第89話 七人の侍女隊と鬼コーチ?

「侍女隊集合」


 椎名美鈴はオレンジ色で侍女隊とは色違いのユニフォームを着けて号令をかけた。

 今日は、美鈴が侍女隊に神魔動飛空二輪を教える予定だ。現時点で、神魔動飛空二輪を乗りこなせる人間は、美鈴ただ一人だからな。


「ビシッ」


「オッケー。今日から神魔動飛空二輪の教習を始めるよ。機体はこれ」


 美鈴は飛空艇テストコースに運び込まれた神魔動飛空二輪を指差した。

 ここは、飛空試験場つまり飛空艇のために造られた試験場である。飛行船以外なら、ここで試験ができるようになっている。

 今後は飛空艇パイロット養成施設としても使われる予定だ。


 今日の侍女隊はちょっと違う。

 それは、魔法ドリンクが解禁になったからだ。今日から侍女隊に限り無制限で魔法ドリンクが支給されることになったのだ。

 もちろん魔王化リングも付けている。つまり使徒レベルの力を使えるわけだ。侍女隊は常にこの状態で公務に臨むことになる。

 もちろん魔力だけで飛ぶことも可能だ。だからこそ、この新型機を与えられたのだ。


「おおおっ。これが新しい私の愛馬か」とミゼール。まだ馬なんだ。

「キャ~っ、赤いイナ〇マ 二号ね」とシュリ。二号なんだ。

「わ、わたくし乗れるでしょうか? 心配ですわ」ミリスは不安そう。


 まぁ、ペダルはないし全く別物だからな。


「ふふ。直ぐに乗りこなしてやる!」パメラは余裕らしい。

「クレオも乗るの!」

「マナに不可能はありませんですの!」

「スノウは手放し運転してみせます」いや、それは止めてくれ。


 流線形ですっきりしたデザインの真っ赤な機体は、高速走行を前提とした風防が付いている。

 エンジンを起動すると軽い起動音がして計器のランプが点灯するのだが、エンジン音自体はしない。もともと神魔動エンジンなので動き出さないとエンジン音はしないのだ。起動音も、ワザと鳴らしている。


「まずは地上走行に慣れてもらいます。講習で言ったけど地上走行は速度制限が付いているので注意して。じゃ、このコースを十週!」


 美鈴が指示を出す。


「「「「「「はい」」」」」」


 侍女隊の反応もいい。


 ハンドルのアクセルを回すと、シューっというようなエンジン音と共に急加速される。

 地上走行は神魔動モーターなので回転数が上がるにしたがって高い音がする。


  *  *  *


 テストコースをひゅんひゅんと侍女隊が走り抜けていく。問題なさそうだ。


「地上走行は問題なさそうね。ブレーキの効き具合は毎回確認しておくこと」


 十週して集まった侍女隊に美鈴が注意する。


「「「「「「「了解!」」」」」」」


「オーケー、次はいよいよ飛翔訓練よ」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


「加速キャンセラーの効きを確認してね。低速だと魔法で飛んだ時と殆ど同じになる筈。地上コースから上昇したらネットのある空中コースで十週して来て! じゃ、出発!」


 侍女隊の場合、ネットのあるコース上を飛ぶのは自分達のためではない。あくまでも、機体や部品を受け止めるためだ。

 何かあっても自分で飛べるからな。


「「「「「「「はい」」」」」」」


 さっと飛び乗って颯爽と発進する。順に走り出すのは、講習をちゃんと聞いていた証拠だ。


 外周エンジンの加速キャンセラーは神魔動二輪では限定的に使われている。

 パイロットに全く加速を感じないと逆に危険なのだ。体感的に違和感ないように加速を弱めている。要は人間が耐えられる程度に制限されているという訳だ。


 いきなり飛翔に移ってもいいんだろうが、今回は走行しながら飛翔するようだ。

 シューという神魔動モーターのエンジン音にフゥーというようなエンジン音が加わる。外周エンジンは進行方向の空気を切り開いて進むので、あまり音はしない。しかし、上昇して神魔動モーター音が消えると空気の摩擦音のようなものが多少聞こえた。


