6ch\宇宙人がやって来た…。
―【七夕】―
ある日突然、杏南たちは、HKー81で集合して灰色のワゴン車に乗せられた――。僕らは隣町を離れ、何故か車は国道1号線を抜けて西に走り、東山トンネルを目指していた。すぐ脇には、花山洞と呼ばれる自転車と歩行者専用にもなっている薄暗いトンネル。
そこは、言わずと知れた心霊スポットだ。しかも、そのトンネルの南側には昔、京都市中央斎場(旧花山火葬場)があり、旧粟田口刑場も近くにあった場所。当時そこは、約15000人が処刑された事でも有名であり、あの明智光秀も山崎の合戦で坂本城へ逃げ延びようと通った道であったのだ。目の前には、たくさんの色葉が濡れ散り、それを見た杏南は、額やら脇から冷や汗なるものが突然涌き出てきてしまう。
「蓮歌――っ」
「ヤバイ! 杏南たちの火遊びがバレたよ――」
「見つかったら江戸時代の放火は、火あぶりにされるって…」
「この『ト術―』に書いてあるよ――」
しかも、後ろを振り返ると蓮歌と志季も見えない。
「二人も消えた…」
すぐに杏南は、前を見た。そして、じぃ――っとその運転手の襟足の首辺りを見てみた。普通、それは毛根と地肌がくっつく部分。その電車と電車が連結していない。即ち、毛並みに生命力も全く無いのである。ほんとに子供を侮っているとしか思えないほど、浮遊した毛根は杏南に何かを訴えて来た。
「この人は、宇宙人だ…」
そのおっちゃんは、杏南たちを何か騙そうとして振り向かずに前を向いて運転していた。だから、杏南の汗は、下を向いたままでじっとり汗に変わる。杏南の動揺も知らずにそれでも車は、まだ走っていく。その行き着く先は、旧小栗栖街道を南に走り、小栗栖八幡宮を抜けて左を曲がると目の前に沢山の鰯雲が見え、後ろを振り返って覗き見る。すると、姉弟二人は、眠ったまま寝転げ落ちていたのでホッとした。
ほっとしたのもつかの間、杏南たちは、地元を離れてしばらく経っていたので、近くには色々な建物が立ち初めていた。その先に見えてきたのは、本当に大きなUF0が杏南には良く見えていた。
「UFO…だ」
「……」
「宇宙人の仲間は…」
「車を一旦停めてどこ行くんだ?」
―チラッ
「パチンコ…、UF…O」
「?」
「あっ! お母さん」
『今日も勝ったよ――』
――カチャッ――
山の様な景品と元祖モスのテリヤキバーガーを積んだ母親は、人差し指で挟んだ『ト術~』を大事そうに持っていた志季をすぐに抱きしめギュッとした。その様子は、消したテレビ画面越しの反射で見て取れた。蓮歌と杏南は、まだ複雑な気持ちで見れないでいたから、まるで志季が、親のいない雀みたいに、ずっと母親の帰りを待ち望んでチュンチュン鳴き続けている様だった。
いつ会えるかわからない明日をくるくる回して、「ト術~」で表か裏かでその本で占っていた。宇宙人見たいな人が杏南たちとお母さんを会わせてくれた。ようやく、僕らの「小栗栖城の変」は、これで終わりを迎えてくれた。そして、杏南たちの母子家庭生活が始まる。でも何故か、ちょくちょく灰色のバンと宇宙人のおっちゃんと一緒に出掛ける日も日に日に多くなってくる。てか、おっちゃんと市営団地に住むようになる。
何の断りも無く。そして、何の紹介も無く、音を立てずに「すぅ――」と転がりこんで来た。見た目はもちろん、宇宙人だが仕事は内装業。
そら、家に自ずと仕事依頼の電話が鳴る。
―リリリリッ リリリリリッ――
「はい――」
「安倍さんのお宅ですか? お父さんいらっしゃいますか?」
――ミンミンミンミンミーン――
「はい。居ます――。(お父さんでは、ありませんが)」
と、奇妙な生活が始まる。母親は、離婚してから名字を変えなかったし、余り皆は、杏南たちが離婚していたとは知らない。勿論、別れた父親からも何度もリン・リンと電話が鳴るので、母親以外の近くにいる子供が電話を取るハウスルールが出来上がる。「葉子いるか――」って言われるが常であったので、母親は、見られてもいないのにベランダに逃げ込み、 例の顔でしゃがんでセブンスターを一本「ふっー」と吹かし、ため息を付く。
ちらっと横顔を観たことがあるが、あの苦虫を噛んだ様な顔をしていたが、その頃の苦虫と言えば、よく灼熱のアスファルトで裏向いて転がっていた。居るけどいないって言う「居留守」って事だが、 この時、杏南はその意味を自然と占えた。杏南たちは、電話の鳴る音が嫌で嫌でしょうがなく、着信音に過敏に反応していた。それが原因で引っ越して早々に蓮歌と喧嘩になったのだ。志季に貸していた、あの『ト術―』を勝手に読んでいたのを発見した時は、つかみ合いになり、そのまま「払い越し」の状態で蓮歌の左肘を骨折させてしまう。今思えば本当に申し訳無く思うが、あれから蓮歌は、泣いた状態の杏南とは、喧嘩しなくて済む様になる。
―リリリリリリンッ――
―ッン――
今度は、直ぐに電話が切れる――。杏南たちの住む所は、市営団地の五階建て。五階に住んでる方は、毎回五階まで階段を昇るしか道は、無い。杏南たちはと言うと、三階目だから上からを降りたり、一階から上がって来る人もいたりする訳だから、挟まれないように通称「パックマン」だけは、避けなければならない。
その呼び鈴が切れた後は、内装屋の宇宙人が帰ってくる合図だ。こちら側は、鍵を空けスタンバイ。誰にも言えない秘密だ。おっちゃんは、正面からは、決して入らない。彼は、向かいの棟のベランダ側から、杏南たちから見える向こう正面。自棟の自転車置き場との間、一メートルから燕の様に低く入り込み、若草を掴む思いで杏南たちの待つ三階を目指す。勿論、HKー81を被りながら、襟足は自然と燕の尾みたいに羽ばたく。そして、ドアノブを「スチャ」と開ける。そこらへんの「ガチャ」とは、全く別物である。
でも、僕らの生活は、内装業の仕事で養って貰っていたから、そのおっちゃんは、通称「おおちゃん」と呼ばせて貰っていた。そうでもしないと、近くの我こそはおっちゃん達が一斉に杏南たちに振り向く。だから、おっちゃんの「お」にもう一つ敬意を込めて、「お」を付け足して「おおちゃん」って呼ぶ事となり成り始める。あの時はそれが普通の事であり、あの時代では画期的ではあったのだ。あの頃、どんな母子家庭に比べれば、おおちゃんの存在は革命であり燕的に潜り込んでは、活動を習慣的に行っていた。同じでは無いが、有名な革命家では「チェ・ゲバラ」がいる。「チェ」は、主にアルゼンチンやウルグアイ、パラグアイで使われている方言である。「やぁ――」「おい」「ダチ――(親しみを込めた)」呼び掛けの言葉がこれに当たるかもしれない。
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