第14話 女神様の絵が届く
ー トゥット〇ルー。
明け方、女神さまからのモニーニングコールが掛かった。
最近、ニーナは魔力切れ対策で俺の部屋に来ていないので、朝起こしてくれるとしたら女神様からの連絡ってことになる……のだが。
ー ねぇ、女神様。
ー はいは~いっ。
ー 俺のタブレット見たよね?
ー なんの事かしら~っ?
ー いや、ぜって~見てるってっ。
ー なによ~、それが一人寝でさみしい使徒を労って、優しく起こしてあげた女神様へ言う言葉なの?
ー やかまし~わ!
ー ちなみに、女神様に対して個人情報保護法とか無効だからね?
あ、スマホも見たんですね。
ー ですよね~っ。
ー ねっ! あんたの世界って、面白いわね!
ー へっ?
どうも、タブレットの話らしい。
ー いま、神界でちょっと話題になってるのよ。
ー そ、そんな訳ないでしょ。
ー それがあるのよ。私たちが管理してる世界の情報って担当神が独占してるから、地上界の物はそれなりに珍しいのよ。
ー はぁ、そ~なんですか。
ー おかげで、私の絵がもう完成したわ! あの動く絵を見せたら、絵師神が喜んで描いてくれたのよ!
動く絵って、動画の事だよな。たぶん。沢山入れといたもんな。
ー はぁ。そ、それは良かったです。
ー うふふふふっ。かなりいい出来だから、期待しててっ!
ー あ、はい。それはいいとして。
ー あら、反応薄いわね。
ー だって、もっと大変なことが。女神様は、なんで隣で寝てるんでしょ~?
「だから、可愛い恋人の代わりよ」
「女神様、もっと自分を大切にしましょう」
「あんたが、それ言う?」
女神様のモーニングコールは、リアルモーニングコールでした。
「そんなことより、リュウジ!」
仕方なくベッドから出て支度をする俺を眺めつつ女神様が言った。
「あんた、魔法使いじゃ無くなったみたいよ」
うつぶせで、足ばたつかせて言わないでほしい。
「えっ?」思わず手が止まる。
「ベッドにいるときから感じてたんだけど、神力の流れが正常なのよ」
神力の流れ?
「えっと、それはつまり、魔法共生菌が滅菌されたってことですか?」
「恐らくね」
「な、何でだろう?」
それはつまり、また女神様の純粋な使徒に戻ったってことか。嬉しいような寂しいような。
「私が添い寝してあげたからじゃない?」
女神様は、うつ伏せのままベッドの中から悪戯っぽくにっこり笑って言った。
「何言ってんですか?」
「だって、ゼロメートルで私の神力シャワーを受けたのよ?」
なに?
「神力シャワー? それって後光のことですよね? 後光って神力なんですか?」
「違う違う、神力の周りに広がる神気よ」
神気って言われてもなぁ。
「なるほど、すると後光圏内では魔法共生菌は生息できないと?」
「そうね。神力を食べる生き物だけど、神気が強すぎたのかも?」
食べすぎか? さすがに女神様だな。あれっ?
「けど、一緒にいたとき魔法覚醒した……あ、そうか、今回はフルパワーだからか?」
「そういうことね」女神様、余裕の笑み。
「確かに」
魔法覚醒したときは、神力が枯渇してたもんな。
さすがに今回の女神様はフルパワーだから全然違う。まぁ、理由は確定してないが、たぶん女神様の言うようなことなんだろう。
魔法共生菌の神力を受容するレセプターが焼き切れたとかかな? ゼロメートル神力シャワー半端ないな。
ん? ゼロメートル?
* * *
神界の絵師神が描いたという、女神様の絵は等身大だった。等身大って言い方が正しいかどうかは分からないが。
「なぁ、アリス。アリス達って成長しないよな? 身長伸びたりしないよな?」
地上界で話すときは、なるべく『アリス』と気安く呼ぶことになった。
まぁ、内容的に既にヤバいこと言ってるんだけど。今は、二人でアリスの絵を教会に運んでいるところだ。もちろん、絵は俺が持ってるんだけど。
「なぁに? 私が幼く見えるから、そう言ってんの?」
「いや、幼くはないだろ。十分大人だと思うけど。特にこの世界では」
「そうね~っ。身長伸ばせるかとか姿を変えられるかってことなら、出来るわね」
「そうなんだ」
「でも、私達の姿って、それぞれの理由があるから普通は変えたりしないわね」
「なるほど」
女神像は、作り直す必要はないようだ。いや、「女神像は女神様の成長記録」とかになったら微妙だもんな~っ。
でも、見てみたい気もする。
「アリス、ちゃんと前見ててくれよ。俺、前見えないんだから」
「大丈夫、もうすぐ教会よ。あ、誰か出て来たわ」
そんな俺たちを見つけたらしく、教会から何人かパタパタと走ってきた。
「お手伝いします」
そう言って、若いシスター達が絵をみんなで持ってくれた。
遅れて神父も出て来た。
「リュウジさん、お久しぶりです。これは女神様の絵でしょうか?」
正しくは『女神像のモデルにする絵』ですけど、そういう風に省略すると逆に図星になってます神父。
あ、絵にはもちろん布が掛かってるので中は見えていない。
「はい。やっと完成したので持ってきました」
「それは、すばらしぃ。しかも、モデルの?」
「アリスです」
「失礼、アリス様までご足労いただけたとは真にありがとうございます。あ、私、神父のモートンと申します。よろしくお願いします」
そういって、神父は痛く恐縮した様子だった。
もしかして、さすがに神気とか感じちゃってるのか? っていうか、神父は初対面で何でモデルのアリスって分かったのかな? 美人って言ったから? 石工オットーから何か聞いたかな?
