抜けた先、人間領の北の端の辺境の森の中です。
そこをふたりの亜人がのんびりと歩いていました。
ひとりは長い黒髪に青いメッシュがはいった黒うさぎです。
頭には小さなとんがり帽子をちょこんとかぶり、ゴーグルをつけています。
そして、黒いぼろぼろの小さなマントを羽織り、金色の鍵のついた首飾りを身につけています。
それから白い手袋をはめ、手には刃が閉じられて下を向いている大鎌の杖を持ち、服装は軽装の冒険者のそれで、腰ベルトには短剣と鞭が下がっていました。
そんな彼女の青い瞳はジト目です。
その黒うさぎの横を歩くのは、金髪ゆるふわカーリーヘアの白ヒツジです。
彼女の頭には小さな灰色のシルクハットがちょこっと乗っています。
ヒツジ特有の2本の巻角の近くの髪には、水色のリボンが可愛く結ばれていました。
服装は、白いレースのケープに、白いふわふわのワンピース、そして僧侶が身につけるような水色のストールをワンピースの上からかけています。
あと、真珠のついた十字架の首飾りも身につけています。
腰ベルトには、青い本と、お菓子の入った白い袋をさげており、黒い手袋をはめた手には、へんてこりんな
彼女の頬は淡いピンクで、水色のつぶらな瞳はアーモンド型です。
「ウサ、そろそろおなか
「そういわれると、ウサは腹が減る。
メェ、どうしたらいい?」
ウサと呼ばれた黒うさぎの名前はウサ・クロイ。
食べることが大好きで、まずいものしかない村をとびだして、冒険者になりました。そんな彼女は魔法使いです。家にあった大鎌と、なんでも開ける金の鍵を無断で持ち出してきました。年齢は10才です。
その彼女についてきたのが、幼馴染みの白ヒツジのメェ・ホワイティです。
今は、9才です。
メェは退屈な村から出たかったので、ウサに着いてきました。
ウサと違うことは、ちゃんと家族に伝えて旅にでたことです。
メェの両親は彼女の偏食が気になっていました。
なんでもよく食べるウサに着いてゆけば、娘の偏食が治るかもしれないと、快く送り出してくれました。
しかし、メェのおばぁさんは、とても心配症で、本当はメェを送り出したくありませんでした。ですが、大好きな孫娘が行きたいといったので、めぇ~めぇ~泣きながら、涙をハンカチで拭いつつ、ふたりを見送りました。
その時、ウサには霧に迷わないよう魔法のゴーグルを、メェには回復魔力が強まるロザリオと、メェの大好物のお菓子がたくさん入った袋をプレゼントしたのです。
結局、朝一番で村を発つふたりを見送ったのは、メェのおばぁさんだけでした。
――気づけば、あれから1週間が経っています。
「ねぇ、シルバートォク。近くに村か町はあるか?」
メェは、手に持っている、へんてこりんなメイスに向かって尋ねました。
「ワレハ地図デモ、ナビデモナイ。コノ世ニフタツトナイ知性アル
小娘ノ分際デ図々シイ。ダイタイ、ワレヲ改造シテ棘ナンゾ付ケカラニ…
ワレハメイスデハナイノダゾッ。由緒正シキ
「ぁ、スライムだ。えいっ」
メェはしゃべっているシルバートォクを振り回して、スライムを1匹ぶったたきました。攻撃されたスライムはぺちゃりとつぶれてはじけ、小さなキラキラ光る七色の水晶をひとつ残して消えました。
「メィ、1G、稼いだ。まだスライムの気配感じる。ウサ、たくさん倒してギルドに持ってゆこう。
――で、シルバートォク、近くに村か町はあるか?