  *  *  *


「調子よさそうですね」


 訓練の様子を見に来た魔道具技師のランティスが美鈴に声をかけた。


「ええ、若いから覚えが早いわね」美鈴は満足そうだ。

「やはり、二輪車のバランスを基本に設計したのは正解のようですね」これは弟スペルズだ。

「そうね。結構違うんだけど、考え方が同じになるのはやり易いと思う」

「確かに。飛空艇とはだいぶ飛び方が違いますからね」


 飛空艇はドローンを基本にしているので、挙動はかなり違う筈だ。


  *  *  *


 神魔動飛空二輪の訓練が始まって一週間がたった。

 侍女隊は自在に操れるようになったようだ。


「オーケー。じゃ、これから地獄谷まで行って軽ビーム砲の射撃訓練をします。地獄谷までは、全力で競争! いいわね!」


「「「「「「「わかりました」」」」」」」


「負けませんぞ!」とミゼール。

「望むところよ!」


 美鈴も自分の神魔動飛空二輪に飛び乗って急上昇した。

 いつの間にか、ミゼールは美鈴にライバル心を抱いているようだ。


 神魔動飛空二輪の最高速度は時速七百五十キロメートルだが、神魔力ターボを使うと軽く音速を越える。

 神魔動外周エンジンなので衝撃波の発生が無く加速が容易なのだ。ちなみに音速を越えるあたりだとヒューと言ような高い音が発生するようになる。この音は、なかなか消えないとランティスがこぼしていた。


「どぉ~?、これが超音速の世界だよ~っ」


 神魔力ターボで加速した美鈴が叫ぶ。付属の無線機で会話が出来るようになっている。


「隊長、はやーい」ミゼールが呼びかける。


「おっ、食いついて来てるわね~っ」


 さすがに美鈴はスーパー使徒なので本気でターボを使うと誰も追い付けない。一応手加減しているようだ。


「わたくしたちも、負けられませんわ」ミリスも頑張ってる。

「ほーら、ロールもできるぞ~っ」


 ちょっと違う方向で頑張ってる奴もいる。


「パメラさん、かっこい~の」


「いけませんパメラさん、危険ですの。クレオが真似しますの」


 マナがダメ出しをする。


「やっほ~っ。スノウもロールだ~」


「あんたたち! 超音速でロールは止めなさい!」


 さすがに見かねた美鈴が注意した。


「すみません」とパメル。

「ごめんなさい」とスノウ。

「やっほ~ですの」

「ほら、クレオが真似した。クレオ!」

「ごめんなさいなの」


 あっという間に地獄谷に到着した。

 谷はもうないが地獄谷という名前はそのままになっている。エナジービームや魔法訓練などに絶好の場所になった。最近は訓練用に標的まで設置してある。


「じゃ、岩場の的を狙ってビーム砲の練習。一番から順に撃ちなさい!」


「「「「「「「了解!」」」」」」」


 上空から地獄谷の岩場に置いた的に向かって、次々とビーム砲を当てていく。

 もちろん、当人たちが自分で直接撃ったほうが強力だし実際当てるのは上手い。ただ、弱いビーム砲にするのも逆に難しいので、これはこれで便利なのだ。要するに手加減砲だ。

 拘束フィールドも同じように撃てる。


「パメラ。照準器は、ちゃんと展開しなさい。勘はだめ!」


 美鈴は良く見て注意している。


「はーい」


「パメラさん、照準器無しで当てるから凄いですわ。わたくしなんて照準器を使ってるのに当たりませんのに」

「あはは。ミリス! 止まってる的で当たらなかったら何も当たらないぞ」

「そうですわね。頑張りますわ」


「クレオもいくの」

「まっ、クレオ。意外と上手ですの」ミリスはちょっと悔しそう。

「おりゃ~っ。乱れ撃ちだぁ」

「ちょっと、スノウ。真面目にやりなさい!」

「すんませ~ん」しかも、的に当たってないし。


 ちなみに、白地に赤ではなくオレンジ色を使った美鈴のユニフォームは教官色というわけではない。テストパイロット色だ。

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