「こちらこそ、よろしく」アリスは、優しく会釈した。
「では、オットーさんも呼んだほうがいいですね。あ、セシル、オットーさんを呼んで来てください」
「はい、神父」
セシルというシスターが、神父の指示により石工のオットーを迎えに行った。
* * *
「な、なんと。……こ、これほどの物をご用意頂けるとは思ってもみませんでした」
教会に運び込んで、とりあえず祭壇に掲げてみたらオーダーメイドしたかのように、ぴったりとハマった。
まるで、この教会がこの絵の為に作られたとでも言うかのように。
あれ? これほんとにオーダーメイドしちゃってる? しかも神様に? アリスを見たら、満足そうにしてるので、たぶんこれ祭壇のサイズ測ってるよ。しっかり教会下見しちゃってるよ。
「素晴らしい。ああ、本当に素晴らしい。あ、ご本人を前にぶしつけでした。しかし、これほどの絵を私はついぞ見たことがありません。これは、このままご本尊として祭壇に掲げましょう。ええ、そうしましょう」
神父、感極まって涙流してるし。
女神本人を絵師神が描いてるからな、貶したりしたら罰当たっちゃうというか、この世界滅ぼされちゃうレベルだし感動するのも当然なんだけど。
当のアリスはそんな神父を微笑ましそうに見ている。
周りでシスターたちも控えるようにしながら見惚れている。あれ? なんで君たちアリスの周りに取り巻きみたいに集まってるのかな? 何人か、お祈り始めちゃってるし。
* * *
「絵が出来たって?」
いつの間にか、ミサみたいな雰囲気になっているところに石工オットーが到着した。
「こ、これは」
オットー、完成した絵を見あげた瞬間、固まってしまった。
「どうだ、オットーっ」
横から声をかけてみた。
「あ、ああ、あんたか、こりゃ、凄いな。こんな絵、見たことねぇ。あ、アリスさん自ら持ってきてくれたんで? そりゃ~、すまねぇ。いや、それにしてもこんな立派な絵を用意されたら、もうこっちも命がけで作るっきゃないってもんでございますです」
石工オットー、ちょっと壊れかけてる。
「ほんとに、重ねてお礼申し上げます。いま、町長と顔役たちも呼んでおりますゆえ、しばらくはこちらでお寛ぎください」
そう言って、神父はいつの間にか用意したクッション付き長椅子へとアリスを誘った。こんな椅子教会にあるんだ。教会って言えばクッションのない木の椅子じゃないんか?
「あら、ありがとう。では、リュウジ」
「ああっ」
それからほどなくして町長と顔役たちが到着したが、やっぱり祭壇を見あげた途端、固まっていた。
確かに女神アリスも凄いんだが、絵師神が気合い入れすぎ。
そんなに、動画が気に入ったのかよ。もしかすると何か神力を込めてるかもしれない。いや、絶対神力関係してるよな? 意識しなくてもそのくらいの効力はあるのかもしれないけど。アリス自身が自慢するほどの出来なので神界的にも完成度が高いんだろう。そんなもの見たら、そりゃ人間はおかしくなるわな。
女神像のモデルにするならオットーの工房に運ぶかと聞いたら、オットー自身が教会に通うと言い出した。恐れ多くて、工房には持っていけないとか。なんか、ほっとくと全員でアリスにお祈りし始めそうなので切りのいいところで帰ることにした。
* * *
帰りしな俺はちょっと反省した。
行きがかり上、気にしてないが、神様にお願いするというのは、こういうことなんだなと改めて思い至った。とはいえ、いまさら変えようにも変えられないんだが。ただ、お願いする内容は十分考えないとヤバいんだとは思った。
ちなみにニーナはといえば、両親ともどもアリスの絵を見た途端気を失った。
いや、本人見るよりショック受けてるのは何故だ? まぁ、本人と絵の両方を間近で見てるんだから、ある意味神様二人に相対したようなもので仕方ないのかも。
ああ、そういや、前回のアリスは神力使い果たしてたからな。今回はフルパワーだ。こりゃまずい。急遽、後光控えるようにお願いした。フルパワーで数メートル以内なんて、後光圏内に入っちゃってるよ。神力シャワー浴びちゃってるよ。
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