お前、譲り受けたとき、賢いとメェ母言っていた。なら、村や町の存在くらいわかるだろう?」
「ワッ、ワレヲ振リ回スナッ小娘ッ、ダイタイ口ノ利キ方ガ――」
かなりご立腹ぎみなシルバートォクに、ウサが近づいてきて、
「メェ、これうるさいから壊していいか?」
と尋ねました。
何回かウサに壊されそうになった経験があるのか、シルバートォクは、物言わず、がくがくと口を動かしています。
メェは首を横にふりました。
「ダメ。シルバートォク、メェがメェ母からもらった大事なもの」
メェはシルバートォクの頭をなでながら、いいました。
「こいつ、口は悪いが、よく働く。とても可愛いやつだ」
ウサは「そうか残念だ」と言いました。
「ナント、ヒツジノ小娘、オヌシ…ワレヲソノヨウニ想ッテクレテ…」
なにか言おうとしたシルバートォクを無視して、メェはまたスライムをぶったたきました。
シルバートォクは”ヒィィ”と、唸り声のような叫びをあげています。
スライムが消滅して、チリン、とまた七色水晶が地面に転がって、それをメェは拾いました。
「メェ、これで2G。ウサ、おまえも稼げ。ウサがたくさん食べるんだからな」
メェは小さな七色水晶をワンピースのポケットにしまいながらいいました。
「わかってる。ウサはおなかぺこぺこだ。たくさん狩る。だが、近くに村か町があるのかわからないと、やる気がでない」
「シルバートォク、ウサに壊される前に答えろ。近くにあるか? ないか?」
メェがまた尋ねました。シルバートォクは観念したらしく、
「村ガアル。地面カラ人里ノ気配ヲ感ジル。ダガ、ギルドハ無サソウダ…換金水晶ノ波動ガナイ」
と、ふたりに教えてくれました。
ウサは首を横にふってため息をつきました。
長い耳がちょこりと揺れて可愛いです。
「ギルドない。たくさん七色水晶集めても換金できない。意味がない。
メェ、作戦変更。ウサ、オーク狩る。あいつの肉食べる」
ウサは握っていた大鎌杖の刃を柄から引き出しました。すると三日月形のするどい刃があらわれました。黒光りするその刃先は、とても切れ味が良さそうです。
「わかった、ウサ。でもこの辺にオークの気配ない」
メェがそういうと、ウサは「問題ない」と言いました。
「ちょと魔族領まで戻って狩ってくる。あそこらへん、ごろごろいた。
でも、メェの食事が心配。メェは肉食べない。お菓子ばかり。
袋のお菓子も、そろそろ食べ終わる頃、それがウサ心配だ」
「大丈夫、ウサ。メェは食べてもページが減らない本がある。
正直、味がないから不味いが、おなかは満たせる。
紙食べて待っているから、とっとといってくるといい」
メェがベルトにかけてある青い本を叩きながら、ウサにいいました。
ウサはうなずいて、”ととととととと”と、ものすごい速さで来た道を走りもどってゆきました。
「ウサの大鎌、すごい不思議。魔物狩っても七色水晶にならないし、しかばね消えない。
メェのシルバートォク、魔物狩ったらみな消える。残るの七色水晶だけ…あの大鎌杖は、すごい不思議。しくみどうなってるの?」
メェは可愛い顔で首をかしげて、手に持つシルバートォクに尋ねました。
「ウサギ娘ノ大鎌ハ魂ヲ先ニ断チ切ル。魂ガ抜ケレバ七色水晶化シナイシ、肉体モ消エナイ。ソモソモ魔物ハ精霊ト動物ガ交ワリ生マレタ存在。魂ニ精霊ヲ宿シテル。
魂ガ離レレバ精霊モ離レルガ、魂ガ留マッタママ息絶エルト、精霊ガ結晶化シテ、肉体ヲ消滅サセテシマウノダ。デモ魂ヲ断チ切ル武器ナドソウハナイ。ウサギ娘ガ…」
長々と話すシルバートォクの語りなど聞かずに、メェはキョロキョロとしています。
休憩場所を探しているのです。
「ワレガ話ス意味トハナンゾ…?」
シルバートォクは、そのまま黙ってしまいました。
※ ※ ※ ※
空は青く、太陽はてっぺんまで登ってきました。
メェは森の木にシルバートォクを立てかけから、その根に腰をおろしました。
ちょこんと座る姿がとても愛らしいです。
「メェ、食事にする。おなかぺこぺこしてきた」
メェはベルトにかけた青い本を取ると、それを開いてページを1枚破きました。
そして”もぐもぐ”と、食べだしました。
「…小娘、オヌシハヒツジジャロ…ソレデハヤギデハナイカ…」
シルバートォクが呆れています。メェは口を”むぐむぐ”し、紙を””ごくん”と呑みこむと、シルバートォクに答えました。
「問題ない。メェのおじぃさんは白ヤギだ」
そしてまたメェは本のページを1枚破いて食べだしました。
破けたページはすぐに新しい紙があらわれて、減ることがありません。
シルバートォクはため息をつきました。彼は長い間、メェの家に飾られて置かれていたのです。メェの血族が何代も入れ替わっても、そこにいたのです。
彼はつぶやきました。
「…オマエノジィサンハヤギデハナイ…タダヤセテイルヒゲノノビタ白ヒツジダ」
メェは真顔で”もぐもぐ”と、ひたすら紙を食べています。
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