向き合う君へ

たまの休み。

お腹の空いた君に起こされて目が覚める。

しろくろさんおはよう。

おはようもお休みも、行ってきますもただいまも、言う相手が居る。父が居た頃だってこんなにも言う機会は無かった。だからもう何十年ぶりの事だろう。

この酷く狭い世界から、僕だけが置いてけぼりをされた気でいた。足早に歩く人達にとって、僕は輪の外の人間。いくら苦しくても、悲しくても、助けてと立ち止まっても、うずくまっても人々の目には僕は映っていない。何が便利になろうと、生活しやすくなろうと、こんなにも生きづらいではないか。あの日からただひたすらに歩き続けてきたつもりでいた。前を見て、そう前を見て。でも心の奥の底、気付かない振りをして見ない様にした物、あの日の僕が、悲しいよ、寂しいよ、とどこにも行けず泣いている。あの場所から動けずに、ずっとそこに。

泣きじゃくる彼をあの日に置いてきたのは他でもない、僕。罪が有るのなら彼ではなく、今までの自分。弱い事が罪ではなく、弱さを受け入れ無かった事が罪だった。

見ない振りをしてきた全ての感情。気付か無い振りをして取りこぼしてきた気持ちの数々。

今の僕なら彼を迎えに行けるだろうか。大丈夫だよと手を差し伸べ、一緒に行こうと。

小さな命に出会って、守りたいと思った。愛おしいと思った。

君とあの日の僕を重ねてしまうのは違う事なのかも知れない。

それでも蓋をしていた記憶や感情と向き合う事が出来る様になったのは君のおかげ。

ありがとう。

キャットフードを食べる君を見つめながら考えた。

新鮮なお水を飲みなね。

と、ミネラルウォーターを入れ替えた。

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