第667話 『磯根崎沖海戦』(1579/4/30) 

 天正八年四月五日(1579/4/30) 未一つ刻(1300) 上総竹岡湊沖~磯根崎沖


「艦橋-見張り」


「はい艦橋」


「右六十度、距離三○(3km・海軍ではメートル法基準)、小舟多数。南に向かっている」


 見張りの報告を受けた艦長をはじめとした参謀、司令官は一斉に双眼鏡をのぞき込んで確認する。


「北条艦隊ではないな。となると里見水軍か」


 戦隊司令官がそうつぶやくと、参謀が続いて答える。


「は。やはり敵の狙いは佐貫城で、上陸する敵を迎え撃とうと北上したところ、返り討ちにあったのではないかと」


「うむ。憶測で判断はできぬが、おそらくそうであろうな」


「艦橋-見張り」


 再び見張りから報告が入る。


「右四十五度、城のようなもの。煙が見える」


 佐貫城である。


「前方、距離四○、軍艦多数、北条紋を認む!」


 やはり先ほどの船団は潰走する里見水軍であった。


「全艦戦闘用意! 取り舵四十五度、敵の西側、風上に回って一気に殲滅せんめつする!」


 司令官の号令とともに全艦が戦闘準備を行い前方の北条海軍へ向かっていく。





「艦橋-見張り、敵、右45度、距離三○(3,000m)、こちらに気づいたようです!」

 

 見張りの報告を受け、司令官は素早く次の命令を下す。

 

「距離をつめつつ前進! 射程にはいったら撃つ! 右砲戦用意!」

 

 第四十三軽巡戦隊以下、四十四、四十五水雷戦隊は北条海軍に向けて速力をあげて進む。双方の距離が縮まるにつれ、北条海軍の艦影は大きくなっていく。

 

「敵、撃ってきました!」

 

 2,000mをきったところで北条海軍の先制砲撃が始まった。水柱が至る所に上がるが、まだ小佐々艦隊には届かない。


「もの凄い砲撃の雨あられですな。あれが当たればたまりませんな!」


 操艦している艦長が人ごとのように言う。マニラ沖海戦の生き残りで、赤煉瓦れんが(陸上勤務)など経験したことが無い様な男だ。


 艦艇に搭載している舷側砲は仰角がない。あったとしても遠くへ飛びはするが当たらないのだ。小佐々海軍でも以前曲射で艦隊戦を行い、マニラ沖で痛手を負った。


 現在の艦艇には、以前と同じように仰角をとれる改良を加えているが、艦隊戦では使わない。射撃管制装置でもなければ無理であるし、丸い弾丸ならなおさら命中率が低い。

 

「前進を続けよ!」

 

「被弾! 前甲板に命中!」

 

 一発の流れ弾とでも言うべき砲弾が、旗艦の前甲板に直撃したが、大事には至っていない。1,000mを切り、いよいよ射程に入った。司令官が大声で叫ぶ。

 

「撃ち――方はじめ!」

 

 小佐々分遣艦隊は北条海軍の右舷側に回り込み、砲撃態勢を整える。完全に風上を捉えた。各艦の右舷砲門が一斉に開かれる。砲手たちが敵艦に向け、狙いを定める。

 

「撃ち方用意!」

 

 全砲の準備が整ったのを確認し、砲術長が大声で叫ぶ。

 

「てぇ!」

 

 ごう音とともに、艦隊の右舷から一斉射が放たれる。精度の高い砲弾が次々と北条艦隊の艦に命中し、帆や船体に損傷を与えていく。命中弾を確認した司令官は、間髪入れずに次の射撃を命じる。

 

「撃て!」

 

 二回目の斉射が北条艦隊を襲う。船体の被害状況が、逐次見張りからあがってくるのだ。三回、四回と砲撃は続く。そのたびに北条海軍からも応戦の砲撃が放たれるが、届かない。


 徐々に砲撃の数が減り、音も消えていった。

 

「敵艦、マストの折れを多数確認! 航行不能と思われます! 北条紋を下ろしました! 白旗掲揚! 旗艦降伏!」

 

 見張りから北条海軍旗艦の降伏が報告され、次々に他の艦も同様に降伏していく。

 

「撃ち方、止め!」

 

 完勝といえる勝利である。小佐々海軍はアウトレンジの戦法を主としてきたが、ここで大砲の性能・精度による砲撃でのアウトレンジでの勝利が確定したのである。


「よし、海上の敵は降伏させた。されど上陸した敵はまだ健在である」

 

 司令官は双眼鏡で海岸線を見つめる。佐貫城の北条軍はまだ城攻めの途中のようだ。しかし、今ここで佐貫城を落としたところで意味はない。すでに帰るべき船はなく、周りは敵ばかりである。

 

「全艦、海兵隊に上陸の準備をさせよ。まずは偵察小隊をもって敵軍に降伏の使者として赴くのだ」

 

