第681話 『大日本政府樹立に向けての第二回会議』(1580/10/23)  

 天正九年九月十五日(1580/10/23)  大同盟合議所


「内府殿。つかぬ事をお伺いするが、蝦夷地の蠣崎ならびに奥州の大浦と安東、常陸の佐竹に下野の宇都宮が、小佐々の御家中に服属を申し出て、それをお認めになったというのは誠にござろうか」


 甲斐国の武田勝頼が会議の冒頭に、中央政府の話の前に、と言いたげな口調で発言した。嫌みは感じはしない。ただ、率直に聞いてみたいという感情が表れている。


 合議所の中では中央政府(大日本政府)の樹立に際して、肥前国の小佐々純正、甲斐国の武田勝頼、美濃国の織田信長、三河国の徳川家康、若狭国の浅井長政、能登国の畠山義慶、安房国の里見義重、今回新規加入の羽前国の大宝寺義氏が第2回目の会議を行っていたのだ。


「誠でござる」


 純正の発言に、信長以外の諸大名がざわめく。


「それは……この儀は含むところはござらぬ。ただ聞きたいが為に聞くのであるが、内府殿は先だって、中央政府なるものを打ち立てんと発議された。皆が平等に参政の権を持ち、日ノ本の静謐せいひつのために幕府に代って政を行う、と」


「相違ござらぬ」


「さればお伺いいたす。何ゆえそれらの大名は国として加わるのではなく、小佐々の御家中への服属とあいなったのですか。これでは……言い難き事ではありますが、あまりに御家中の力が強くなりすぎませぬか」


 勝頼は失言しないよう、言葉を考えながら、ゆっくりと返した。


「うべなるかな(なるほど)。大膳大夫殿(勝頼)は、それがしが私利私欲のために服属を受け入れた、他の方々もそうお思いなのでしょうか」


「然に候わず(違います)。決して内府殿を疑う訳ではございませぬ。そうであろう、武田殿?」


 思いもかけず勝頼を擁護したのは家康であった。領土の件もあり、貸しを作っておこうとの魂胆だろうか。いかにも、という勝頼の返事が即座に響く。


「何か心得違い(勘違い)があるようなので申し上げるが……」


 純正は万座を見渡して話し始めた。


「まず、此度こたびの五大名の小佐々への服属の件にござるが、決して小佐々の所領を拡げる事が当て所(目的)ではありませぬ。各大名が自らの所領を持ちながらもわれらに服属することで、勝手向きは無論の事、様々な助けを受けるという仕組みとなります」


 純正は続ける。


「これは毛利や島津らと同じにござる。各領主は自らの領土の独立を保ちながらも、我らの強き助けを受けること能いまする」


「内府殿、それでは小佐々の御家中が中央政府を統べん(支配しよう)との事ではない、ということですか?」


 と勝頼が尋ねた。


「左様。統べんとするならば、そもそも大同盟など組んでおりませぬ」


 純正は笑みを浮かべて答えた。


「仮に、おそらく以後はそうなるとは思うが、今の我らと同じように加盟国が増えていけば、国の強さに関わらず方々のご負担も増えるのですぞ。中央政府を営むには銭がかかります。無論小佐々は多くだしますが、街道の整備や諸々の事、中央政府としてせねばならぬ事は山ほどあるのです」


 全員が黙って聞いている。


「さればこそ、いったん我が家中として迎え、その上で小佐々として中央政府に参画すれば、方々の懐はあまりいたまぬのではありませぬか?」


 家康が静かに言葉を継いだ。


「内府殿の仰せの儀は解せまする(理解できる)。されどそれでは、中央政府を設くるのが進まぬのではないかと、危ぶむ者もおりましょう」


「何ゆえ進まぬのですか?」


 純正は問う。


「それは……五大名が小佐々の御家中に服す事で、天子様のもと中央政府を頂とした、何人にも支配されぬ御政道の権が失われるのではないかと懸念する者がいるのです」


 家康は慎重に答えた。


「中央政府としての権とは?」


 純正が返す。家康は少し間を置いて言葉を選んだ。


「すなわち、五大名が小佐々の御家中に服することで、中央政府は小佐々御家中が統ぶ(支配する)仕組みとなるのではないか、という懸念にござる」


 なんだ、勝頼が言う事と同じではないか。そう純正は思った。


「うべなるかな(なるほど)。その儀は確かに計らうべき題目にございますな」


 純正は一同に向けて説明を続けた。


「されど此度の服属は、五大名が自らの領地と独立を保ちながらも、小佐々の助力を受ける事にござる。これは一時の助力であり、中央政府の権を損なうものでも、小佐々が政府を統ぶ事でもござらぬ」


 信長が口を開いた。


「その助力が一時のものであれば、中央政府がしかと設けられた後は如何いかがあいなるでござろうか。各大名は再び独立し、中央政府の一員として動くのであろうか?」


 純正はうなずいた。


「然に候。しかと設けられ、定まりてつつがなく営めるようになったみぎりには、参画することになりましょう」


 純正にとってはどっちでも良かったのだ。今回の五大名の服属は棚からぼた餅のような物であったし、あってもなくても小佐々家の屋台骨は揺るがない。


 五大名が織田や武田と同じようにここにいても、変わらないのだ。


 それにもし、他が小佐々配下の大名を独立させて参加させようと企んだなら、織田も武田も徳川も浅井も、全部バラバラにしないと道理にあわない。


 現状、そんな事を言ってくる大名がいるとは考えられない。そう純正は考えたのだ。


 勝頼が再び口を開く。


「されど何ゆえ、かように小佐々御家中が助力なされるのですか? 何か裏にあるのではと疑う者もいるでしょう」


 最初といい今回といい、かなり突っ込んだ質問だ。それでも純正は表情をかえず毅然きぜんとして答えた。


「我らが助力いたすのは、日ノ本すべての静謐を願ってのことです。それがしが発起人である以上、また小佐々がもっとも広き所領ゆえ、もっとも多く助力いたすのは、物事の道理にございましょう」


 長政が頷きながら言った。


「うべなるかな。方々、そろそろこの儀はよいのではないでしょうか。我ら家中に益はあっても害はなしにございましょう」


「まさしくその通りです」


 純正は再度、万座を見渡して締めくくった。





「ああそれから大膳大夫殿、上杉はいかが相成りましたかな?」





 次回 第682話 (仮)『上杉家の処遇と新しい政庁』

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