第24話 女神像、完成する

 新しく婚約したミルルだが体調も戻り全て今まで通りに戻った。


 ニーナと同じようにミルルも館に越してくるか聞いてみたが、おばあちゃんにまだ早いと言われたそうだ。俺もそう思う。というか、神力の流れを見たいので時々は来て貰ってるが、さしあたってミルルが必要な用事もないし、これでいいだろう。

 いつ眷属になるのか分からないが特に何も試してはいない。


 最近の俺はというと、自動荷車と並行して製鉄も試している。

 理科年表やタブレットにある情報を元に適当に実験してただけだが、なんとか生産できるようになってきた。そうなると増産したくなるのだが、忙しくなるので助けがほしい。

 ニーナでもネムでもいいが、興味がありそうだったのでネムに任せることにした。


  *  *  *


 そうこうしているうちに季節は夏真っ盛りとなった。

 この辺りは夏と言ってもそれほど暑くない。日本の夏で言えば軽井沢あたりにいる感じだ。


 隣の教会では、このところ忙しなく人が出入りしている。

 俺たちが旧領主の館に越して来たのが春の半ば過ぎだったので、教会の改築も進み、あとは女神像を待つばかりとなった。


 以前は寂れるままだった教会だが、このごろは引っ切り無しに信者がやって来ているようだ。っていうか、地元の信者だけでなく遠く王都からも、場合によっては他国からも来ているようで、教会前の広場にはびっしり馬車が止まっている。馬車を止める場所でまごついてるのを見ると、もうライン引いとけよと思う。

 これでは、まるで巡礼だな。


 そんな感想を抱きつつ通り過ぎようとして、改築が終わった教会をふと見上げてみたら『聖アリス教会』って書いてあった。って、どゆこと? あれ? いかんいかん、今日は調子が悪いに違いない。改めて明日見てみよう。


 翌日、改めて見てみたがやっぱり『聖アリス教会』とある。

 わかった、これは何かの仕込みだ。いや陰謀だ。あるいはドッキリだ。などと考えていると横から声がした。


「ししょ~、聖アリス教会の改築終わりましたね!」

「うん」


  *  *  *


 それはともかく、石工オットーから女神像が完成したと連絡が入った。

 やっとか。これだけ待たせたんだ、期待していいよなオットー?