「はは!」


 海兵隊の偵察小隊が小舟を準備して上陸を始める。


「よし、第四十五水雷戦隊の駆逐艦は小田原沖の艦隊司令部へ伝令に行くのだ。我敵を降伏させり、と」


「はは」





 ■佐貫城包囲軍


「申し上げます! お味方船手衆、降伏にございます! お味方船手衆、降伏にございます!」


「なんだと! そんな馬鹿な! わが北条の全水軍が敗れたというのか? まさか里見ではあるまい? 里見は蜘蛛の子を散らすように逃げていったのだぞ!」


 沿岸に配置してあった守備兵からの報告に、攻城軍の大将は耳を疑った。


「里見ではありませぬ! ……」


「……まさか! 小佐々か? なぜ小佐々が? しかもかように早く参陣するとは!」


「わかりませぬ。然れど敵軍より使者が参り、降るように申しております」


 大将は愕然がくぜんとした。今の今までの優勢は何だったのじゃ? わが軍は兵5千をもって城を攻め、いま城は落ちんとしておったのではないか?


「敵の上陸兵力はいかほどか?」


「わかりませぬ。敵はまず少数の兵を上陸させ、こちらの出方をうかがっているかと思われます」


「敵の兵力はわからぬか……」


 小佐々艦隊は海兵隊の全軍を上陸させるのではなく、用心のために、まずは偵察小隊ほどの兵を上陸させ、北条軍の出方を窺ったのだ。


「……」



 


 ■小田原城沖 第四艦隊 旗艦


「申し上げます! 第四十五水雷戦隊より報告! 別動隊、敵艦隊を殲滅拿捕せんめつだほにございます。現在、佐貫城攻城軍を降伏させるべく、海兵隊の偵察小隊を上陸させております」


「うむ、重畳ちょうじょう重畳……さて、これからこちらも仕事をするか」


 そう言って玄雅は、まずは先触れとして小田原城に使者を遣り、自らが軍使として赴く事となった。





 ■小田原城


「申し上げます。先触れが参り、小佐々海軍の将、五島孫次郎殿、殿にお目通りを願っております」


「なに? 小佐々の?」


 氏政は嫌な予感がした。





 次回 第668話 (仮)『小田原城の北条氏政と椎津城と佐貫城』


 








 -政務・研究・開発状況-


 戦略会議室

  ・明国とは現状維持を図り、女真族との友好路線を継続。東南アジアにおいては再度のスペインの侵攻に備える。国内では既存地域の殖産興業と北方資源開拓。奥州諸大名の大同盟参加と、北条の孤立化を図る。


 財務省

  ・税制改革ならびに税収増加を計画。

 

 陸軍省

  ・8個師団体制と練度の向上。

  ・歩兵用迫撃砲(小型の臼砲の開発)、砲弾の研究。

 

 海軍省

  ・8個艦隊体制と練度の向上。

  ・南遣艦隊による東南アジア全域の視察と警備。


 司法省

  ・小佐々諸法度の拡充と流刑地の選別と拡充。


 外務省

  ・ポルトガル本国、アフリカ、インドや東南アジア諸国に大使館と領事館を設置。入植の促進と政庁の設置。呂宋総督府の設置。


 内務省

  ・戸籍の徹底。


  ・天測暦、天測計算表の出版。


 文部省 

  ・純アルメイダ大学、アルメイダ医学校の増設(佐賀は完了。筑前立花山城下を検討中)。


 科学技術省 

  ・製鉄技術の改良と向上

   

  ・蒸気機関を用いた艦艇、輸送機関の開発。


  ・雷管(雷こう)の研究開発。


 農林水産省 

  ・米の増産と商品作物の栽培育成。飢饉ききん時の対応として、芋類の栽培推奨と備蓄。


 情報省

  ・国内(領内・領外)、国外の諜報網の拡充、現地住民の言語習得と訓練等。

 

 経済産業省

  ・領内の物価の安定と、東南アジア諸国の産物の国内流通と加工等。


 国土交通省

  ・領内の街道整備と線路の拡充。港湾整備。


  ・地図、海図の作成。


 厚生労働省

  ・公衆衛生の意識と環境の向上。浴場の設置。農水省と協力して食糧事情の改善と、肉食の推奨による栄養バランスの向上を図り病気の予防。


  ・疫病発生時の対応マニュアルの作成。

 

 通信省

  ・飛脚等、官営から民営化を図る。駅馬車、乗合馬車等の民営化。


 領土安全保障省

  ・他国からの入領者に身分証明書の提示と、疑いのある場合は身体検査を行う。港では乗員名簿の提出と検査の徹底。大同盟諸国に対しては、身分証明書の発行を依頼。


  ・特定の人物に関しては、人権を損ねない範囲で監視を行う。

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