「なぁ、当日は俺たちも招待されてるし、なにか祝辞とか用意しないとだめかな? ちょっと期待とかされてるんじゃないか?」


 俺は執務室のソファでお茶を飲みながら言った。


「えっ? ん~、どうだろ。そういうのって、町長とか顔役の仕事なんじゃない?」


 隣で飲んでたニーナが言う。


「そりゃそーか。ただ、『聖アリス』って名前が気になってるんだが」


「そういえば、そうね。なんか、誰ともなしにそう言いだしたそうで、信者がみんなアリス様って言うからそうなったらしいわよ」

「知ってたのかよ。ってか、そんなことでいいのか?」


「だって、この教会が総本山だって言ってたし」

「なに? い、いつの間に」


「さぁ? 今度セシルさんに会ったとき聞いてみようか?」

「あ、いい。別に神様を間違えてるわけじゃないし。実際、間違ってないし。っていうか、本人だし。降臨しちゃったし、突っ込むの止めよう」


 そんなことを話していたら、執事のバトンが入ってきた。


「旦那様、セシル様がお見えです」


「入って貰ってくれ」


「噂をすればだな」

「噂をすれば?」


 ニーナは知らないよな。


「気にするな」


 そこに、セシルが入ってきた。


「突然、お邪魔して申し訳ございません」

「いや、かまわない。いよいよ女神像のお披露目ですね!」


 俺はソファを勧めつつ言った。


「はい、待ち人来たるといったところでしょうか、わくわくが止まりません」


 とシスターは、おみくじみたいなことを言った。巫女さん? ま、アリス大好きシスターだから、素直な気持ちなんだろう。


「それで、今日はどうしました?」


「はい。実はそのお披露目のことで、ご相談に上がりました」


 ちょっと躊躇いがあるのか、こちらの様子を見るように言葉を切った。


「完成した女神様の像は、お披露目の前日に教会に搬入される予定です。ですが、その方法について少々心配しております」

「ほう」


「大きくて重い石像を、この高台まで坂道を引いて来なければなりません。なんとか運ぶとしましても、そんな状態では女神様に何かないとも限りません」


「ああ、なるほど」

「それで、より確実な方法はないものかと苦慮しているわけです」


「そうですね、間違いがあっては困りますからね」

「はい、ニーナ様。その通りです。神父などは、心配ないと申しておりますが」


「あっ。ねぇ、ししょー! 自動荷車使えばいんじゃない?」


 ニーナは名案を思い付いたとばかりに言った。


「ああ、そうだな。性能が上がったし、ちょうどいいかもな。あれだったら息切れもしないし」

「まぁ、あの素晴らしい魔道具を! もし提供していただけるなら、これほど嬉しいことはありません」


 あれ? セシルさん期待してました?


「かまいませんよ、せっかく作ったものです。魔道具のお披露目としても申し分ありませんからね」


「良かった! 実は、それが願ってもないこととは思ったのですが、あまりにも図々しいかと。ありがとうございます」

「とんでもない、お互い様です」


  *  *  *


 当日、俺は自動荷車を石工オットーのところまで持って行った。


「リュウジさん、こいつが自動荷車ってやつですかい。へぇ~、大したもんだ」


 オットーは、興味深そうにのぞき込みながら言った。


「小さいが、これで馬十頭より力があるよ」


「ほ~、そりゃ凄い。うちにも一台欲しいもんだ」


 オットーは目を丸くして言った。


「そのうち、手に入るさ。沢山作る予定だ」

「ほんとですかい、そいつぁ楽しみだ」


 そこに、弟子がやって来た。


「親方、用意できやした」

「おうよ。じゃ、リュウジさんおねげぇしやす」


 見ると頑丈に作った台車に、ベールのかかった女神像を厳重にくくって乗せてあった。

 俺は自動荷車の牽引用フックにつないだ。


「じゃ、ゆっくり行くぞ」

「了解っす、後ろから全員でついていきやす」

「なんかあったら、下敷きになってでも守れ!」


 オットーが弟子に喝を入れる。


「もちろんでさ親方! ここまで苦労した石像でさぁ、絶対守って見せやす」


 なんか気合いが違うな。こりゃ下手なこと出来ない。


「行くぞ!」


 変速機は第一段のまま、俺はゆっくりアクセルを踏み込んだ。


 ぶろろろろろぉ


 マフラーなども改良したので、もう牛とは言わせない。


「すげーな、熊みてぇだ」


 く、熊にバージョンアップしたようです。進化したのか? してるよな? なんで熊? クマ? くま?


「わぁ~、なんか凄い」後ろの弟子たちから思わず声が上がる。


  *  *  *


 大通りを進んでいくと、周りに人が集まってきた。

 石像の周りはオットーの弟子たちがしっかりガードしてるので心配いらないが、その物々しさも手伝って何事かと人が集まってきたのだ。


「女神様だって~」

「ほぉ、ついに出来たのか」

「明日、お披露目だそーだ」

「おれ、明日休みにしよ~っ」

「おまえ、毎日休んでるだろ」

「自宅警備してるけど?」


 ぞろぞろと、みんな付いて来た。


 教会は今日ばかりは閉めているので巡礼者は居ないのだが、女神像到着とあって引きつれた群衆はいつもより多いくらいになってしまった。

 教会に引き込むまで広場に陣取って見守っている。しまいには出店まで出てきた。逞しいな。


  *  *  *


 翌日のお披露目は、さらに信者たちが集まってきて大騒ぎだった。

 とんでもない人混みになったが特段の混乱もなく済んだのは神父モートンの手腕だろう。もちろん、町長や顔役も協力したのだろうが。

 ふと見ると。なんかスタンプを押してる。


「それなに?」


 俺は近くの子供に聞いてみた。


「スタンプラリーだよ」

「女神様を順番に回ってスタンプ集めると、女神様の絵を貰えるんだ!」と嬉しそうに話してくれた。なるほど。


 どうも、女神様の版画を作ったらしい。モートン神父、流石です。


 ちなみに、石像は女神様にも好評だった。

 もう、ずっと前から見てたみたいだけど。手出しとかしてないよね? 彫刻の神様とか連れてきてないよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る